矜恃という言葉


Yahoo! News −「矜」使った命名認めず 慰謝料請求を棄却
子供に「矜恃」という名前は付けられないという地裁の判断。
理由は「常用平易とはいえない」から。


最近、漢字は易しくても読めないような名前が増えている気がするが、法律上ではどういう読み方をしても良いらしい。
「太郎」と書いて”ジロウ”とか”サブロウ”と読ませてもいいらしい。
そっちの方がよっぽど問題だと思う。


また、「矜恃」という言葉が「常用平易」ではないと判断されたことが、恐ろしく、また悲しいと感じる。

goo辞書:矜恃

自信と誇り。自信や誇りを持って、堂々と振る舞うこと。きんじ。プライド。

言葉は単純に意味だけを表しているのではない。
その言葉が生まれた背景や使われてきた歴史があって、現在の意味になっている。
だから、「矜恃=誇り=プライド」と置き換えることはできない。
仮に置き換えることができても、文のニュアンスが違ってしまう。


「矜持」という言葉は日常、頻繁に使われる言葉ではないが、人が生きていく上でとても大切な言葉だと思う。
人は普通、損なことはしないようにし、できれば得したいと思っている。
特に周りの人が「得」な方を選んでいるとき、自分だけが「損」な方を選ぶ人間はまずいない。
それでも、全く得なことは何一つ無いことが分かり切っているのに、敢えて、損を選ぶ人もいる。

ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記ー「わかってもらえるさ」RCサクセション

でも、僕は書いた。
ルワンダは遠い世界の私たちとは違う人たちの話。私たちは虐殺なんかしない」と思う観客の皆さんのために。
パンフレットの文章の最後の最後にたった一行だけ。

映画のパンフレットに書いた一行の文がいったいどれだけの効果があるのかも分からず、逆に誤解や批判があることも覚悟した上で、一縷の希望を込めて文を書く人もいる。

それまでのポールさんはとにかく自分の家族を守ることだけに必死だった。家族愛なんて誰でも持っているものだ。しかし、家族を捨てて、他の人々のために残ると決心した時、彼は家族愛を超えた。だからあのシーンは感動的なのだ。

この映画「ホテル・ルワンダ」の主人公ポールさんも、得になることは何一つ無いのに、命がけで残ることを選んでいる。


関東大震災直後、300人の朝鮮人を守った日本人警察署長

これに対し大川署長は「朝鮮人の略奪・殺人の噂は根拠のないもの」とし、「保護中の朝鮮人の所持品を検査したが、小さなナイフひとつも持っていなかった。警察の元を離れればすぐに全員が虐殺される。収容人数が増えても保護方針には変わりない」と対抗した。

大川署長は1940年に63歳で死去した。大川署長の孫(53)は毎日新聞の取材に対し、「定年前に警察を辞めたと聞いているが、朝鮮人を保護したことが問題になったのかもしれない」と話した。

議員達の抗議に真っ向から反論し、300人の朝鮮人を守った警察署長は、警察を辞職している。


杉原千畝

「幸子、ぼくは外務省の命令にそむいてでも、領事の権限で、ビザを出すことにする。いいだろう」       
杉原千畝物語」(金の星社)より

第二次世界大戦時、リトアニア領事代理だった杉原氏は、外務省の命令に背いてユダヤ人難民に6,000人分のパスポートを発行しました。
その後、日本に帰国した杉原氏は外務省を解雇されている。


これらの人達は失うモノの大小はあれど、わざわざ損な選択をしているという点では同じだと思う。
なぜそういう選択をしたかは本人以外はわからないが、「矜持」という言葉がキーワードではないかと思っている。
例えば、「職務に対する矜持」とかである。


今回、「矜」が「常用平易」ではないと判断した裁判官は、こんなことは全く考えていないと思う。
それでも、その結果として「矜持」がカタカナの類義語である「プライド」に置き換わっていくようなことがあれば、情けないし悲しい気になる。
「プライド」という言葉を含めて、カタカナの外来語は薄っぺらく、なんだかプラスチックの様に感じる。
そんな言葉に「矜持」のように良い言葉が置き換わって欲しくはない。


また、最近のニュースでは、新聞記者や教員、裁判官、警察官、政治家などの高いモラルを期待される職業の人間による低俗な犯罪が増えてきている気がする。
こういう犯罪は法律で縛るような話ではなく、やはり、職業に対する自覚を持って行動してもらうしかないと思う。


「"矜"が"常用平易"でない。」と判断するのではなく、「"矜"は"常用平易"な言葉に含まれていないのはおかしい。」という判断はできないものだろうか。


<参考>
酔っ払いのうわごと[社会]命名権
TRAVELER〜彷徨い続ける魂の軌跡ー国の矜持はどこにある?
Livedoor News−「矜」名前には使えません 原告の請求を棄却