そしてジョブズの名は人々をDRMから解放した人として歴史に刻まれる

米国時間2月6日にAppleのホームページに掲載されたスティーブ・ジョブズの署名による「Thoughts on Music(音楽についての考え)」が話題になっている。

上記記事のほとんどは部分的に原文を紹介しているだけだが、一番上のEngadget Japaneseだけは全文の日本語訳が掲載されているのでぜひそちらを読んで欲しい。(Apple JapanのWEBにはまだ日本語訳が掲載されていない。)
今回のこの声明は十中八九、欧州で起きているAppleのFairPlayによる囲い込み批判に対する回答だと思われる。
この囲い込み批判の記事によると今年の9月まで他の音楽プレーヤーでiTunesの曲を再生できるようになっていない場合、罰金を科されることになっているとのこと。
ジョブズは声明の中でこの批判に対し、以下のように答えている。(Engadget Japaneseから引用)

欧州では、DRMシステムに対する懸念が多く挙がっている。現在の状況に不満な人々は、レコード会社に対してDRMフリーの曲を販売するように説得することに努力を傾けてはどうだろうか。四大レコード会社のうち2と1/2は欧州にある。最大のユニバーサルはフランスのビベンディの子会社、EMIはイギリス、BMGの半分はドイツのベルテルスマン。アップルやほかの企業にDRMフリー楽曲の販売を認めるようこれらの企業を説得すれば、真に互換性のある音楽市場が生まれるだろう。アップルは心から歓迎する。

つまり、批判している人達に対して、”あなたたちが真に望んでいるのはFairPlayの他社へのライセンスなんていう中途半端なことではなく、どこのオンラインストアで買った音楽でも、好きな音楽プレーヤーで再生できるようにすることでしょ。アップルはそれなら大賛成だよ。”と提案している。私もこれには大賛成。ただ、声明中に、アップルは囲い込みはしていないとか、DRMを守るために他社にはライセンスできないという屁理屈としか思えないことも書かれているが、結論がすばらしすぎるので、言わせておいてもいいかと思う。
それにしても、アップルというかジョブズは逆境に負けないというか転んでもただでは起きないというか、ただただ、すごいと思う。この欧州での批判に対する一般的な対応は2つ考えられるが、どちらもうまい話にはならない。批判に従ってFairPlayを他社に公開したらiTunesによる囲い込みが失われるし、もしかしたら本当にDRMが公開されて(DVDのように)iTunesが閉鎖されるかもしれない。もう一つはFairPlayを他社にライセンスしないというものだが、ますます消費者の反感を買うだろうし、音楽を食い物にしているという不本意なレッテルを貼られるかも知れない。ジョブズが提案したのはそのどちらでもなく、”DRMを撤廃しよう”と提案する第三の方法だった。
ジョブズが、レコード会社がDRM撤廃する可能性をどの程度と考えているのかは全く分からない。もしかしたら、ほとんどあり得ないと思っているのかも知れない。仮にレコード会社がDRM撤廃に「ノー」と言い続ければ、アップルは自分の大義名分にしたがって、堂々とFairPlayによる囲い込みを続けるだろう。これはアップルにとって悪くない状況だろう。
もし、レコード会社がDRM撤廃を認めたらどうだろうか。
CNET Japan Blog - Lessig Blog (JP):ジョブズのDRMレター」に書かれているように「DRMの(アップルの立場から見た)機能のひとつには、iTunesとアップル製の機器を抱き合わせるというものがある。DRMの終わりはその縛りの終わりも意味する。」だろう。これは別に音楽に限った話ではなく、映画やTV番組も同じことになる可能性が高い。この状況はアップルにとっては余り良い状況ではないように思える。しかし、この時、ジョブズの名は人々をDRMから解放した人として歴史に刻まれる に違いない。こういった名声はお金で買うことはできないし、お金に換算もできない。 DRMフリーが歴史の流れであるなら、それを実現するのはYouTubeGoogle(Google Book Search)、まだ知られていない誰かかもしれない。しかし、人々の記憶に残るのはジョブズのような気がしてならない。どうしてジョブズはいつもおいしいポジションにいて、そしてチャンスを逃さずつかみ取ることができるだろうか。それが不思議でならない。