国民皆保険という幻想

12月3日のNHKスペシャルは、「もう医者にかかれない 〜ゆきづまる国民健康保険〜」というタイトルで国民健康保険についてのドキュメンタリーだった。自分も健康保険に加入しているが仕組みが難しく医療費の3割のみを自己負担すれば良い制度ぐらいにしか認識していなかった。
(以下、「→」は私の所感。)

NHKスペシャル|もう医者にかかれない 〜ゆきづまる国民健康保険〜(仮)
NHK生活食料番組には、国民健康保険を支払えないとか保険証を取り上げられたため病院に行けないという悩みや相談が多数寄せられているという。今回の特集では、NHKアナウンサーの堀尾さんが、手紙を寄せた人の中から2人の方を取材している。1人は福岡市在住の大谷昭示さん(71)の夫婦で、保険料が昨年291,000円だったのが、今年は422,500円になり131,500円と大幅に値上げされているという。新しい保険料は税制改正のため年金約400万円から算出されたとのこと。
昭示さん曰く「こんなに酷い、馬鹿にしたことはない。」「実際に生活がやっていけるかどうか。結局それだけの分をどっか、切り詰めないといけない。」「その辺の見当も付かない」
また、昭示さんの奥さん曰く「大変だね。大変、大きな病気になったりしたらね。」「入院でもしたら、破産だ。」
→これについては2chで批判が多かったらしい。
 ・NHKスペシャル〜もう医者にかかれない(´・ω・`)
 なぜこの方を取材対象に選んだのか疑問。
また、もう一人の方は、左官の仕事(壁を塗る職人)をする山下さん。年間5万円の保険料が支払えず、保険証が3月で期限切れ。ヘルニアで腸が飛び出している。医者からは腸閉塞の危険性があり、手術が必要と言われているが、保険証が切れてからは病院に行けず、サポーターで押さえている。山下さん曰く「痛み出すと仕事ができない。」。9年前に元請け会社が突然倒産し、大きな借金を抱えてしまった。収入は生活費や借金の返済で消えてしまう。なお、上記2chで「スーファミ」とか書かれていたが、確かにスーパーファミコンが写っていた。カセットはストII Turboの様だ。
そのほか、大量に下血して緊急入院された男性の方も紹介されていた。奥さんが市役所に保険証を発行して貰うように依頼したが、貰えたのは保険証ではなく一時的に医療費10割負担となる「資格証明書」だった。夫婦の収入は月に10万円程度のためとても10割負担は無理とのこと。


番組のナレーションで「国は1年以上の滞納者に対し資格証明書を発行することを厳しく要求しています。」と言っていた。
 →同時に映されている国の文書「収納対策緊急プランの策定等について」は「資格証明書の発行に努める」と書かれており、実際には国はそれほど強く要求してないように見える。これは番組による国の「酷い施策」という誘導ではないのか。


福岡市の保険料収納率は、去年86%。国保の赤字は60億円に達した。職員が滞納者に請求に行くシーンでは、玄関に大理石が使われている高級マンションの住人とのやり取りがあった。


国民健康保険の分類>
 国保:自営業、退職者
 健保:大企業の従業員
 政管健保:中小企業の従業員
 共済組合:公務員、教員
 健康保険といっても資金の管理は複数の団体に分かれており、運用の厳しい国保は他の団体も含めた一元管理を望んでいるが、他の団体は負担が増えるので嫌がっているとのこと。


国保の内訳の変化>
 昭和40年:農林水産業(42.1%)、自営業(25.4%)、アルバイト(19.5%)、退職者失業者(6.6%)
 平成14年:農林水産業(4.9%)、自営業(17.3%)、アルバイト(24.1%)、退職者失業者(51.0%)
 国保は以前は農林水産業の割合が多かったが、今は収入の少ない退職者や失業者が半分を占めている。


国保の場合、以前は国庫負担は45%、自己負担は30%、保険料25%だった。
昭和59年の医療保険制度の見直しにより国庫負担は38%となり、ほとんどの自治体は保険料を値上げした。


厚生労働省の主張は以下の通り。
国民健康保険課 課長補佐 土佐和男さんが登場。
土佐さん「国民健康保険は、医療保険制度であり負担した人だけ給付がある。」
堀尾さん「参加できない場合もあるじゃないですか。期間的にも、生活レベルも含めて、そう言う人達は国が手厚く補助するよと、セーフティーネットを掛けてあげるよ、というのが国民健康保険のイメージですよ。」
土佐さん「あくまでお金が全然払えない人は対象にしていないんですよ。」
(唖然とした表情の堀尾さん)
土佐さん「もともとみんなの助け合いの制度が医療保険制度です。」
(思い悩み考え込む堀尾さん)
→私は厚生労働省の言うことが正しいと思うが、番組としては「弱者の味方のNHKアナウンサーと人情の欠ける国の担当者」という構図を演出したいらしい。


