任天堂の逆襲
- 任天堂の今後の展開と,ニンテンドー3DSの各種機能・タイトルが紹介された「任天堂カンファレンス2010」レポート(前編) - 4Gamer.net
- ダウンロード配信の活性化にも配慮された3DSの通信機能。クリエイターの熱い期待も発表された「任天堂カンファレンス2010」レポート(後編) - 4Gamer.net
先日の任天堂カンファレンスで噂の3DSの発売日と価格が発表されました。
岩田氏「3DSはアクアブルー,コスモブラックの2色で,2011年2月26日発売。価格は2万5000円。海外は後日各国の子会社が発表」
これを聞いた直後は3DS今年は手に入れられないというガッカリ感が大きかったのですが、改めて考えてみると価格設定がおかしいことに気付きました。3DSの説明を聞いたり実機を直接見てみれば、この価格でも買う人はいるとは思います。でも、1万5000円のDSの後継機である3DSの価格が2万5000円というのは、どう考えてもおかしいです。それで自分なりに納得出来る仮説を立ててみました。それは「3DSはDSの後継機ではなく上位機種」という仮説です。
PS2全盛期のPSP投入
今から約6年前の2004年の年末に携帯版のプレイステーションであるプレイステーションポータブル(PSP)が発売されました。その頃の据置機市場は市場シェアではPS2のひとり勝ち状態であり、PSPの発売は据置機市場で起きたことが携帯機市場でも繰り返されるように見えました。当時のゲーム機競争のルールは、低価格かつハイスペックの本体を一気に普及させることでデファクトスタンダードを握り市場とサードパーティを囲い込むことでした。そういう競争ルールでは、任天堂よりもソニーの方がかなり有利に見えましたし、実際に据置機に関してはPS、PS2で完全にソニーに置き換わっていました(もちろん任天堂製ゲームは別ですが)。
当時、据置機市場と違い、携帯ゲーム機の市場は任天堂の独占市場でした。しかし、当時の最新機種であるゲームボーイアドバンスのスペックは、CPUクロック16.78MHz、画素数240×160ドット、色数3万色であり、PSPのCPUクロック333 MHz、画素数480×272ピクセル、色数1,677万色というスペックとは比較にならないものでした。任天堂もゲームボーイアドバンスの後継機としてニンテンドーDSを発売しましたが、ハードウェアスペックではPSPに遠く及ばない製品に見えました。
ところが、このDSが2画面、タッチペン、音声入力といったユーザーインターフェイスの革新によって、ゲーム機のスペック競争神話を覆してしまいました。脳トレブームが社会現象になるなど今までのゲームの常識を変えることになり、ハードウェアスペックがPSPより劣っているにも関わらず、現在の世界の携帯ゲーム機市場はDSが7割、PSPが3割という結果になりました。
3DSはPSPキラー?
PSPは携帯ゲーム機でありながら、発売当時の据置機相当の表現が可能だったため、据置機の人気タイトルの多くがPSPに移植されました。特にモンハンはPSPの普及率を拡大する起爆剤になったと思います。PS3が高価格だったり、PS2互換が削除されたりするなど、PS2からPS3への移行がうまくいかなかったため、PS2の後継機はPSPという話をいくつかもブログや掲示板で読んだこともあります。PSPの価値はそういったPS2の人気シリーズを遊べることが大きいと感じていますが、それらは今のDSではできません。
携帯ゲーム機は電車の中や待ち合わせ時の暇つぶしに向いています。そもそも携帯ゲーム機のはしりである「ゲーム&ウォッチ」自体が電車の中で電卓を使って暇つぶしをしているサラリーマンをヒントに思いついたものです。
- 横井軍平ゲーム館 P.101
「ゲーム&ウォッチ」は新幹線の中で思いついたんですね。新幹線の中での退屈しのぎにサラリーマンが電卓を使って遊んでいた。これを見ていて「あ。暇つぶしのできる小さなゲーム機はどうだろうか」と。それがそもそもです。
今の時代、そういう暇つぶしに格好の製品はガラケーやスマートフォン(iPhoneやAndroid)です。多くの人が24時間365日、身につけていますし、ゲームをしようと思えばゲーム屋でソフトを買わなくてもその場ですぐに始められます。しかも建前上は無料と言っているゲームもありますし、実際に無料のゲームもあります。これほど暇つぶしに最適なゲーム機は想像できません。
DSやPSPに3G機能を搭載して携帯電話化することは技術的には可能でしょう。でも、それは単に高機能だけど高価で使いづらい携帯電話、つまり携帯電話モドキにしかなりません。だから、携帯電話には「できないこと」で差別化するしか選択肢はない訳です。
