自炊関連業者を一掃する唯一の方法

はてブで「店内の漫画を「自炊」するレンタルスペースが仮オープン、裁断済み書籍を提供、ネット上は懸念の声多数」という記事が話題になっています。定価の1/4程度の価格で裁断書籍をレンタルし店内のスキャナーで利用者がデジタルデータに変換できるという自炊の森のサービスについてです。


はてブコメでは私的複製の範囲を逸脱しているのではないかといったコメントが多数あります。そういった疑問に対する店側の回答はTwitterで出されています。

当店のサービスの要点は、利用者ご自身が自分の体を使って自炊(スキャン)する、という点です。著作権法で定められている私的複製の要件として、これが求められるからです。

これは良くある誤解なのですが、私的複製をする為の条件としてオリジナルの本を自分で買う必要は無いのです。例えば、図書館内で設置されているコピー機を使って複製する行為も、友人から書籍を借りて複製する行為も法的に全く問題有りません。著作権法第三十条に定得られている私的複製です。

また、店内で本を来店者にアクセスさせる行為は、あくまで閲覧行為であって、これもまた著作権法上の貸与権条項には抵触しないのです。店から本を持ち出してはじめて貸与となります。

少し著作権に詳しい人ならば、「公衆の自動複製装置を用いた複製は私的複製にあたらないのでは?」という質問が来るかもしれませんので、それに対しても予めコメント致します。

著作権法 第5条の2 にて、文書または図画の複製に供するものを含まないとする、と記載されています。簡単に言えば、音楽や動画では公衆の自動複製装置を用いた複製は私的複製ではないと定められていますが、書籍の場合はその限りでは無いという事です。

上記は「附 則 抄」の第5条の2です。


個人的な感想としては、このサービスは合法だが、出版社的には問題だろうと思います。そもそも著作権法 第三十一条の一で以下を禁止しています。

公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合

しかし、コピーではなくスキャンがここでいう複製に含まれるのか疑問です。著作権法上は電子的な記録の場合には「電子的方法」「磁気的方法」「電磁的方法」や「デジタル」という言葉で区別しているからです。また、利用者がスキャナーを持ち込んで自炊するようなサービスも考えられますし、たまたま、スキャナーのレンタル会社が裁断書籍閲覧サービス会社の隣にある場合(コンタクトレンズ屋と眼科の関係に近いかも)も考えられます。出版社はそういう新しいサービスが出る度にモグラ叩きのような対応ができるのか、疑問です。

なぜ自炊関連サービスがなくならないのか

自炊の森含めてなぜ法的リスクが伴うPDF化サービスが次々と登場しているのでしょうか。そういったサービスの比較サイトには40以上のサービスが登録されています。

答えは単純明快で、紙の本を電子化したいという強いニーズがあるからです。iPadの登場以降、いくつかの電子書籍も販売されていますが、ほとんどの場合、それらはニーズを満たしていません。

コンテンツのファンであればあるほど、当然ながら、すこしでも品質のいいものが欲しい。根本的な問題は、無料でダウンロードすると品質のいいものが手に入り、お金を払うと品質の悪いものをつかまされるというネットの現状にあるのだ。

このコミックビューワーではわたしの所有欲を満たすことができません。高解像度のPDFを全巻そろえてHDDに入れる、これです。大げさに言うと、読まなくてもこれで満足なんです。

現在、販売されている電子書籍のほとんどはDRMで制限されるかブラウザのみで参照する形式です。なのでサービス提供側が決めた使い方しかできません。具体的にはiPhone向けアプリを買うと、Android携帯に機種変更したとたん読めなくなります。またAppleが倒産するかモバイル機器から撤退しても読めなくなるでしょう。自炊なら自分の責任でコンテンツを所有できます。PCが壊れてデータが失われるのは自業自得と納得できますが、PC会社や出版社の事情でコンテンツが失われるのは納得できません。

自炊と電子書籍

はっきり言って、自炊は嫌いです。やった事が無い人は、背の部分を切り落としてスキャナーにセットすれば自動的にPDFファイルになると思っているかも知れませんが、実際はもっと泥臭いです。感覚的にはテレビの番組をビデオカメラで記録しているような感じです。
自炊はとにかく面倒です。裁断は刃物を使うのでやっぱり怖いです。本の大きさも装丁も色々あるので、その都度、考えないといけません。両面スキャンはビックリするくらい良くできていますが、完璧には程遠いです。一度にセット出来る紙数は限られていますし、紙質によっては数枚に一度紙詰まりするので、一枚ずつセットする必要があります。紙詰まり時のセットでミスると重複や抜けになります。スキャン後の確認も面倒です。でもそれをしないと後で後悔することになります。たまにしおりやヒモが写っていたこともありました。画質も満足できる物ではありません。最近は変な縦線が写り込むことがありますし、角度がちょっと傾いていたりすることもありました。小説ならOCRの認識率も高くありません。
結局、何が言いたいかというと、購入者が損をしたと感じないまともな電子書籍を売って欲しいということです。技術的には個人の設備で、数分で紙の本から電子化が可能になっています。電子化すれば個人で数万冊の本を所有できます。技術がこれほど変わったのに、従来通りの商売を続ければ、当然、無理が生じます。自炊の森はその一例にすぎないと思います。もし適正な価格で不自由のない電子書籍を販売すれば、自炊関連サービスは自然消滅すると思います。逆に今のままニーズを無視した商品しか販売しないのであれば、どんなに法律を変えても必ず抜け穴を見つけて新しいサービスが登場するはずです。