FeliCaは、NFC準拠だがGSMA標準ではない

日本の“専売特許”だった「おサイフケータイ」が一挙に世界標準サービスに拡大する。といっても「日本発」ではなく、新たな短距離無線通信の国際規格「NFC」に置き換わることを意味する。


ここに書いてある事が間違っているよう見えたので、自分なりにまとめてみました。そもそも、Felicaは国際規格であるNFCに則っています。

NFC incorporates a variety of existing standards including ISO/IEC 14443 both Type A (normal) and Type B (banking/short range), and FeliCa.

NFCはType AやB、そしてFeliCaを含むと書いてあります。じゃあ、何が問題なのでしょう。まず、言葉の定義から整理します。

近距離無線通信

およそ1メートル〜数センチ程度の非常に近い距離の無線通信です。「非接触通信」とも呼ばれます。有名な例としては、赤外線通信やBluetoothFeliCaなどがあります。

NFC

NFC (Near Field Communication) は十数センチの距離での小電力無線通信(RFID)技術です。国際的に標準化されており、上にも書きましたが、そこにはFeliCaも含まれています。

以下のリンク先の図が分かりやすいと思います。

NFCと既存の非接触ICカード技術の関係」の図

何が問題か

簡単に言うと、日本で広く使われているSuicaEdyPASMOICOCAおサイフケータイなどのサービスの基盤となっているFeliCaが、国際的な携帯電話の業界団体(GSMA)の標準に含まれていないことです。

しかし、世界最大の携帯電話事業者団体であるGSMAは、このオサイフケータイを国際的に互換性のあるシステムとし、世界中何処でも同じ決済システムを再利用できるようにということでいくつかの勧告(これとかこれ(リンク先PDF注意))を策定しました。ちなみにこのGSMAには、KDDIを除く日本の事業者もすべて加盟しています。

実はこれに先立つちょっとした流れもあったんですが、結果として、Felicaは落選しました(上のリンク二つ目PDF(2008年11月)でFelicaが完全に消滅しているのがわかるかと思います)。これにより、携帯電話を使った決済システム(つまりオサイフケータイ)の世界標準は、Felica以外の2方式、ISO 14443 TypeAとTypeBに決定したわけです。


携帯電話でなくても、Suicaを使ったことのある人ならその便利さは実感していると思います。欧米ではまだ普及していませんが、今後は普及していくだろうと予想している人は多いようですし、私もそう思います。

2015年のモバイルフォン出荷台数に占めるNFC搭載比率は世界:56%、日本70%。
世界におけるNFC搭載モバイルフォンは、2011年頃からスマートフォンを中心に商用化が始まり、2015年には全モバイルフォンの出荷台数の約6割に搭載されるものと見込まれる。
国内におけるNFC搭載モバイルフォンは、2011年末頃から商用化が始まり、2015年には全モバイルフォンの出荷台数の約7割に搭載されるものと見込まれる。

上記の2010年10月の記事よれば、世界で2011年で1億台弱、2012年で2億台程度の市場を予想しています。なお、この記事の中ではFeliCaNFCに含めておらず、次のように書いています。

国内は既にFeliCaでインフラが整備されており、NFC化は遅れる可能性も。


FeliCaNFCに準拠しているのですから、たとえばNFC対応のAndroidからまったく使えないことはありません。でも、標準機能だけだといろいろ制約があると思います。たとえば、以下のFeliCaAndroid対応のプレゼンのシート35では、アプリで読み出し可能と書かれていますが、"Read Without Encryption"、"Write Without Encryption"とも書いてあります。つまり暗号化機能が使えないのです。実際に「おサイフケータイ」対応として発売している機種は専用チップで暗号化対応していると考えられますが、それは追加コストや追加の開発期間が伴っているはずです。


世界非標準の規格で国内の標準サービスを構築してしまったという、これまでに何度も聞いたことのありそうな失敗を再び繰り返しそうなことがほぼ確実な状況です。2010年3月に開催されたIC CARD WORLD 2010「NFCカンファレンス」の内容からするとFeliCaに気を使いながらもVISAやMaster Cardなどのカード会社はNFCに期待してそうな印象を受けるので、今後は日本国内の勢力図も変わっていくのかも知れません。

