レコード会社には歌い手と聴き手を結ぶ架け橋になって欲しい

ニコニコ動画では各動画にタグというキーワードを設定することができるのですが、ユーザーが歌を歌った曲には「歌ってみた」というタグが付いています。以前はニコニコ組曲のようにアニメの主題歌など既存の曲を歌ったものがほとんどだったのですが、ボーカロイド効果なのか今ではオリジナル曲の方が多いような気がします。
その中から特に印象に残った曲を引用してみます。


この曲は美しい双子の男女の悲劇を歌ったものです。4月29日に公開されたばかりなのにすでに70以上の「歌ってみた」動画がアップされています。不幸な結末にもかかわらず、その独特の世界観と曲の雰囲気がすばらしく、多くの人を感動させているのだと思います。上記の動画も「歌ってみた」の一つですが声がこの曲に一番合っているように思います。


こういう画像は性に合わないので、曲も期待していなかったのですが、聴いた途端、そのあまりの完成度に笑ってしまいました。作詞・作曲・編曲・ボーカルを一人でこなされているそうで、天は二物も三物を与えてしまうことがあるようです。この方はボーカロイドにこだわりを持たれているようですが、ニコニコのタグには「ボカロキラー」「 歌ってみた封じ」という異名が付けられています。私もご本人に歌って貰った曲の方を聴いてみたいです。


以前にもブログで紹介した歌和サクラさんの「歌ってみた」です。声に透明感があり、聴いていていやされる感じがします。自分で歌うだけでなく、オリジナルのボーカロイド曲「アンドロイド」も投稿されています。どうも、世の中、思っているよりマルチな才能の持ち主が多いようです。


この曲も以前にブログで紹介した曲です。完全に「プロの犯行」です。


こういうニコニコ動画を観ていると、昔、TVで流れていた曲を適当にレンタルで借りて聴いていたことがバカバカしく思えてきます。昔は「みんなが知っている曲」を聴くのが普通でした。新しい曲に触れる機会がテレビくらいしかなく、機会が限定されていたのも原因だったと思います。だから、テレビドラマやCMの曲ぐらいしか、音楽を購入する選択肢に入りませんでした。見方を変えれば、テレビで流れている曲をひたすら買っているだけだったように思います。
それが、ニコニコ動画ならそれこそあらゆるジャンルの曲に触れる可能性があります。もちろん、すばらしい曲もあれば、とりあえず作ってみたというような曲もあり、内容は千差万別です。ただ、だからこそ自分で、判断できる余地が生まれるのだと思います。
また、音楽の価値は、歌を歌ったり、楽器を演奏したり、それらを聴いて楽しむことだと思っていますが、ニコニコ動画というプラットフォームでは歌い手と聴き手の距離が非常に近いように感じます。これはニコニコ動画の擬似同期の効果もあり、歌い手と聴き手がリアルタイムでコミュニケーションをしているような錯覚を起こさせるからだと思います。時間も場所も関係なく、歌い手と聴き手を結びつけるこのプラットフォームは音楽にとって理想に近い環境ではないでしょうか。

1878年エジソンが蓄音機を発明するまで、歌を聴くには直接、人が歌っているのを聴く以外に方法がありませんでした。それが、レコード会社が誕生し、レコードが大量生産されるようになって、より多くの人が良い音楽に触れる機会が増えました。レコード会社は競ってレコードを改良し、収録できる曲の長さを伸ばし、音質を向上させてきました。そして、1982年にはCDが登場します。
レコード会社はレコードの登場以来、音楽を記録する媒体を何度か変えましたが、歌い手と聴き手を結びつける役割は変わりませんでした。ところが、最近は今までとは反対のことをすることが多くなりました。たとえば、CCCDで音楽を聴く利便性を損ねたり、著作権を厳格に適用して、ネット上でのユーザーのコミュニケーションを阻害したりなどです。もちろん、現行の著作権法上、権利者が楽曲をコントロールすることは可能でしょう。しかし、レコード会社に求められている歌い手と聞き手を結びつける役割を考えると、そういったやり方は果たして正しいと言えるのでしょうか。
もしレコード会社の役割がCDを大量生産して販売することだと言うのなら、CD以外の媒体で楽曲が広がることは認められないかも知れません。しかし、情報の複製コストが限りなくゼロになった今の時代に、同一内容のCDを大量生産し店頭販売するビジネスが続けられるとは思えません。
たぶん、レコード会社の人はCDを売ることをすぐには諦めきれないのでしょうが、自動車の発明によって自動車が馬車を置き換えたように、その変化は避けられないでしょう。この前、アップルのiTunesストアが1月の米国売上調査でシェア1位になったニュースがありましたが、ダウンロード販売の売上は更に伸びていくと思います。
これまでレコード会社はレコードを大量生産し販売することで利益を得ていましたが、その本質的な価値は歌い手と聞き手を結びつけることです。ユーザーは媒体ではなく楽曲に対して対価を支払ってきました。レコード会社には初心に帰ってもらい、インターネットが当たり前の時代でどうすれば、歌い手と聴き手がより良い関係を築けるかを考えて欲しいです。
インターネットだからと言ってダウンロード販売が最終ゴールだとも思えません。ダウンロード販売は媒体複製を効率化しただけで、本質的にやっていることはCD時代と変わりません。歌い手と聴き手を結ぶという意味で一番成功しているのは、やはり、ニコニコ動画なのだと思います。
今はまだニコニコ動画で投稿者にお金を送る機能はありませんが、ひろゆき氏も「ユーザーにお金を払う話とかも,そんなコンテンツ(違法コンテンツ)がなければすぐできたんですよ」と言っています。この投げ銭/寄付機能が実装できれば、ウェブ進化論に書かれていた「1億人の人から1円ずつもらえたら1億円になる」の社会が実現できるかも知れません。それは今のコンテンツを売るのとはまったく違う世界です。その世界では、コンテンツを複製して広めることは違法どころか、推奨される行為となるしょう。