日本で電子書籍が売れない理由

電子書籍時代は本当に訪れるのか。市場規模は広がっているが、タイトル数はまだ少なく、
電子書籍が生活に浸透しているとは現状では言い難い。
(中略)
アメリカでは電子書籍専用端末が2千万台くらい売れている。日本はその段階にないが、今から
 3年後ぐらいに(電子書籍市場は)数百倍に成長する」
(中略)
日本での現在の売れ行きは「10万台よりかなり少ない」と推測。

日本では電子書籍が売れていない。売れていない理由は単純で売れる本を電子書籍化しないから。最近買った本を思い浮かべてなぜその本を買ったかを考えてみれば、読みたかったからというのが最大の理由でしょう。よく電子書籍をめぐる議論で「電子書籍コンテンツの増加」が必要と言われることが多いですが、ちょっと違うと思う訳です。コンテンツが多いにこしたことはありませんが、売れない本を集めても仕方がないのです。売れない本とはつまり古い本や絶版本のこと。売れる本とは新刊のこと。

私たちは、これからも田中さんに代表される所属作家の作品を電子化する権利を独占する意図はありませんし、紙媒体での出版と同時期の電子書籍化などは予定していません。出版社、また、書店さんの利益を損なわず、共存共栄の精神で、作家サイドと読者の皆さまの要望を両立させられるような事業展開を目指しています。

出版界の中の人のこのエントリを読んで「これは期待できないな」と意気消沈してしまいました。電子書籍に新刊がでない理由が前から不思議だったのですが、他の書店/出版社の作品も「出版社、また、書店さんの利益を損なわず」という理由なのかもしれません。こんなことをやっていては、電子書籍が売れる訳がありません。逆にちゃんと紙の書籍と同じ条件で電子書籍を販売すれば、電子書籍も売れるはずです。実際、紙と電子とでほぼ同じ条件で販売した、スティーブ・ジョブズの自伝は、紀伊國屋書店の実績で紙の本の半分程度の電子書籍が売れました。紙の本より5円高く、独自フォーマットの電子書籍にも関わらずです。発売タイミングが本にってどれほど重要かが分かる格好の例です。


オンライン書店だった頃のAmazonが本屋の本が売れなくなるからと絶版本しか扱わなかったらとっくの昔に潰れていたでしょう。AppleiTunes StoreがCDショップに気を使って品揃えを制限したり、価格をCDと同じにしていたら今の成功はなかったでしょう。かつて、音楽業界は海賊版の流通に対して裁判で対抗しようとしましたが、オンライン音楽ビジネスはうまく行きませんでした。今、日本では作家と出版社が本のスキャン代行サービス業者に対して裁判を起こしていますが、不毛な結果に終わる気がします。
今のiTunes StoreではオープンなフォーマットのMP3も販売しています。なぜ日本の出版社や書店、企業がそれを見習わないのか分かりません。独自規格で電子書籍を発売すれば、読者は不安に感じて購入意欲をそがれますし、それでも買った人はサービス終了時に二度とダウンロードできないことを知ってショックを受けます。


個人的には、家で本の発売日に本をネットからダウンロード購入して本を読みたいだけです。そして、10年後にふとその本のことを思い出して、パッと取り出して読み返したい。今の電子書籍はどちらもできません。技術的にはできるのに業界のエゴと論理が邪魔をしています。
日本の企業にはとても期待できそうにないので、早くAmazonなりAppleなりが日本でサービスを始めて、iTunesStoreで音楽ダウンロード販売を進めたようにどんどん電子書籍を販売して欲しいものです。有象無象の電子書籍もどきを販売している日本企業には、町の本屋さんや出版社さんと読者不在のお花畑ワールドを作っていただき、資産をすり減らしながらひとときの幸せを満喫していただきたいと切に願う次第であります。