・国際標準TypeA、TypeBのインフラやカードを利用できる
・同インフラは世界規模の市場をもつため導入コストが(FeliCaより)低い
・世界中どこでも使える
NFCFeliCaも包含するため、ICの世界が更に広がる。FeliCaを否定するものではない

2011/10/19追記

NFCFeliCaに関する記事が書かれるのは良いことだと思いますが、とても回りくどい書き方をしていて分かりにくいと感じました。
話はとても簡単です。スマホでの決済には、NFC規格だけでは不足でMifareなりFeliCaなりの暗号化が不可欠です。そして、単純に日本企業が採用してきた方式が、世界の規格競争において負けが見えただけでしょう。海外の端末メーカーはUSIMかEmbeddedのいずれかの世界標準のMifareのみをサポートする。対して、日本のメーカーは、これまで作り続けてきたほとんど日本でしか使えないSuicaおサイフケータイと、世界標準のMifareの両方をサポートしなければなりません。
日本という井の中と世界という大海を比べてみれば、その大きさの違いは明らかです。考える余地もないでしょう。でも、日本のメーカーはそのしがらみから、FeliCaというハンデを背負い続けて行くんだと思います。

2011/11/07追記

こちらのツイート経由で見つけた記事です。部分的には分かるのですが、タイトルでも使われている「日本に勝機あり」が分かりません。日本の勝機って何でしょう?
確かに日本はおサイフケータイ先進国です。当然ノウハウも色々あるでしょうが、FeliCaかつ国内サービス限定です。ICチップによるNFCを使ったことがありますが、FeliCAと比べると明らかに反応が鈍いです。反応しない(通信の失敗?)こともあります。それと比べると、FeliCaはとても快適です。混雑する改札口ではFeliCaが選ばれて当然という気がしますが、世界が選んだのはType A/Bでした。たぶん、FeliCaは便利な分、組み込むのが大変なんだと思います。そういうFeliCaのノウハウや日本企業とのノウハウばかりを溜め込んで、世界で活かせるでしょうか。つい数年前まで日本は携帯電話先進国と呼ばれていて高機能なガラケーでネットを使っていました。他方、海外の携帯電話は電話とショートメッセージが主流だったようです。では、日本はこの先行者メリットを活かせたかというと、残念ながら活かせなかったとしか思えません。今、携帯電話はスマートフォンが話題で、新機種の多くがスマートフォンになっており、アップルやサムソンなどの海外メーカーがBCNランキングの上位に位置しています。日本のメーカーは多くのノウハウを持つガラケーではなく、海外メーカーと同じ技術、スマートフォンを一生懸命作っています。でも、日本メーカーの携帯電話が世界で売れているという話は聞いたことがありません。先行していたはずなのに、いつの間にか周回遅れになっている。たぶん、分野/業種を変えて同じことを繰り返すのでしょう。

2011/11/27追記

当初、互換性を維持するはずだったNFC陣営に「おサイフケータイ外し」の動きが見えてきており、日本勢は窮地に追い込まれつつある。

日経にこのような記事が掲載されました。記事全体を読みましたが、なぜ、今この時期にこのような記事が書かれたのか分かりませんでした。Googleが9月に「グーグル・ウォレット」を始めたとか、アンドロイドのNFC対応やアップルが次世代iPhoneで決済機能を追加するという観測もあるとかいう、非常にあいまいなことしか理由を書いていません。
この記事にもありますが、NFCは2003年12月に国際規格化され、そこにはソニーFeliCaも含まれています。当然、おサイフケータイも含まれています。また、NFCからこれらが外されるという話はありません。そして、FeliCaは国際的な携帯電話の業界団体(GSMA)の標準に含まれていません。世界標準の携帯電話でおサイフケータイは使えません。これは2008年11月時点で決まっていたことであって、今更、外したり追い込んだりする話ではありません。
もしかしたらこれらのことを知っていながら、見出しとして目立ちやすくするためにこのような記事を書いているのかも知れませんが、日本経済新聞という日本では著名な新聞にこんな記事を書いてしまうことが残念でなりません。