歴史に名を残す迷作「ゲド戦記」

世の中に面白くない映画はごまんとあるが、人々の記憶に残り語り継がれるほどとなるとなかなかない。しかし、ジブリの最新アニメ「ゲド戦記」は将にそうなる可能性が出てきた。
ゲド戦記Wiki - ジブリ映画「ゲド戦記」に対する原作者のコメント全文(仮)

アメリカと日本の映画製作者はどちらも、名前といくつかの考え方を使うだけで、わたしの本を原作と称し、文脈をあちこちつまみ食いし、物語をまったく別の、統一性も一貫性もないプロットに置き換えました。これは本に対する冒涜というだけでなく、読者をも冒涜していると言えるのではないでしょうか。

これは原作者本人による映画「ゲド戦記」に対するコメントです。言葉は丁寧ですが、だからこそ、自分の作品が冒涜されたことに対する激しい怒りが伝わってきます。さらに自分の大切なファンまでが犠牲になっていると訴えています。
そして、もっとすごいのがジブリスタッフ(吾朗監督、鈴木プロデューサー含む)が原作者の地元で開いた試写会の後での話です。引き続き、上記サイトから引用すると、

帰り際に宮崎吾朗氏がわたしに「映画は気に入っていただけましたか?」と尋ねました。状況を考えれば、これは簡単に答えられる質問ではありません。わたしは「ええ、あれはわたしの本ではなく、あなたの映画です。いい映画でした」と答えました。

この会話は、原作者の内側にふつふつを煮え立つ怒りのマグマを、強い意思の力で必死押さえつけて、当たり障り無いように答えた内容なのだと思います。そして、この続きは次のようになっています。

そのときは吾朗氏本人と、まわりにいた数人以外の人たちに話しているつもりはありませんでした。個人的な質問に対する個人的な返答が、公開されるとは思っていなかったのです。このことにここで触れるのは、吾朗氏がご自身のブログにそのことを書いたからにほかなりません。

そこで、今ではたった15分で何もかもが公になってしまうという状況を考え、あの映画について最初に持った感想を、ここに詳しく述べることにします。

(強調は引用者)
どうも吾朗監督もブログでこの時の試写会のことを書いているようです。そして、そのブログがきっかけで原作者はこの記事を書いたようです。では、吾朗監督のブログを見てみると、

「ゲド戦記」監督日誌 - 番外編5 ル=グウィンさんの言葉

彼女は短く答えてくれました。
「It is not my book.
It is your film.
It is a good film.」
と。

彼女としては、本当はたくさんおっしゃりたいことが
あったのではないかと思うのですが、
それでも温かい笑顔とともに下さった言葉です。

この短い言葉を素直に、
心から感謝して頂戴したいと、思ったのでした。

ここに、原作者の社交辞令を真に受けて心から喜ぶ吾朗監督の姿がありました。「本当はたくさんおっしゃりたいこと」があった原作者が、恐らく大人げないと思いじっと我慢していたのでしょうが、本人には全く伝わっていなかったようです。このブログの存在を知った(たくさんの日本人が原作者にメールを送っていたようです。)原作者はさすがに黙っていられなくなって、この記事を書いたんでしょうね。遠回しに言っても分からない。誰にでも明確にはっきりと分かるように自分の感想を書く必要があると。
それにしても、吾朗監督は映画館で観客の様子を見たりしないのでしょうか。原作者と一緒に映画を観た「小さな子供たちは怯えたりとまどったりして」いたそうです。日本でもたぶん同じでしょう。もしかしたら吾朗監督にとって、そんなことは気にもとめなかったのかも知れませんが。まあ、吾朗監督にとっては、この作品は自信作だったんでしょうね。しかし、こうなると駿監督が吾朗監督に紙切れを渡して、作品を褒めたという話(基本に忠実だとかいう話)もそうとう怪しい。

もう一つ、皮肉な運命と言えるような記事を思い出しました。

法に抗っての進歩:アメリカにおける日本アニメの爆発的成長とファン流通、著作権

でも改作の最も悪名高い例は、修正主義的な Warriors of the Wind (April 1986) だろう。これは宮崎駿の『風の谷のナウシカ』(1984) をもとにしている。ニューワールド・ピクチャーズは、この映画から30分を切ってしまった。到るところで経費を出し惜しみして、キャラクター名もほとんど変えた。宮崎駿高畑勲もこれにはぞっとした。1992年に高畑はこの編集版についてこう語っている:


とにかくひどい! とんでもないむちゃくちゃな検閲でした。久石さんの音楽もカットして、もちろんせりふも変えてしまいました。スタジオ・ジブリの痛恨のまちがいで、それ以来外国には放映権を与えていませんし、今後も事前に条件を慎重にチェックしてからでないと、権利は二度と売りません。ちなみに、アメリカに売った『ナウシカ』の国際権はあと2、3年で切れます。こうした映画は日本文化に深く根ざしたもので、もともと輸出を想定したものではないんです。検閲するなんて、最悪の裏切りです

将に原作者のお気持ちは、この通りなのではないでしょうか。たぶん、映画化なんて二度とゴメンだと思ってるでしょう。自らの優れた作品を他人に切り刻まれるような目にあったことのある宮崎駿監督や高畑勲監督は、今回のゲド戦記をどう見ていらっしゃるのでしょう。


それにしても今回の問題の一番の犠牲者は誰なのでしょう。興行収入が期待はずれだった映画業界?後継者問題に悩むスタジオジブリ?自らの作品を冒涜された原作者?やっぱり、一番可哀想なのは、夢と期待を裏切られた子供達なんだろうなぁ。