ゲーム市場のもう一つの大きな流れとして、据置機から携帯ゲーム機への移行があります。現行世代の据置機でヒットするのはほとんどがみんなで一緒に遊べるパーティーゲームです。そしてパーティー系は任天堂の独壇場です。(ジャンルは主観で書いているので人によって違うと思います。)
- 現行世代据置機のミリオンタイトル
タイトル | ジャンル | メーカー |
---|---|---|
FFXIII | RPG | スクエニ |
New スーパーマリオブラザーズ Wii | パーティー | 任天堂 |
Wiiスポーツ | パーティー | 任天堂 |
WiiFit | 体感 | 任天堂 |
マリオカートWii | パーティー | 任天堂 |
はじめてのWii | パーティー | 任天堂 |
Wii Fit Plus | 体感 | 任天堂 |
大乱闘スマッシュブラザーズX | パーティー | 任天堂 |
Wii Sports Resort | パーティー | 任天堂 |
マリオパーティ8 | パーティー | 任天堂 |
街へいこうよ どうぶつの森 | SNS | 任天堂 |
モンスターハンター 3 | ネットワーク | カプコン |
スーパーマリオギャラクシー | アクション | 任天堂 |
Wii Party | パーティー | 任天堂 |
これらをまとめてみます。
こういう状況でゲーム業界をかつてのように活性化させることを考えた時、自分には一つしか思い付きませんでした。それは、かつての据置機+αのゲームが遊べる携帯ゲーム機を作ることです。
- 携帯ゲーム機は携帯電話にはなれないので、わざわざ買ってもらえるだけの価値を作るしかない
- 据置機、携帯ゲーム機にはそれぞれ向き不向きがあり、これは受け入れるしかない
- ヒットしたタイトルにはそれぞれ面白さがあり、新しい「何か」と組み合わせれば売れる商品になる
これこそまさにPSPに期待されていたことでしたが、どうも期待に応えてくれる気配がなく、ヒットしているのはモンハンくらいしかありません。そして、任天堂からすれば、一番手っ取り早く、しかも確実に売上を伸ばせる市場でもあります。
- 世界の携帯ゲーム機シェア(ソースはVGChartz)
これまで任天堂はDSのタッチペンやWiiの体感ゲームなど、これまで存在しなかった市場に向けた製品を作り、それらを成功させることで市場を創りだしてきました。しかし、成功したから良かったですが、あるかどうかも分からない市場向けに製品を出すのは非常にリスクの高いやり方です。言わば、闇の中の的に向けて矢を命中させるようなものです。それに比べれば目に見えるPSPの市場は格好の市場です。PSP並みの描画機能、2画面、3D表示、すれ違い通信、AR対応、モーションセンサー、ジャイロセンサーなど、新しいアイデアに結び付けられそうなネタが豊富に揃っています。最初の発表の時に3D表示が縦表示をサポートしないと言っていたので、ラブプラスは横向きにするのかと思っていたのですが、PVを見ると発想のレベルからして違っていたので驚きました。
こういう映像を見ると、日本のゲーム会社は面白いアイデアを生み出す能力はあるのに、ハードウェアの制限のためにゲームソフトに生かしきれていなかったような気もします。3DS向けに発表されたタイトルの多くが続編ばかりなことを批判するコメントもありますが、かつてのヒットタイトルはそれぞれ特有の面白さを持っているからヒットした訳です。そういう面白さ自体は時代を経ても変わりません。単に画面が綺麗になっただけなら面白さに変わりはありませんが、3DSではドラクエ9の大ヒットに貢献したすれ違い通信の強化やジャイロセンサーなどとの組み合わせで面白さそのものを高めることができるので、メジャータイトルの投入は悪くない選択だと思います。
任天堂の逆襲
かつて、ソニーがゲームボーイ対抗としてPSPを発売したことは、間違った選択ではなかったと思います。結果的に期待したほど売れませんでしたが、それはニンテンドーDSという非常識な製品が発売されたからです。そして、来年2月26日に2万5000円という価格でニンテンドー3DSが発売されますがこれも任天堂としては正しい選択だと思います。世界で1億台以上販売されたPS2は発売から10年以上経ってもソフトが売れ続けています。 同様に世界で1億3千万台以上売れているDSシリーズも長期間売れ続けると思います。つまり、任天堂は携帯ゲーム機を2ラインナップにしようとしているように見えます。
クラス | 機種 | 特徴 |
---|---|---|
上位機 | 3DS | 高価格(2万5千円)。PSP領域+α。DS互換。 |
下位機 | DS | 低価格(1万5千円)。世界1億台以上の普及率。膨大なソフト資産。 |