分け前でもめるより獲物を増やすべきでは

秋葉原無差別殺傷事件について書いたエントリについて、予想外のたくさんの「はてブ」がありちょっとビビる。ただ、誤解もあるようなので、その補足とエントリを書いてから思ったことを書いてみる。

「政治の究極的な役割は金の配分」旨の事を読んだことがあるが、WEや非正規、年金等の様な生活を直撃する問題は国民の目を思いっきり政治に向けたと思う。その表現が投票であり無関心でありテロであるということか。

http://b.hatena.ne.jp/Tamansky/20080615#bookmark-8950892

あの事件を正社員と派遣社員の配分(労働と賃金)の問題と捉えることは間違いではないと思うが、もう一つ大きな観点が不足していると考えている。どういう事かというと、正社員と派遣の話というのは、「一つのイチゴのショートケーキを6人兄弟で分け合おうとしている」ことのように思える。確かに、今の派遣社員の立場はとても不利だと思うが、正社員が楽してたくさん貰っているとも思えないし、日本の企業の幹部の給料が外国と比べてそれほどいいとも思えない。たぶん、バブル以前はみんなで分け合っても十分足りるだけのケーキがあったのが(一億総中流時代)、いつの間に一人分をみんなで分けることになって(ワーキングプア時代)、一番力の弱い末っ子が分け前を貰えなくなっているような気がする。

日本は資源のない小さな島国で、そこに1億2千万人以上の人が暮らしている。そして、つつましいとはかけ離れた暮らしをしているから、食料でもエネルギーでも多くのものを輸入に頼っている。輸入するための費用はどうしているかというと、原材料を加工して付加価値を付けて輸出することで稼いでいる。確か、昔、学校でそう習った気がするし、Wikipediaにもそんなことが書いてあった。

原油・鉄鉱石などの原料を輸入して自動車、電気製品、電子機器、電子部品、化学製品などの工業製品を輸出する加工貿易が特徴である。
(中略)
日本の基幹産業は工業であり、特に素材・土木・造船・金属加工・機械・電気・電子工業などの製造業は世界最高水準にある。

日本 - Wikipedia

総務省統計局には1956年(昭和31年)から2003年(平成15年)までの貿易額の資料があり、輸出額の推移が分かるようになっている。

(統計局ホームページ/日本の長期統計系列 第18章 貿易・国際収支・国際協力)

この資料でまず気づくのは、右側にある「一般機械」「電気機器」「輸送用機器」の比率の高さ。(電気機器はテレビやオーディオ、輸送用機器は車やバイクを含む。)2003年で見るとそれぞれの比率は20%を超え、3つ全体で60%を超える。

日本の輸出金額の推移

輸出総額は1956年以降、バブルが始まる1986年までほぼ一貫して増え続ける。そして、よく分からないが、バブル期の1986年〜1991年はほとんど増えず、1985年と1991年はほぼ同じ金額になっている。その後は徐々に増えていくが、かつてのような急激な伸びはなくなっている。(1978年に20兆円だったのが1984年には40兆円と6年で倍増している)素人目には、数年で倍増する輸出の急激な伸びによって、「一億層中流社会」が支えられていたと思えるがどうだろう。

このサイトの別の資料にはここ数年の輸出額が書かれている。

統計局ホームページ/日本の統計 2019−第15章 サービス産業

2003年には54兆円だった輸出額が、2006年(平成18年)には75兆円に増えている。しかし、その内訳を見ると、不安も感じる。

統計局ホームページ/日本の統計 2019−第15章 サービス産業

テレビの輸出台数がほとんど伸びておらず、音響機器は台数・金額共に減ってきている。これは一時的な傾向ではなく、今後も同じ様な傾向が続いていくような気がする。

以前から思うのは付加価値の高い、IT機器やサービスが米国製品ばかりということ。会社にあるパソコンは日本製でも利益の大きいCPUやOS、ソフトウェアは米国製。ITゼネコンと揶揄されながら大枚はたいて作られるコンピュータシステムもやはりサーバもソフトウェアも米国製ばかり。

パラダイス鎖国が日本の政策だったとしたら、余りにも大きな失策だと思う。日本は輸出しないとやっていけないのに、国内だけでしか販売できないビジネスに未来があるとは思えない。iPhoneが日本ではそれほど受け入れられないという話もあるが、日本メーカーは海外で売れる製品を作れない時点でiPhoneに負けていると思う。

コピーワンスの話も同じ。なぜ、日本だけ変な縛りを入れて国際的に通用しない製品を作らせるのか疑問に思う。国策として日本企業が国際競争で有利になるために、何かの施策するならば、分からなくもないが、実際は海外の企業が入ってこれない囲いを作っているように見える。そんなことをしていては、ユーザも日本企業も海外の企業にも誰にもメリットがない。

話がだいぶずれたが、言いたかったのは、小さいな獲物の分け前をめぐって争うよりも、獲物の数や量を増やす方法を考えた方が利口ではないかということ。マイクロソフトGoogleAppleAmazonIntelOracle等々の何社かが日本にあれば状況もだいぶ違ったものになっていたような気がする。どうすればそういう企業が生まれるかは分からなくても、そういう企業が生まれなくする方法は、誰でも知っている。たとえば、今、日本がやっているように不必要な縛りを加えたり、政府の過干渉で大企業のリスクを減らしビジネスの安全を保証したりすれば、ベンチャーが生まれないし、企業も変わることはないだろう。

どうせ日本は輸出に頼るしか方法がないのだから、どうすれば良いかのアイディアを出し合った方が有益だと思う。たぶん、やれることは沢山あるような気もするし。

改版履歴

2008/06/17 初版
2008/06/18 第2版 「日本の輸出金額の推移」のグラフを追加