北海道農業育成担い手育成センターと農業体験募集サイトいろいろ

はてブ経由でこれは酷いと思うような記事を見つけ、色々調べてみた。

「私は農業を体験しに来ただけで、お嫁さんに来たわけじゃない」―農業体験実習生募集の広告を見て大阪から北海道までやって来た女性が、受け入れ先から屈辱的な仕打ちを受け、心に深い傷を負ったまま帰って行った。「農業体験実習」と「農村花嫁」とでは明らかに中身が違うはず。誤解を生じさせる表現で都会の女性を集め、なかば強引に嫁入りを迫るやり方は、人権を踏みにじる、心の詐欺ではないか。

http://www.h-keizai.com/article-2007-02/p078-kokuhaku.html

記事からは「北海道上川支庁管内にある人口5000人台の町。」としか書かれておらず町名は分からないようになっていたが、「農業を体験して新しい自分を見つけてみませんか」をググると北海道上川支庁管内にある人口5000人台の町、美深町が見つかる。記事中の募集案内とこの町の募集案内の文言がほとんど同じことから、記事に書かれている町は美深町に間違いなさそうだ。また、記事中で町内の温泉がでてくるが、美深町にもhttp://www.town.bifuka.hokkaido.jp/web/PD_Cont.nsf/0/B2F421E6FA894160492571030020741E?OpenDocumentがある。
美深町のこのやり方は全く持って酷い話なのだが、こういう事をするにも理由がある。北海道教育大学 旭川校にある美深町レポート(pdf)によると人口は典型的な右肩下がりになっている。2005年の人口約6000人は1947年の半分程度に過ぎない。恐らく、人口減少、少子高齢化は非常にせっぱつまった問題になっているのだろう。
もちろん、だからといって記事のようなことをして良い理由にはならない。ましてや開き直りとも思えるような「想像力が薄いあなたの方が悪い」という言い分は論外だろう。募集案内をみても「20歳〜40歳までの独身男女(学生不可)」とあるし、花嫁募集を匂わせる文言はなかった。唯一気になったのは美深町農業体験実習申込書に以下の項目があったことぐらいだった。

家族構成      ○○人家族 (家族構成:         )

農業体験実習を申し込むのになぜ家族構成を記入する必要があるのか?これが花嫁候補募集と分かっていれば合点がいく。

社団法人 北海道農業担い手育成センター

ここで一つの疑問が沸く。こういったことが行われているのはこの美深町だけなのだろうか。この町と同じ悩みを抱えている自治体は多いだろうから、他にあってもおかしくない。美深町の募集サイトを探す課程でor.jpを見つけたことから、or.jpという団体の存在を知る。また、この団体はメルマガ担センのメルマガ - メルマ!も発行していた。このメルマガは、

担センのメルマガ
北海道農業担い手育成センターが発行する北海道で新規就農や農村・農作業体験するためのメールマガジンです。

だそうだが、農作業体験の募集も書かれており、その中のいくつかを調べてみた。

新冠町(にいかっぷちょう)

or.jpにある応募資格にまず驚く。

1 応募資格
  20〜40歳位までの独身女性(学生は不可) 未経験者大歓迎

「農業体験実習生募集中!!」と独身女性とどういう関係があるのだろうか。こういうところで「想像力」を働かせる必要があるのだろう。

4 宿泊先
  受入実績のある農家にステイ。全室個室。

この文言から”男所帯に鍵のない部屋での生活”というのを想像しないと「想像力が薄い」と後から責められることになると思われる。
さらにオフィシャルサイト北海道新冠町産業後継者育成推進協議会にも色々書かれている。(トップページの点滅はなんとかならないのだろうか)まず、トップページには大きな字で「農業体験実習生募集!!」と書いてあるが、このオフィシャルサイトのアドレスには「www.koukeisya-niikappu.jp/」→「後継者-新冠」とヒント(?)が隠されている。

日々の生活の中で
寝食を共にする実習が多いので、家族の一員となった気持ちで溶け込む努力が必要です。

◎農家生活を体験する貴重な機会ですので、食事の支度調理の方法、農家・北海道ならではの家事作業も大事な実習の一つです。

http://www.koukeisya-niikappu.jp/MITISUJI-2.htm

オフィシャルサイトの中にはヒントというよりストレートな表現もある。「寝食を共にする実習」とか「家族の一員」とか冒頭の記事を読んだ後だと、いろいろ考えさせられてしまう。こういうのを読むと研修が終わった時には立派な家族の一員になっていたとしても不思議じゃない気もする。もちろん、この町が冒頭記事のような酷いことが行われている証拠は何もないので、実習を受けようと思っている人は事前に事務局に研修の主旨を問い合わせるのが良いと思う。

新得町(しんとくちょう)

この町の募集案内or.jpによると募集対象が独身女性のみだったので、てっきり冒頭記事のような話かと思ったがオフィシャルサイトを見ると様子が違う。
女性専用農業体験施設 新得町立レディースファームスクール
まず、受け入れ農家への住み込みではなくスクール(学校)の体裁を取っていること。学校と言っても別に資格が貰えるわけではないだろうが、バストイレ付きの個室(13畳)が確保できる寮が用意されていることや、何より同じ目的を持った仲間がいることは心強いと思う。また、10年以上の実績があるのも安心できる。
もちろん、町がこれだけの受け入れ体制を整えるには、研修終了後に町に残って欲しいという期待があるのは確かだろうが冒頭記事のようにワナに引っかけるのではなく、研修生の意向を尊重する形で町としてできるだけのことをするという体制は良いと思う。というかこれが普通なのかも知れないが。

■スクール修了後の状況(H19.3月現在)

長期修了生(11期生まで)100人のうち

新得町内農業関係に就職・・・22人
新得町内農業以外で在住・・・ 9人
新得町外農業関係に就職・・・20人
新得町外農業以外・・・・・・49人

http://www.town.shintoku.hokkaido.jp/03_Nourin/lfs/lfs_top.asp

トップページには研修生の実績が公開されているが、こういうオープンな姿勢には好感が持てる。冒頭記事の被害者の池田さんもこういうところなら満足できる研修生活が送れたのかもしれない。

最後に

農業体験といってもその内容は場所によって内容に雲泥の差があるらしい。都会での生活にうんざりして田舎での生活にあこがれる人が結構いるという話は、良く聞く。しかし、田舎の現状をよく考えた上で行動する必要があると思う。今はネットがありちょっと調べただけでいろいろなことが分かるのだから、今は自己防衛するしかないのだろう。

自治体の上部機関である支庁も「自治体のやっていることで、それぞれの判断に委ねるしかない」と指導に乗り出す考えはないようだが、いかに後継者不足の農村であったとしても、誤解を招きやすい表現で「花嫁募集」を行うことは許しがたい行為だ。

http://www.h-keizai.com/article-2007-02/p078-kokuhaku.html

支庁は自治体の判断に任せるしかないと言っているが、そんな他人事のような態度で良いのだろうか。今回、北海道農業担い手育成センターという団体の存在を知ったが、長期的な北海道の農業振興を考えるのであれば、冒頭記事のような詐欺まがいの募集の片棒を担ぐだけでなく、間違ったやり方に対して改善させる必要があるのではないのか。「北海道(ほっかいどう)」はある意味、一つのブランドと言えるが、それが今回のような事件で傷つくと、北海道全体の損失になってしまうのだから。