「バナナの皮で滑って転ぶ」のネタを考えたのは誰か

化物語(上) (講談社BOX)にバナナの皮で滑って転ぶ話が出てくる。「バナナの皮で滑って転ぶ」と言えば余りにも定番すぎるネタだが、誰が最初に考えたのか気になり、調べてみた。

青空文庫

青空文庫の検索で以下が見つかる。

国際殺人団の崩壊(ほうかい)−海野十三(1931年)

バナナの皮を踏んだものは、大抵(たいてい)ツルリと滑べることになっているが、この紳士もその例に洩(も)れずツルリと滑ったのである

海野十三:国際殺人団の崩壊
虎狩−中島敦(1942年)

今から思うと、実に笑い話だけれど、其の時私はまじめになって、此のバナナの皮を下へ撒(ま)いておいて、虎を滑らしてやろうと考えたのだ。

チャアリイは何処にいる−牧逸馬(1925年?〜)

いったいアメリカの巡査というと、いつもチャアリイ・チャップリンにお尻を蹴られたり、怒って追っ駈けようとする拍子(ひょうし)にバナナの皮を踏んで引っくり返ったりなんか


自分の経験だと、マンガやアニメでこのネタを見た記憶があるのだが、実際にはテレビ放送が始まる前からこのネタは定番だったらしい。


その他の国内サイト検索

普通にググってみると以下が見つかった。

初めてかどうかは判りませんが
チャップリンの「アルコール先生海水浴の巻」1915年
にご指摘のシーンがあるそうです。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=27856#2

バナナの皮で転ぶ、ということで初めて笑いをとったのは何でしょう? ... - Yahoo!知恵袋

そして、少年がポイ捨てしたバナナの皮にけつまずき、すってん転ぶその姿。まさにバナナの皮で転ぶ芸の元祖である。

偽牧師 −SummaArs 藝術大全

チャップリンの映画でバナナの皮で転ぶシーンがあるとのこと。「アルコール先生海水浴の巻」と「偽牧師」の2つが見つかったが、前者の方が1915年公開と古い(後者の公開は1923年)。また、チャップリンであれば青空文庫牧逸馬氏の著作の内容とも一致するので、この映画がきっかけでネタが国内に広まったと考えて良さそう。


海外サイト

海外伝来のネタとのことなので、海外サイトも念のために確認したが、チャップリンではない別のソースが見つかった。

Peels

The depiction of a person slipping on a banana peel has been a staple of physical comedy for generations. A 1906 comedy record produced by Edison Records features a popular character of the time, "Cal Stewart", claiming to describe his own such incident, saying:

Banana - Wikipedia

要約すると、バナナの皮で滑る動作はカル・スチュワート氏が1906年に述べているとのこと。これが本当ならば、チャップリンより9年早い。
Wikipediaによるとカル・スチュワート氏は喜劇俳優や小話のパイオニアだったとのこと。
YouTubeにも当時の映画がアップされていた。

http://youtube.com/watch?v=8ZrATNzuksQ

そして、Wikipediaにも引用されていたバナナで滑るエピソードは、"Uncle Josh in a Department Store"というタイトルで語られている。映画ではなく小話で、音声ファイルとテキストがネットに公開されている。

Uncle Josh In a Department Store (1910)
Uncle Josh in a Department Store (1901)
Uncle Josh in a Department Store (Intro. John Petty) (Rare Promo) (1898)

Collected Works of Cal Stewart part 2 : Cal Stewart : Free Download, Borrow, and Streaming : Internet Archive

テキストは以下。

Wall he showed me
which way to go, and I started out, and
wuz walkin' along down the street lookin'
at things, when some feller throwed
a bananer peelin' on the sidewalk. Wall
now I don't think much of a man what
throws a bananer peelin' on the sidewalk,
and I don't think much of a bananer
what throws a man on the sidewalk,
neether. Wall, by chowder, my foot hit
that bananer peelin' and I went up in the
air, and cum down ker-plunk, and fer about
a minnit I seen all the stars what stronomy
tells about, and some that haint been discovered
yit. Wall jist as I wuz pickin' myself
up a little boy cum runnin' cross the street
and he sed "Oh mister, won't you please do
that agin, my mother didn't see you do it."

Uncles Josh's Punkin Centre Stories by Cal Stewart - Full Text Free Book (Part 1/2)


オーディオファイルの"Rare Promo"の意味がよく分からないが、聞いてみればちゃんとテキスト通りに話をしている。ただ、ノイズの笑い声でひじょうに聞き取りづらいが。また、テキストの英単語が古いらしく分かりづらい。"cum"="come"、""wuz"="was"、"Wall"="Well"だろうか。バナナも"Banana"ではなく"Bananer"になっている。
バナナで滑って転ぶシーンは、誰かがバナナの皮を通りに投げるのだが、特に気にせずに歩いていたら、見事にバナナの皮を踏んづけて、思い切り転んで、目の前にたくさんの星が見えた、という感じ書いてある(ように思ったが自信がない)。

まとめ

最初に「バナナの皮で滑って転ぶ」というネタを考えて小話(レコード)で公開したのは、カル・スチュワート氏ということになる。時期はプロモーションが1898年で、正式リリースが1901年。(Wikipediを信じるなら1906年

また、「バナナの皮で滑って転ぶ」を実演して見せたのは、チャップリンで、映画のタイトルは「アルコール先生海水浴の巻」(公開は1915年)。この映画がきっかけでネタが日本中(たぶん、世界中)に広まったと思われる。