「Jコミ」が普及した世界を考えてみた

絶版となった本を広告モデルでネット配布するサービス「Jコミ」はベータ版ながら順調なようです。ようやくネットに合ったサービスが提供された感じがしたので、このサービスがこのまま普及した世界について考えてみました。

著作権

以前、日本でも保護期間を著者の死後50年から70年に延長する議論があり、ネットで話題になっていました。その時、延長支持派の椎名和夫委員は次のような話をされていました。

著作者というのは著作権で食うわけです。自分が創作をするメンタリティとは全く別に,年末に源泉徴収票をもらって,「あ,これだけもらったんだ。」というちょっとどぎまぎしたところがあるわけですけれども,要は食いぶちの話をしているのです。自分の食いぶちの話をしている。

この時の著作権延長の議論は著者の死後50〜70年後の話なのですが、なぜ自分の食いぶちの話を持ち出すのか分かりませんでした。驚いたことにこの会議で発言される著作者の方は皆、延長に賛成のようでした。(好きな本を守るためにできること - うつせみ日記 (Utsusemi Nikki)


こういう著作権保護期間は長ければ長い方が著作者のためと考えている人が少なからずいるようです。でも、ぜひとも赤松さんのように現実を見て欲しい。著作権で保護されていても、印刷されず、売れなければ、一銭も入ってこないのだから。

例えばある出版社と作家が出版契約を結んでいて、「あの作品は絶版になったんですか?」と出版社に聞くと、「いや絶版にはなっていない」と言う。「じゃあ刷ってくれるんですか?」と聞いたら、「いや刷りません」と。

週刊誌で連載を持てる漫画家はほんの一部の人だけだと思う。さらにアニメ化となると更に数は少なくなる。そんな漫画でさえ10年程度で売れなくなってしまう。

ラブひなについては、しばらく重版が掛かっていない状態でした

だから、「販売中だが重版がかかっていない」中途半端な状態から「絶版」にしてもらい、広告モデルでネットで販売するという赤松さんの考えはとても合理的だと思います。でも、これは酷く残酷な仕組みでもあるような気がします。なぜなら、読まれる作品とそうじゃない作品の差が明確に出るからです。ただ、そうやって現実が見えてくれば、死後50年後という想像すらできない先のことなど、どうでも良くなるのではないでしょうか。数年程度でほとんどの作品の商品価値がなくなるという現実が見えてくることで、荒唐無稽な著作権延長問題は解決すると思います。


新刊や週刊誌、雑誌、新聞など

10年以上前のほとんどの漫画が無料でダウンロードできるようになったなら、非常に悔しいと思います。自分が子どもだった時に、そんな環境だったなら一日中、漫画ばかり読んでいたかも知れません。そうやって子どもを漫画に親しませて、漫画ファンを作ることが、赤松さんの戦略なのでしょう。
でも、昔の本が広告モデルで、さらにその広告収入の100%が著作者に還元できるなら、新刊でできない理由はないでしょう。赤松さんが実績を示すことで、それを真似する人達が現れて、何人かは成功するような気がします。その時、今のように紙専用の週刊誌や月刊誌、コミックが残っているかは非常に疑問です。
雑誌や新聞は、購読料以外に広告で収入を得ていますが、ネットのクリック保証型広告のように目に見える効果がないために広告費はネットに奪われるでしょう。紙をpdf化しただけの電子書籍も売れないでしょう。


小説

文章がメインの本の場合は、作家はテキストのデータしか持っておらず、版のデータを持っているのは出版社や製版所なのですが、作家側が「この版の全データが欲しい」と言ってきても、出版社や製版所に渡す義務はありません。

小説は漫画と違って作家は本の著作権の全てを持っている訳ではないそうです。なので、単純ではないでしょうが、やはり昔の本はネットで公開されることになると思います。


漫画喫茶やブックオフ

この辺は経営危機に陥りそうです。

  • 古い本:ネットで無料で読める
  • 新刊:電子書籍

こんな状況になったら、今の商売は続けていけません。でも、漫画喫茶はネットカフェとして、ブックオフはリサイクルショップとしてやっていけるのかも知れません。

図書館

図書館で本が読まれても著者の収入にはなりません。やはり、大規模なものを除いて、数が減っていくと思います。電話ボックスも携帯電話の普及で数が減りましたが、法律で設置密度が決められている(市街地なら500㎡に1台など)ため無闇に撤去できないようです(Wikipedia)。図書館も同じような話になるのかも知れません。


書店

書店で本が売れれば、著者の収入になります。でも、かさばる上に不便で高価な紙の本と、便利で安価で消えず広告のない電子書籍なら、自分は後者を選びます。そういう人が増えたら、紙と電子書籍の差はより開いていくでしょうから、いずれは書店から本がなくなる、と思います。