ゲームに奪われつつある「PCの持つ本質的な魅力」

低価格/低機能なネットブックの売り上げが好調なことを受けて、PCは更なる低価格化への道を歩み続けるという記事が先月末に出ていた。

長期的な視座に立てば、パソコンも電卓と同じ運命にある。

http://event.media.yahoo.co.jp/nikkeibp/20090121-00000000-nkbp-bus_all.html?p=1

自分も同じ事を3年前の2006年1月10日にVISTAの記事を読んで、次のように書いた。

パソコンベンダー各社はAV機能などいろいろな付加価値を追加して差別化を図ろうとしているが、一時的に、ヒットを出せたとしても、低価格なパソコンが増えて市場は徐々に収束していくだろう。

たぶん、電卓と同じ道をたどるのではないかと思う。

パソコンの未来 - うつせみ日記 (Utsusemi Nikki)

この時はネットブックのような異質な価格体系の製品は存在しておらず、マイクロソフトが低価格化圧力を押し返すのではないかとも思っていたが、現実には条件付きでWindowsの低価格版を認めてしまった。
このままネットブックが開けた風穴が広がって、PCの低価格がどんどん進んでいくのかも知れないなと漠然と思っていたときに、面白い記事を見つけた。

これは一例でしかないが、PCを買ってアクティブに何かに挑戦することの楽しさに導くことは、PCの持つ本質的な魅力をユーザーに知ってもらう上で、とても重要なことだと思う。

本田雅一の「週刊モバイル通信」

AppleのPCに標準でインストールされているソフトであるGarageBandを例に、PCにはメールやブラウザといった一般的な使い方以外に「PCの持つ本質的な魅力」があると記事では主張している。もしそういったものがあるのであれば、その魅力を掘り下げることで「PCの電卓化」を止められる、もしくは低価格版と高機能版の2つの領域に分けることができるかもしれない。
記事中ではこの「本質的な魅力」が何なのかは具体的に書かれていない。だからこの魅力が何なのかは推測するしかないが、自分は

  • 1.様々なソフトウェアを自由にインストールできる柔軟性
  • 2.ユーザーと擬似的なコミュニケーションが可能なインタラクティブ

の2つによって得られるユーザー体験だと思う。今は様々なメディア、本やテレビやラジオが世の中に溢れているが、基本的には情報の流れは一方通行になっている。対して、PCはユーザーの反応に応じて表現を変えることができる。こういった特徴はインプレスの記事で例として紹介している何かを学ぶ時に有効なんだと思う。


そして、もしこの2つの特徴が「PCの持つ本質的な魅力」を支えているのだとしたら、やはりPCに未来はないとしか思えない。いわゆるゲーム機はこの2つの特徴を備えているだけでなく、人を楽しませることのスキルやノウハウの多くを持っており、枯れた技術を使うが故により多くの人に受け入れやすい製品を提供することができる。
PCは様々なソフトをインストールすることで、「なんでもできる機械」を目指してきた。メール、(テレビ)電話、音楽や写真/動画の管理、DVDプレーヤーなどなど。一方、ゲーム機は「暇つぶしの機械」として生まれた。ゲーム&ウォッチが、電卓をいじってで暇つぶしをしていた人を見て発案された話もあるくらい。だから、ゲームはとにかく面白いことが必須条件になる。そして、この「面白いこと」のノウハウを暇つぶしだけでなく、実用的なことに応用しようとしたのが、DS/Wii以降の任天堂の方針と挑戦のように見える。実用性重視のPCソフトと面白さこそがすべてのゲームソフト。最終的に多くの人の支持を集めるのは、面白さを持つゲームソフトではないかと思う。Appleの製品は好きだし使い勝手も良いと思う。しかし、相手が悪すぎる。


WiiFitは国内でも海外でも大ヒットしているが、WiiMusicは任天堂が期待したほど売れていないらしい。しかし、だからと言ってゲームと音楽の相性は悪いわけではない。リズム天国ゴールドのヒットからもそれは分かる。だからこそ、Appleが楽器の学習ソフトをPCで提供しているように、ゲーム機でもピアノの学習ソフトを提供すればそこそこ売れるんじゃないかと思う。PC向けのピアノ学習ソフトはすでに発売中(簡単!ピアノマスター | KAWAI コンピュータミュージックなど)だが、それよりは売れるのではないだろうか。


PCのメールやブラウザの機能は携帯電話や低価格PCであるネットブックに移っていき、高付加価値でインタラクティブな機能はゲーム機に奪われる。これがPCの未来の一つだと思っている。しかし、PCには今までとは違う発展の方向があるような気もする。どういう事かというと、「電話機を再発明」したiPhoneのような方向。iPhoneは、見た目も使用目的も使われ方もこれまでのPCとはまったく違うがその「中身」はPCだろう。ゲーム機が「暇つぶし機械」から「○○の時間を楽しく過ごす機械」へと自らの定義を変え生まれ変わったように、PCも「なんでもできる機械」から「○○ができる機械」として機能を特化することで生き延びることができるんじゃないかと思う。


もちろん、PCでできることはもっと幅広い。自分が子供の時にPCもどきの「らくがき」を買ってもらってやったことはゲームではなくBASICの打ち込みだったし、初めてPCを買ったときにやったことはHDDの初期化とLinuxのインストールだった。そういう主流以外のPCニーズはこれからも形を変えて残るだろうが、大勢には影響しないと思う。