出版不況

出版業界がもがいている。総売り上げは減り、本の寿命は縮まり、廃業する書店が後を絶たない。ネット書店の伸長も既存書店には逆風だ。それでも「本をつくっても売れない、読者の手に入らない」という「負の連鎖」を打開しようと、書店や取次会社の試みが始まっている。

http://book.asahi.com/clip/TKY200708170254.html

新刊の種類が増え続けているのに本の売り上げが伸びておらず、特に町の本屋は新刊を入手しづらいため、より状況は厳しいらしい。
そして、本が売れなくなった理由は、

 「ケータイなど他の娯楽が広がり、若者の読書離れは深刻なのに、売り上げ維持を重視した出版社は右肩上がりの時代の発想から抜けられない」と出版ジャーナリストの塩澤実信さんは話す。

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とのこと。

町の本屋の価値とは

ただ、町の本屋の売り上げが下がっているのは、単に小売店の淘汰が進んでいるだけのように思える。

書店は書籍を主要商品として最終顧客に販売することを商売としているが、その商売の基礎的条件は1.立地、2.品揃え、3.サービス、程度しかない。
商品の種類は違うが、同種の商売として、お肉屋さん、八百屋さん、洋服屋さん、靴屋さんなどがある。これらもより条件の良い大手スーパーなどとの競争に勝てないことが多いらしい。基本的に書店も同じ理由により大型書店やスーパーなどに対抗できないと思う。ただ、書籍ならではの条件として価格競争がないというのがあるが、それだけでは街の書店のメリットにはならない。

そもそも、単に商品を並べてお客が買ってくれるのを待っているだけの商売では誰でもできることだし、独自性を出せない。
だから、大手スーパーなどではPB商品を開発して店舗自体に価値を持たせようとしている。独自性を出すのが難しい書籍という商品では基本的には品揃えで特徴を出すしかない。

地域密着で商品を販売する商店の理想に一番近いのはコンビニ(コンビニエンスストア)だろう。決して広くはない敷地に駐車スペースを確保し、売れ筋の日用品を豊富に揃え、話題の本やDVDなども販売している。

店頭にない本やDVDも手数料無しでネットで注文することもできる。Amazonよりも品揃えは少ないが不在がちな人にはこちらの方が便利だろう。

「若者の読書離れ」というウソ

 「最近の若者は本を読まない」はウソ。知らずに言う奴は、自分に都合のいい事実しか見てないだけ。知ってて言ってる奴には理由があって、1) 出版・マスゴミ業界の方便、2) 自分語りしたいオヤヂの2者が隠れている。

「最近の若者は本を読まない」本当の理由: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

読んでいる本の質はともかく、以下の資料によると文字で書かれた本が読まれているのは本当らしい。それも、若者ほど本を読んでいる。(引用元は「最近の若者は本を読まない」本当の理由: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる)

書籍読書率

年代別の書籍読書率

出版不況の原因

若者の読書離れがウソであるならば、なぜ出版不況になるのか。実際の所は分からないが、全体の売上が減少しているのに新刊の発行数が増え続けているのなら、各新刊当たりの売上数が減少し続けていることになる。
それにしても、新刊をそんなに発行し続けて売れると思っているのだろうか。「本」自体は1000年以上前からある。それらをそのままの形で現代人が読むことはできないが、現代語に翻訳されていれば読めるし、面白いものも少なくない。しかし、本屋に並んでいるのは、新刊ばかり。現在発行され続けている新刊が過去の膨大な資産よりも優れているのなら、今のやり方で問題はないが、そうでないならばやり方を変える必要がある。つまり、良書を厳選して陳列すべきだ。そうでなければ、良い本を探している客は、新刊が邪魔で良書を見つけることができない。

過去の良書が見直される例

太宰治の代表作「人間失格」の表紙を、漫画「DEATH NOTE(デスノート)」で知られる人気漫画家、小畑健さんのイラストにした集英社文庫の新装版が6月末の発行以来、約1か月半で7万5千部、古典的文学作品としては異例の売れ行きとなっている。

痛いニュース(ノ∀`) : 太宰「人間失格」、人気漫画家「小畑健」の表紙にしたらバカ売れ - ライブドアブログ

2ちゃんねるの書き込みでは表紙を人気作家にすれば、どんな本でも売れるようなことが書いてあるが、表紙はきっかけに過ぎず、本が売れた本当の理由はやはり内容だと思う。そして、出版社は本当にすべきことは、こういう優れた本を発掘し宣伝する事なのだと思う。

なお、人間失格は今まで読んだことがなかったので、青空文庫(太宰治 人間失格)で読んでみたが、2〜3時間程度で一気に読めた。何となくNHKにようこそ! (角川文庫)と似ている気がする。

新刊を売りたい出版社

終戦まもない昭和22年、まだ戦火の傷痕が至るところに残っているなかで「読書の力によって、平和な文化国家を作ろう」という決意のもと、出版社・取次会社・書店と公共図書館、そして新聞・放送のマスコミ機関も加わって、11月17日から、第1回『読書週間』が開催されました。

http://www.dokusyo.or.jp/jigyo/dokusyo/top.htm

(強調は引用者)

読書週間は、てっきり、本を読まない人のためのものかと思っていた。しかし、実際には、本を読まない人のためでもましてや「文化国家」のためでもないように見える。

「若い人に贈る読書のすすめ」は、成人式・卒業式等新たな人生の一歩を踏み出す若い人にぜひ読んでもらいたい本を紹介する運動です。
 毎年、各都道府県の読進協より、この1年に出版された本の中から「若い人にぜひ読んでもらいたい本」を3冊推薦してもらい、その推薦書をもとに(社)読進協の事業委員会で24冊の書目を選定、リーフレットを制作し、全国の公共図書館・書店等に配布しています。

http://www.dokusyo.or.jp/jigyo/wakai/wakai.htm

(強調は引用者)

もし、読書人口を増やしたいのであれば、過去1年間に出版された本に限定せずに若い人に本当に読んで欲しい本を推奨すべきだろう。
また、推奨本24冊のうち1000円以下の本は2冊しかなく22冊は1000円以上。2000円近いものも多い。価格を下げればより多くの人に読まれると思うのだが。著作権が切れなければ安くできないのであれば、現行の死後50年という保護期間(保護と言うより「独占販売期間」と言った方が実態と合っている気がする)を短くするように働きかけるというのも良いかも知れない。