人は大切なものを貰ったら何かお礼をしたいと思う本能を持っている

billio.comは、生成したリンクをページに貼り付けることで、1円単位での投げ銭や募金を他ユーザーから募ることが可能な「billio投げ銭リンク」の提供を開始した。

mixiやニコニコ動画でも送金できる「billio投げ銭リンク」

ニコニコ動画の動画説明欄やmixi日記に、専用ページへのリンクを張って、電子マネーによる寄付を募ることができるサービスが登場した。

ニコ動職人に電子マネーを寄付できる「billio投げ銭リンク」 - ITmedia NEWS

これらの記事を読むと投げ銭機能は、動画投稿者のための機能のように書かれているが、本来は視聴者のための機能なんだと思う。感動したり、心が温まるような作品を観たとき、人は理屈抜きに感動を共有したいとか自分の気持ちを誰かに伝えたいという衝動にかられる。それと同じ気持ちの流れの中に作者に対する感謝もあるのだと思う。もちろん、ニコニコ動画であれば、コメントを打ち込んだりマイリストに登録したりもできるが、より直接的に気持ちを伝えたい場合もあると思う。その時に、投げ銭機能があれば良いと思う。

逆に投稿者が投げ銭を要求した場合には、全く違う構図になる。それは、作品と金銭の取引を示唆することになるから。作品は商品になり、作者は商人、視聴者は客になる。商人というレッテルを貼られれば、あらゆる行動がお金目当ての自作自演行為と受け止められかねないし、客と錯覚した視聴者は商品の質にこだわり、対価に見合った対応を要求し始めるだろう。

ニコニコ動画は、そんな荒れた世界になって欲しくはないと思う。

ニコニコ動画と恩送り(2008/03/05追記)

恩送りという言葉があるらしい。

自分が誰かから受けた親切・善意・思いやりなどを、与えてくれた人へ直接返すかわりに、別の、必要としている人達に送る事である。又、それにより善意が社会を巡り、様々な善き連鎖が社会全体へと広がってゆく事も指す。

恩送り - Wikipedia

自分は観たことがないが、恩送りという考え方はペイフォワードという映画にもなっている。
これまでニコニコ動画では「組曲」や「初音ミク」、「ウマウマ」などいろいろなブームが起きてきたが、それを動かしている原動力の一つがこの「恩送り」のような気がする。良い作品から受けた感動やインスピレーションを新たな作品として、作者やニコニコ動画へ還元する。それらが連鎖的に繋がることで、大きなブームを起こす。ニコニコ動画が登場する以前も良作が良作を生むサイクルはあったが、作品を作り伝えるためのハードルが高すぎて、ほとんど繋がらなかったんだと思う。それが、インターネットやニコニコ動画で一変する。

子供の頃に「一億人の人から一円ずつもらえたら一億円になるなぁ」なんて夢を描いたことのある人は多いのではないだろうか。「一円くれませんか」と人々を訪ね歩けば、かなりの確率で一円なら貰えるとしても、一円貰うための労力・コストが大きいから、リアル世界では非現実的な夢想に過ぎなかった。でも誰かから、一円貰うコストが一円よりもずっと小さいとすれば、「不特定多数無限大の人々から一円貰って一億円稼ぐ」ネットビジネスは現実味を帯びてくる。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書) P.19

現実の世界は1円を集めるには無駄が多すぎで割に合わないのと同様に、善意や感動の連鎖も"コスト"がかかるので伝わりにくい。しかし、ネットであれば不特定多数無限大の人からの善意や感動をそのまま別の誰かに伝えることができているのではないだろうか。ニコニコ動画は、会員数も増え続けているし、他のWEBサービスと比べて長い滞在時間という特徴がある。ほとんどの人はニコニコ動画で動画を観たり、コメントを書いたりしている訳だが、別の見方をすれば、善意や感動の連鎖を生み出しているとも言える。それが居心地を良くしているのだろう。

ただ、気になるのはそこへ「投げ銭」というシステムを導入した場合、流れが「恩返し」に変わって、善意や感動の連鎖が止まってしまわないかと言うこと。

「恩返し」は親切にしてくれた人に、親切を返すという事であるが、これだと上手く実現した場合ですら二人の閉鎖的な関係が出来るだけである。

恩送り - Wikipedia

「恩送り」と「恩返し」が両立しないという決まりはないだろうし、「恩返し」の仕組みが加わることでよりいっそう善意や感動の連鎖が強化される可能性もある。いずれニコニコ動画に「投げ銭」機能は実装されると思うので、期待と不安を持って見守りたいと思う。