Wiiの間 〜任天堂が変える企業と消費者の関係〜

今日の0:00に配信が開始された(by 2ちゃんねる)らしい「Wiiの間」を早速、試してみたので、思ったことを書いてみる。自分が思ったことを書いただけなので、レビューを読みたい人は他の記事を探して欲しい。

Wiiの間」については任天堂の岩田社長自らが動画でサービス内容を説明している。

25分弱という長い時間をほぼ一人で話し続け、かつ密度の濃い内容となっているが、個人的に興味を持ったのは以下の3点。

  • Wiiの間」が広告ビジネスモデルを活用する動画配信サービスであること
  • YouTubeとの違い(コンテンツの量で競わない)
  • スポンサー企業に対して視聴者とのコミュニケーションの場としての活用を促していること

現在のテレビ放送の問題

広告ビジネスモデルの動画配信サービスとして最も普及しているのは民放のテレビ放送サービスだが、以前から問題が絶えない。

テレビ放送はスポンサー企業が商品やサービスの周知を目的にスポンサー料(CM料金)を支払って放送局に番組制作と放送を依頼することで成り立っている。スポンサー企業も放送局も番組制作会社も問題のある番組を制作したいとは考えていないはずなのに、なぜ次々と問題が起きるのか。個人的には、視聴率至上主義によるコミュニケーションエラーが原因だと思っている。
スポンサー企業は良質の番組によって視聴率が上がり、CM自体の視聴率も上がることを期待する。放送局も番組制作会社も「良質の番組」を作りたいと思っているが、必ずしも「良質の番組」=高視聴率な訳ではないため、客観的に評価可能な視聴率重視の方針に流れていく。その結果、最大公約数的なより多くの人にとって興味のありそうな話題をダラダラと垂れ流すワイドショー的な番組や、万人受けしやすいタレントばかりが出演し中身の薄いクイズ番組が増えていく。この状況はスポンサー企業が望んでいることなのだろうか。

大手企業の社員を対象にしたアンケート結果でも現状の民放番組の評価は低い。さらに昨年にはゴールデンタイムの視聴率で民放がNHKに負ける状況になっており、民放の番組はスポンサー企業からも視聴者からも評価されていないことになり、誰のための番組なのか分からなくなっている。

スポンサー企業が本当に望んでいること

当たり前だが、視聴者にCMを見て貰うことをスポンサーは望んでいる。しかし、CMが嫌なもの、邪魔なものとして認識されてまで見て欲しいと思っているだろうか。そもそも、CMは商品を知ってもらうための一つの手段にすぎず、スポンサー企業の本当の目的は、消費者が商品を気に入って望んでその商品を購入してくれることだろう。今のテレビ放送の番組の合間に15秒や30秒という短時間のCMを割り込ませる仕組みでは、仮に商品の価値が高いものだとしても説明するには短すぎる。
スポンサー企業の本当の望みは商品やサービスの価値を消費者に正しく理解して貰う、そしてできれば商品を購入して貰うことだろう。さらに掘り下げて考えれば、消費者にその商品を通して企業そのものを気に入って貰いたいと思っていると考えられる。

Wiiの間」による消費者と企業の関係改善の試み

私たちは誰しも消費者であると同時に生産者である。学生もやがて社会に出て就職するだろうし、引退した人もかつては働いていただろう。だから、消費者と企業の距離はとても近いはずなのに、テレビから受ける企業との距離感は非常に遠く感じる。時にはまったく違う世界に存在しているかのように感じることもある。
5月1日現在、「Wiiの間」でスポンサー企業が提供する動画は「アフリカゾウ」という数分の番組1本だけのようだった。番組の最後にはスポンサーが表示され、そのスポンサー企業の空間である「セブン&アイの間」にそのまま移動することができる。もちろん、移動しないでそのまま「Wiiの間」に戻ることもできる。「セブン&アイの間」ではセブン&アイの紹介映像を観ることができるのだが、映像とは別にアンケートがある。アンケートの内容は1問だけ、「セブン&アイのお店、利用してみたい?」。回答は4択で、「是非、利用してみたい」「利用してみたい」「どちらでもない」「利用してみたくない」から選ぶようになっている。選ばないことも可能。テレビCMのセブンイレブンは自信に溢れ、完璧なサービスを提供しているかのように見えるが、このアンケートからは消費者に嫌われることを恐れている印象を受ける。別にこのアンケートが悪いと言っている訳ではなく、テレビで受けていた印象よりもずっと身近に感じたことが、自分自身で意外だった。改めて考えてみると、セブンイレブンに行ったとしてもそこでのやり取りは個々の店員になるので、対企業に対しては簡単なアンケートとはいえ「コミュニケーション」をしたことは今までなかった。企業側も自分のお店を利用してみたいですかと問いかけるのは勇気が必要だったのではないだろうか。
本来、テレビという「場」はコンテンツを通してスポンサー企業と視聴者/消費者との間でコミュニケーションができる場所のはずなのに、今はヤマ場CMなどのような騙し合いや不信感を生んでいるように感じる。 「Wiiの間」では企業と消費者がスポンサー企業が提供するコンテンツを介して繋がり、「企業の間」では今までできなかった消費者と直接にコミュニケーションができるようになっている。今日はサービス初日ということで、従来のテレビCMを転用しただけの様に見えるイオンの動画があったりして、各社とも、どういう動画を提供すれば良いか分からず試行錯誤しているように感じた。コミュニケーションの有り様に正解はない訳だし、「ファーストコンタクト」としてはこんな感じかと思う。岩田社長が最後に言っていたように「長期的な視点で着実に前進して」いくことを期待したいと思う。

任天堂の考えるヴァーチャルとリアリティは繋がっている

最初、この「Wiiの間」というサービスの話を聞いたとき、ソニーPS3で提供している「Home」の任天堂版かと思ったが、実態はまったく違うものだった。それを実感したのは「Wiiの間」にある時計を選択したときに自分の住所を入力できるようになっていることを見つけた時だった。おそらく、この住所情報はスポンサー企業が商品の試供品を送付するときなどに使うのだと思われる。カレンダーを選択すればお天気チャンネルと連動して実際の天気予報が表示されるし、暦にちなんだ情報も表示される。たしかに「Wiiの間」は仮想のお茶の間を作っているが、それは現実から切り離された「夢の世界」ではなく現実の生活を助けたり豊かにするための仕組みになっている。このことから、任天堂にとってのバーチャル世界は「現実逃避」ではなく、現実世界があってのものなのだと推測できる。他のゲームソフト、たとえば、「どうぶつの森」でも「現実の家族のコミュニケーション」を意識した作りになっていたし、ゲーム中で過激な表現が抑えられているのも現実の生活への影響を考えてのことなのかも知れない。