サイヤ人のような任天堂

ドラゴンボールに登場する戦闘民族サイヤ人は「深いダメージから回復すると戦闘力が大幅に上昇する」。さらにより強大な敵が現れ危機が訪れる度に、スーパーサイヤ人スーパーサイヤ人2、スーパーサイヤ人3・・・・とより強く変身することができる。

ゲーム会社の任天堂も会社が傾きかけるたびにその姿を変え、より強く変身してきたように見える。

最初の危機

任天堂は1889年に花札の製造会社として設立された。花札の質が良かったことと賭博場では花札を使い捨てにしていたことから売上は良かった。また、花札とたばこの箱の大きさが近かったことから、たばこ会社と提携して全国で販売した。
しかし、初代社長が他界した時、息子の二代目社長が出奔中だった。そのため三代目として若干22才の孫の山内博氏が大学を中退して社長に就任することになった。これに社員が大反対し100名以上のストライキとなった。
この時、新社長は1.プラスチック製トランプを日本で始めて製造、2.ディズニートランプの発売、3.簡易マニュアルの添付により、売上を伸ばし、大阪証券取引場二部に上場した。
単に商品が売れただけでなく、それまでトランプが持っていた賭博や陰鬱なイメージを一新し、TV CMも使ってトランプを大人から子供まで誰もが楽しめる娯楽商品に変えることに成功した。

二度目の危機

1970年代、任天堂は将来に希望が見えないカード玩具から脱却を図るべく負債を抱えながら試行錯誤を続けていたが、オイルショックが追い打ちをかけ、人々が娯楽商品にお金を使わなくなってしまった。それまで任天堂を支えていたトランプも家庭に行き渡り売れなくなっていた。試行錯誤による負債と売上の低迷。任天堂はいつ倒産してもおかしくない状態だった。
この頃、任天堂はテレビゲーム業界に参入し、多くのヒット商品を作る。1.家庭用テレビゲーム(ブロック崩しなど)、2.業務用ドンキーコング(マリオの原型が登場)、3.ゲーム&ウォッチの発売(十時キーの発明)、4.ファミリーコンピュータの発売によって負債の返済どころか日本とアメリカ(たぶん世界も)の家庭用テレビゲーム市場を制覇する。
任天堂は、花札やトランプの販売も続けていたが売上的にも社会の認識もこの頃にはテレビゲーム会社に変わっていた。

三度目の危機

「25000円のスーパーコンピュータ」とまで言われた高性能ゲーム機NINTENDO64プレイステーションに販売台数で及ばず、続くゲームキューブプレイステーション2(PS2)に大差をつけられる。また、ソニーが全く新しい高性能な携帯型ゲーム機(PSP)を発表し、据置型に続いて携帯型ゲーム機の市場もソニーに奪われると思われていた。
これに対し任天堂は、1.ニンテンドーDSの発売、2.Wiiの発売で対抗。携帯型/据置型の両方でこれまでの記録を塗り替える販売の伸びを記録する。
危機が訪れる度にその姿を変えてきた任天堂だが、今度は何に変わろうとしているのだろうか。

任天堂大和総研が「同社の評価軸を変える時期」と

 任天堂 <7974> は大和総研が12日付で同社のレーティングを「2」から「1」に引き上げた。現行世代ゲーム機であるニンテンドーDS、Wiiについて、(1)現行世代機で最も普及が進むと見られるハードであるという確度が高まっていること(2)ネットワークに対応したハード機種であること(3)「分かりやすさ」というこれまでのホームエンターテイメントツールには欠けていたキーワードを兼ね備えていること、の3点を理由にゲームの範ちゅうにとどまらないあらゆるネットワークサービスの提供を可能にするハードであると指摘。
 これらの変化を踏まえれば、任天堂の評価軸を「ゲームセクターの中心企業」から米アップルやグーグルなど「ホームエンターテイメントサービスの中心企業」へと変更すべき時期が近づいているとする。妥当株価は同様な市場創出効果を演出している企業群および、同社のヒストリカルバリュエーションの双方を考慮し9万円。

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(強調は引用者)

「ゲーム」と「ホームエンターテイメント」は何が違うのか、やグーグルはホームエンターテイメントサービスの中心企業だったのだろうか、とかマイクロソフトは入れて貰えなかったのね、など、いろいろな疑問が沸いてくるが、「任天堂の評価軸が変わる」という点に限っては強く同感。

ニンテンドーDSWiiもゲームでないならば何なのかと聞かれれば正しく答えることはできないが、実際、ゲーム以外の目的で使われるケースが増えてきている。任天堂花札やトランプだけを販売していた頃に、世界で2兆円以上の規模のテレビゲーム市場が誕生することを予測できないのと同様に、これから任天堂が何に変身しようとしているのかも予想できないと思っている。

サイヤ人任天堂に共通しているもの

深いダメージを受けたり危機が訪れる度により強く変身するサイヤ人。同様に会社が倒産するような危機が訪れる度にこれまでとは全く違う商品を開発し会社を成長させてきた任天堂
もう一つの共通点は、どちらも目的が変わっていないということ。サイヤ人である孫悟空はより強くなることを求めた結果、つぎつぎと強敵が登場、その戦いの中で空を飛んだりテレポートしたりと様々な能力を身につけることができた。任天堂も何度も危機が訪れたが、娯楽分野以外には手を出さずに、常に新しい娯楽商品を提供することで生き延びてきた。(但し、1960年代にホテル経営/タクシー会社/インスタント食品など娯楽と関係のない業種に手を出し、逆に危機を招いたことあり[2007.12.18追記])。これからも蓄えてきた技術やノウハウは新しい娯楽商品の開発のために使うのだろう。(ゲームコントローラの技術を使って新しい体重計を開発したように。)

次に任天堂が直面する危機がどんなものなのか、また、その危機を乗り越える時にどういう商品やサービスを提供するのか想像もできないが、任天堂には悪いが是非見てみたいと思う。