「おじいちゃん戦争のことを教えて―孫娘からの質問状」

おじいちゃん戦争のことを教えて―孫娘からの質問状 (小学館文庫)

おじいちゃん戦争のことを教えて―孫娘からの質問状 (小学館文庫)

61年前の戦争の一次情報、つまり戦争経験者の生の声を聞ける(読める)と思って購入したのですが、著者は実際に出撃したわけではないので、戦地でのリアルな戦争体験は書かれていませんでした。しかし、戦後の自虐教育(著者曰く、GHQによる精神的「カルタゴの平和」)によって歪められていない視点で、あの戦争について総括されています。大まかな内容や考え方はとても納得できるものでしたし、戦争前後の日本の状況や考え方もよく分かります。また、著者の方は昔から文書が得意だったそうで、とても読みやすいです。

きっかけ

著者である中條氏(アサヒビール名誉顧問)が、ニューヨークの高校へ通う孫娘から、アメリカ史の授業で「家族や知人で戦争の体験をした人の話を聞く」という課題がだされたので、戦争のことを教えてほしい、という手紙を受け取ったのがきっかけです。著者がこの手紙を受け取ったときの思いや、逆に質問に対する分厚い回答を受けとった孫娘と担当の先生の感想も書かれていますのが、なかなか感動的です。

太平洋戦争に対する考え方

「日本にとって正しい戦争だと思いますか。」という問いに対して、「戦争の正邪は軽々しく判断すべきではないし、またできるものでもない。」と前置きしながらも、あってはならない戦争をやった責任は日本とアメリカ双方にあるとしています。日本の過ちは中国大陸に戦線を拡大したこと。アメリカの過ちは、日本から戦争以外の選択肢を奪った(ABCD包囲網)こと。昨日のNHKスペシャルで日本が中国大陸で戦線をずるずると拡大していく様子を特集していましたが、その中にあった「日本は資源をアメリカに依存しており、戦争状態になると輸出を止められてしまうので中国に宣戦布告はできない。」というような説明がありました。日本は中国進出時から輸入制限のリスクを認識していたのにそれを止められなかったことになります。本にも書かれていますが、アメリカは開戦前からオレンジ計画として日本との戦争を想定していたそうです。逆に日本はアメリカとの戦争は全く考えておらず、ロシアばかりを警戒してとのこと。私が思うのは、日本はうまくアメリカの戦略にのせられたんだな、ということ。結果的に軍事大国日本を弱体化させ、全て悪いのは日本で、正義に国アメリカを強調できたのですから。
著者はこの一方が悪で、もう一方が正義という考え方をとてもおかしいと思っていて、その例として広島の平和記念公園の原爆慰霊碑をあげています。そこに書かれている銘文「安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませぬから」について、主語がないため誰が過ちを繰り返さないといっているか分からないが、たぶん、日本人なのだろうと言っています。しかし、原爆を落としたのはアメリカで、アメリカは原爆投下によって戦争が早く終決したのだから「正しい」と考えている。つまりそこからは、自分の過ちでないことまで自分の過ちとする日本と、自分の過ちを認めずに正当化するアメリカの姿が見えてくる、と言っている。このことは、原爆投下に対してだけでなく、当時の戦争全体に共通していることのように私には思える。昨日のサンデープロジェクトでも、日本人による満州事変、日中戦争、太平洋戦争の総括が必要だと言っていたが、できるかどうかはともかく「必要」というのはその通りだと思う。
ちなみに、あのマッカーサーも次のように証言しています。GHQ総司令官だったマッカーサーがこういう証言をしているのだから、「全て日本が悪かった」という教育が自虐教育と言われるのは仕方がないかもしれません。
対訳 マッカーサー証言

Their purpose, therefore, in going to war was largely dictated by security.
したがって、彼らが戦争を始めた目的は、主として安全保障上の必要に迫られてのことだったのです。

教育勅語

著者は現在の教育制度についてもいくつか批判していて、いわゆる「教育勅語」を高く評価しているようなので調べてみました。本の中にも原文が書かれていますが、訳は自力で調べるようにと言っています。
教育勅語

私の思い起こすことには、我が皇室の祖先たちが国を御始めになったのは遙か遠き昔のことで、そこに御築きになった徳は深く厚きものでした。我が臣民は忠と孝の道をもって万民が心を一つにし、世々にわたってその美をなしていきましたが、これこそ我が国体の誉れであり、教育の根本もまたその中にあります。

 あなた方臣民よ、父母に孝行し、兄弟仲良くし、夫婦は調和よく協力しあい、友人は互いに信じ合い、慎み深く行動し、皆に博愛の手を広げ、学問を学び手に職を付け、知能を啓発し徳と才能を磨き上げ、世のため人のため進んで尽くし、いつも憲法を重んじ法律に従い、もし非常事態となったなら、公のため勇敢に仕え、このようにして天下に比類なき皇国の繁栄に尽くしていくべきです。これらは、ただあなた方が我が忠実で良き臣民であるというだけのことではなく、あなた方の祖先の遺(のこ)した良き伝統を反映していくものでもあります。

 このような道は実に、我が皇室の祖先の御遺(のこ)しになった教訓であり、子孫臣民の共に守らねばならないもので、昔も今も変わらず、国内だけでなく外国においても間違いなき道です。私はあなた方臣民と共にこれらを心に銘記し守っていきますし、皆一致してその徳の道を歩んでいくことを希(こいねが)っています。

(強調は引用者)
上記の文書は天皇の言葉として書かれており、前半部分で過去の日本国民を讃えていて、真ん中の言葉で「〜べき」と国民(臣民という言葉を使っていますが。)のあるべき姿を語り、後半は天皇の誓いと願いが書いてあります。時々、学校などで教育勅語を生徒に先生が教えたことがニュースで取り上げられたりしますが、この内容の何が問題なのか、私には分かりません。普通に良いことが書いてあると思うのですが。

その他

他にもいろいろ書いてありますが、自分が読む限り偏った見方というのは、ほとんどなかったと思います。例えば、戦後の日本の奇跡的な復興に対しては、日本人の勤勉さが大きく貢献したと言いながらも、一番の要因は朝鮮戦争だったと言ってますし、憲法を押しつけられただから早期に日本人による憲法を作るべきと言いながら、一方で現行憲法天皇の扱い(国の象徴)を褒めたりしています。
褒めると言えば、過去の敵だった国の主張を積極的に歴史の授業に取り入れるアメリカという国の懐の深さについても感心していました。私もそう思います。


中條高徳公式ホームページ
ちょっと意外だったのですが、公式ホームページがありました。公式ホームページなどどうでも良いので、ブログを書いて貰った方が世のため人のため(日本のため)になると思うのは私だけでしょうか。このホームページだと自著の販促サイトの様に感じてしまいます。

月刊「正論」ー孫娘からの質問 おじいちゃん、もっと靖国のことを教えて
ネット上のリソースとしては、上記程度しか見つかりませんでした。個人的には、こういうやらせっぽい問答形式は好きじゃないです。