あとがきー「ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)」の作者は誰か?

このエントリはおそらくタイミングが良かったのだと思うのですが、たくさんの方のアクセスがあり、今でも続いています。

個人的に「ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)」の作者を調べようと思ったのは、どのようにあの作品が生まれたかを知りたかったからです。あのシンプルでユニークな振り付けとテンポの良い音楽。調べて分かったことは、日本のPCゲームのオープニングのワンシーンを切り取ったフラッシュ(動画)、"Popotan Dance"が共有サイトで公開され、後から別の人が音楽を追加したらしいということです。その共有サイトではあのフラッシュ以外にも同じシーンを繰り返す作品がいくつも公開されていました。"Popotan Dance"もその中の一つに過ぎなかったわけです。それが、あの音楽を追加したことで大人気となります。実際に原曲を1.2倍速にしたのが音楽を追加した人なのかは分かりませんが、もし、そうならば、"Popotan Dance"がなければCaramelldansenの1.2倍速版である"Speedcake Remix"も存在していなかったことになります。

この"Speedcake Remix"はニコニコ動画から着うたとして発売されました。おそらく、"Caramelldansen"の1.2倍速版である"Speedcake Remix"が携帯電話の着うたとはいえ、市販されるのは世界初ではないでしょうか。

しかし、もし今の著作権法を厳密に適用していたら、これらのすばらしい動画や音楽は生まれていなかったでしょう。著作権法がなければ作品を作る人が食べていけなくなるという理屈は分かりますが、だからといって、これらの作品の芽を摘んでしまうのはどうしても納得できません。

これと似たようなジレンマが今から数百年前のヨーロッパにもありました。聖書を疑うことを許さない社会体制と、世界をより深く知りたいという欲求を持つ科学者達の葛藤です。当時の文化はキリスト教の影響が大きかった、というよりキリスト教を学ぶため、広めるために様々な学問や音楽が発達しました。多くの大学は修道士養成所としての役割が主であり、神学がもっとも名誉ある学問として位置づけられていました。当時の人々にとって学問の最終目的とは、聖書を、神の教えを理解することだったのではないかと思います。そんな中で、ガリレオ・ガリレイは地動説を主張し裁判にかけられ軟禁状態におかれます。しかし、ガリレオたちが採用した「誰にでも再現可能な方法によって自説の正しさを証明する」という"科学的な考え方"は広まり、科学は宗教や過去の偉人達の著作から切り離され、大きく発展します。それまでは、世界は天地を創造した神様のものであり聖書書かれたことが真実でした。それが、我々人間が観察し判断できる対象へと取り戻すことができたのです。この17世紀の変化を科学革命といい、18世紀の産業革命へと繋がっていきます。

ひるがえって、現代のコンテンツが置かれた状態はどうでしょうか。今、気軽に本や音楽に触れる機会が得られているのは、著作権ビジネスという仕組みのおかげです。著作権がなければ、出版社同士で売れ筋の同じ本を出版し合う自体を招き、結局は本を出版することができなくなってしまうでしょう。長期間、著作物の独占販売を認める著作権は、以下を前提にしているように思われます。

  • 創作物は、作者の所有物。(作者の死後、数十年間。)
  • 創作は、一部の特別な才能を持った人間にしか行えない。

しかし、インターネットが登場しWeb2.0CGMという言葉が流行り始めてから、これまで受け入れられていたこの常識が覆されるような出来事が起こりました。YouTubeニコニコ動画などに面白い人気動画が登録されるようになったのです。それが意味するのは、歌手でなくとも歌を歌うことができ、作曲家でなくとも曲を作ることができるというあたりまえの事実です。そして、それらの作品を共有することによって、より質の高い作品を作ることができるということが、"事実"として知ることができました。つまり、創作に対する前提が以下のように変わりました。

  • 創作物は、人類の共有財産。
  • 誰もが創作する能力を持っている。
  • より多くの人が作品を共有することによって、新しい作品を生み出すことができる。

つまり、より良い作品を作るためには、創作活動をビジネスから切り離し、独立させる必要があるのです。科学は神の手から人間の手に世界を取り戻しました。今度はコンテンツをビジネスの道具から人間の手に取り戻す必要があります。しかし、科学が宗教から独立した際も宗教側の人たちを説得できたわけではなく、科学的な思考により多くの成果を上げることによって、科学は現在の地位を獲得しました。同じように創作活動をビジネスから独立させることを著作権ビジネス側の人たちに理解してもらうのは難しいと思うので、「ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)」や「初音ミク」のような創作の実績を積み上げていくしかないのだと思います。

科学革命により科学は宗教から独立し、ビジネスとの関係が強まりました。では、ビジネスから自由になった創作活動(コンテンツ革命?)は、何に支えられていくのでしょうか。個人的には、宗教(複数国家)→お金(企業)というより集団が小さくなる流れから、名声とかプライド(個人)のようになるのかなと考えています。