「地獄への道は善意で舗装されている」は誰の言葉か(その3)

地獄への道は善意で舗装されている」の起源には以下の説があります。

  1. レーニン
  2. マルクス資本論
  3. サミュエル・ジョンソン(ジェイムズ・ボズウェル著「サミュエル・ジョンソン伝」)
  4. ダンテの神曲

これまで確認できたこと

レーニンはひとまず置いておいて、マルクス資本論の第1巻第3編第5章第2節でこの言葉を使っています。詳しくはこちらを参照して貰うとして、この資本論の第一巻が発行された年がポイントです。Wikipadiaによると発行されたのは1867年であり、レーニンが生まれたのが1870年なので、レーニンの著作でいくらこの言葉が出てきてもそれが起源と言うことはあり得ません。
サミュエル・ジョンソンという人は1709年生まれなので記述が確認できれば、起源となるのですが、Wikipediaにもありますが彼が残した言葉は「Hell is paved with good intentions. - 地獄は善意で敷き詰められている。」であり、「地獄への道は〜」ではありません。
ダンテは1265年生まれであり、記述が残っていればやはり起源となるのですが、こちらで確認したように記述は見つかりませんでした。


以上から、この言葉の起源はマルクス資本論だと思っていました。ところがGoogle Book Searchで確認したところ、起源は上記のどれでもないことが分かりました。

Google Book Searchで確認

Google Book Searchは日本語版はまだ提供されていませんが、英語版はサービスが開始されていて、今も超ハイペースで本のスキャニングが行われています。その辺の事情は青空文庫の富田さんの話(第三章)を聞いて貰えば分かると思います。
それを使えば、この言葉の起源も明確になると考えました。
地獄への道は善意で舗装されている」の原文は「The road to hell is paved with good intentions」です。
Google Book Searchの検索窓右側にある"Advanced Book Search"を使えば、検索範囲(何年〜何年まで)や著者などを指定して検索できます。
念のため、マルクスレーニンで検索してヒットすることを確認しました。
また、ジェイムズ・ボズウェル(James Boswell)の著書が「The road to hell is paved with good intentions」でヒットせず、「Hell is paved with good intentions」でヒットすることを確認しました。
ここまでは、想定内だったのですが、念のために、マルクス資本論の発行年である1867年以前で「The road to hell is paved with good intentions」を検索したら、いくつかヒットしてしまいました。
もっとも古いのが1850年発行の「Notes and Queries」。これは問答集なのでしょうか。複数の著者が書かれています。残念ながら中身を見ることはできないので、どういう風に書かれているのかは分かりません。
その次に古いのは1855年発行の「On the Lessons in Proverbs」、訳すと「ことわざ集」みたいな感じでしょうか。サブタイトルが「Being the Substance of Lectures Delivered to Young Men's Societies at Portsmouth and Elsewhere」となっており、若者向けの啓蒙書のようです。
こちらはPDFをダウンロードできるのですが、文字列検索はできません。画像データだけしかダウンロードできないようです。(WEBで見ることができるのでダウンロードする必要もありませんが。)
この言葉が掲載されているページを見てもやはりことわざを羅列してコメントを書いているだけの文書のように見えます。
これらの本の「The road to hell is paved with good intentions」に対する扱いを見る限り、本が出版された1800年頃には「一般的なことわざ」として定着していたように思われます。やはり、この言葉の起源としては、「ヨーロッパのことわざ」が適切なのかも知れません。
マルクスレーニンの著書は、著明な引用例となるのでしょう。