このあと、「保険料が払えない様な人は生活保護の対象者」という土佐さんの説明に対し、生活保護を受けるまでも無い人はどうすればよいのかと質問すると、調査するしかないという回答。その後、とても調査の手が回らない職員の現状を紹介。


堀尾さんのまとめは次の通り。
「この取材を通して私が感じたことは国民健康保険は行き詰まっていると言うことです。」
→そんなことは皆知っていると思う。また、国民健康保険ができた当初からこうなることは分かっていたのでは。
「その立て直しには、国が強調するそれぞれの自治体の自助努力ではできるものではありません。」
→これは、その通り。
「今こそ国が強いリーダーシップを発揮して制度そのものを見直す必要があると思うんですね。」
→本当にそう思っているのなら代案を出すべきでは?番組で紹介した2案はあくまで延命策でしかないだろうし。抜本策は思いつかない、もしくは分かっていても言うと国民から批判されるからNHKとしてはいわないだけなのでは。で、「国を悪者」にしておけば良いと。
「この国民健康保険の目的は、そもそも何だったのか。それは、経済的に弱い人にも、必要な医療の保証をすることだったはずです。社会の格差がどんどん広がっている今こそ、その原点を決して忘れないで欲しいと思います。」
国民健康保険の目的とは本当にそうなのか。
 ・国民健康保険法(総務省法令データ提供システム)

第一章第一条  この法律は、国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もつて社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする。

法律の目的を読む限り、国民健康保険とはまず事業であり、国民の健康を補助/支援することはあっても、決して保証するものではない。保険料システムを採用している時点で、「保証」はあり得ないはずだと思うが。


福岡市のその後について。
保険料の値上げに苦しむ高齢者達が市役所を訪れ、市に抗議する。特に説明は無かったが、年金400万円を貰いながらも保険料の値上げに苦しむ大谷さんも先頭を歩いていた。
市は、方針を変えて、国が奨める資格証明書の発行はひかえ、代わりに少しでも保険料を支払って貰えば有効期間の短い保険証を出すとのこと。理由は資格証明書を発行しても収納率は上がらなかったため。
ナレーション「滞納者の事情を良く聞き、できるだけ保険証を渡す。国保から脱落する人を少しでも減らすための、苦肉の策でした。福岡市は国と違う道を選択したのです。」


病院に行けなかった山下さんは再び市役所を訪れ、(1円も払うことなく?)短期の保険証を貰うことができた。短期と言いながら、今後、保険料を払えば無期限に使えるらしい。
→これは保険システムとしては破綻している。民間の生命保険などは契約した掛け金に応じて保険金が支払われる。もし、掛け金が支払われなければ、当然、保険金も下りない。福岡市の対応は病気になった時だけ保険料を支払えば保険金を支払うと言っているようなものだ。きちんの保険料を払っている人がいる一方で、病気の時だけ払う人がいて、両者とも同じサービスを受けるのはどう考えても不公平だと思う。将に正直者が馬鹿を見る見本だろう。当然、今まで保険料を支払っていた人が払わなくなることも増えると思う。やがて訪れるそのツケは福岡市民がかぶることになる。

番組を観て思ったこととか

だれが最初に言ったのか知らないが「国民皆保険」という言葉がまずい。今はこれが権利なのか有償サービスなのか曖昧になっているのだと思う。有償サービスなら保険料を払った人だけが割安の医療サービスを受けられるようにすべきだし、名前の通り全ての国民が割安の医療サービスを受けられるようにするのであれば、税金でおこなうべきだろう。もちろん有償サービスにするなら、保険料を払えない人は医療費10割負担となる。本当に支払えないなら生活保護を受けるべきなのだろう。今は生活保護を受けるべき人が受けられない問題があると思うが、それは生活保護サービスの問題なのだから、国民健康保険の議論とは分けて考えるしかない。

職業・年齢等に応じた医療保険制度

国民皆保険」と言って全国民が医療の2〜3割負担で済むと言いながら、現実には上記の「保険者」が政府(社会保険庁)、健康保険組合、各種共済組合、市(区)町村と分かれている。夕張市の例もあり、最近、TVでも赤字の多い自治体の報道があるが、保険支出が多い/収入が少ない/管理コストが高いの3点セットと思われる国民健康保険を財政基盤の弱い地方自治体に押しつけられては、破綻は目に見えている。このシステム(仕組み)自体が初めから破綻を前提にしているとしか思えない。

この国民健康保険もそうだが国民年金もそう遠くない将来に破綻するだろう。もしくは破綻しないまでもサービスレベルは大きく低下すると思う。たぶん、そう考えている人は多いと思う。
(そういえば議員年金はどうなったんでしょう。やっぱり無くならないのかな。)
今、我々ができることは将来に備えて貯蓄することぐらいしかないのだろうか。