「情報7daysニュースキャスター」の捏造報道とBPOの見解について

「情報7daysニュースキャスター」による捏造報道について放送倫理・番組向上機構(BPO)という団体がコメントしたり、総務省を批判したというニュースを読んで、多少興味が湧いたので少し調べて、感想・提案を書いてみました。

経緯

ソースは、主にTBSの「ニュースキャスター「二重行政の現場」についての回答」と放送倫理・番組向上機構(以下BPO)の「TBSテレビ『ニュースキャスター「二重行政の現場」』に関する委員長談話を発表」によります。どちらの文書もBPOのサイトを参照。

  • 2月7日 「情報7daysニュースキャスター」で地方自治を特集。好評を得る。ゲストは東国原、橋下両知事。
  • 4月6日 チーフディレクターが担当ディレクターに「二重行政の例」の取材を指示
  • 4月7日 担当ディレクターは大阪府に「二重行政の例」を電話取材
  • 4月8日 担当ディレクターは、国側の近畿地方整備局の担当セクションに取材を申し込むも希望日の4月9日、10日は調整付かず

     担当ディレクターはチーフディレクターに簡単な経過報告

  • 4月10日 国土交通省の出張所の外観と道路清掃車などを撮影

     チーフディレクターへの帰社報告とVTR編集

  • 4月11日 編集作業完了

     事前試写
     「情報7daysニュースキャスター」放送

  • 4月15日 府担当者から電話で放送内容について指摘される

     担当ディレクターは特に対応せず

     チーフディレクターは初めて担当ディレクタから事情を聞く

  • 4月24日 近畿地方整備局に対面取材し事実を確認
  • 4月25日 「お詫びと補足説明」放送
  • 5月15日 BPO、第25回委員会でTBSに対して質問状を出すことを決定
  • 5月22日 BPO、TBSに対して質問書を発行
  • 6月5日 総務省、TBSに対し厳重注意文書を発行
  • 6月26日 TBS、BPOへ回答書提出
  • 7月10日 BPO、第27回委員会で本問題ついて審議入りしないことを決定
  • 7月17日 BPO、委員長談話を発表し総務省の対応を批判

放送内容

以下の記事で放送内容(動画)を確認できます。

TBSの見解

6月26日にTBSからBPOへ提出された回答書から、TBSの本問題に対する見解をまとめてみました。引用ではなく、要約なので気になる方は直接本文(pdf)を参照してください。

  • ブラシの上げ下げは業者まかせでありブラシを上げて走る場合もあるのだから、全くの虚構を放送したものではない。(P.7)
  • 「事実に反した表現」「誤解を与えた表現」ではなく、「行き過ぎた表現」で「誤解を与えかねない表現」だった。(P.7)
  • 当該の交差点については番組映像は正確なものではなかった(P.7)
  • そうした映像を基に、より大きな問題を指摘したり論じたりするのは更に適切で なかった(P.7)
  • お詫びや補足の放送の際の表現については、もっと慎重に検討すべきだった(P.7)
  • そもそも企画の根幹となるテーマや取材対象を選ぶスタート地点で、充分な検討が行われていなかった(P.7)
  • 担当ディレクターとは取材中にもっと情報交換し検討に努めるべ きだった(p.8)
  • 試写段階でのチェック不足(P.8)
  • 再発防止策として、ネットワーク上に「取材日誌」を作り情報共有を強化し、教育も実施、人員も増強、「ガイドライン」を新設する(P.8-9)

BPOの見解

今回出されたBPOの見解をまとめてみました。これも引用ではなく、要約なので気になる方は直接本文(pdf)を参照してください。

  • この番組が報じた内容が事実に反するものであったことは明らかである。(P.1)
  • 二重行政の無駄を象徴する例としては適切でなく、そもそもどちらでもいいような些末な事柄であり、問題としては小さい。(P.2)
  • TBS担当者自ら、経緯や理由が解明し、再発防止策を策定し、実行している。(P.2)
  • 今回の問題は小さな問題であり、自主的な取り組みの内容は納得できるものであるから、審議対象にはしない。(P.2)
  • 総務省は放送業界の自主的な取り組みを尊重すべき。安易な行政指導は表現の自由の萎縮効果につながる。(P.3)

総務省の厳重注意文書

同様に総務省の厳重注意文書の内容をまとめてみました。もともと短いのでまとめるまでもないですが。(html)

  • 事実を正確に報道したものとは言えない
  • 放送法「報道は事実をまげないですること」に違反している
  • 今後このようなことがないよう厳重に注意するとともに、再発防止に向けた取組を強く要請する

感想

放送法(昭和二十五年五月二日法律第百三十二号)には以下のように書かれています。(リンク。以下の引用も同様。)

第一条
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。

そして総務省は放送事業の監督する立場にあり、この法律が守られるように適切な対応を求められます。ですから、今回のように番組スタッフが事実と異なることを認識しておりながら事実であるかのように放送したことは、明らかに放送法第3条の2第1項第3号「報道は事実をまげないですること」に違反しており、総務省としては「放送による表現の自由」を守るため違法な放送を見逃す訳にはいかなかったのだと思います。
BPOは、「表現の自由を守る=監督官庁の介入を防ぐ」と考えているようですが、放送事業者が自らの利益のために、事実と異なる情報を報道したり、逆に事実を報道しなかったりした場合は、放送事業者が表現の自由にとっての敵になります。

また、放送法には以下の記載があります。

第四条
放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によつて、その放送により 権利の侵害を受けた本人又はその直接関係人から、放送のあつた日から三箇月以内に 請求があつたときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項が真実でないかどうかを調査して、その真実でないことが判明したときは、判明した日から二日以内に、その放送をした放送設備と同等の放送設備により、相当の方法で、訂正又は取消しの放送をしなければならない。

再発防止策の規定はありませんが、事実と異なる放送を行った場合、訂正放送、つまり何が正しくて何が間違ったかを調査して同等の放送設備で報道することは法律で決められている訳です。BPOは「TBSの自主的な取り組み」を強調し高く評価していますが、TBSの回答文書もBPOからの質問に対して回答したもので、自主的に出されたものではありません。一連の対応を見る限りTBSに自主性は感じられないのですが、BPOの言う自主性とはBPOも含めた業界全体の自主性のことなのでしょうか。

BPOは今回の放送法に違反する報道を「小さな問題」と言い切っています。事実を知りながら事実と異なる報道を行うことは、放送事業者としてもっともやってはいけないことのはずです。人がやることなの間違った報道がされることはあるでしょう。しかし、今回は特定の目的(行政批判)を持って、画策され(行政批判のためのネタ探しと意図的な取材)、報道されたわけです。BPOの見解はBPOの常識を疑わざるを得ません。

また、BPOは「事実の忠実な伝達よりも「わかりやすい映像」「つよい映像」を作り出すことを優先する演出が、情報番組や報道番組でおこなわれているという問題がある。」と言っていますが、「演出」を辞書で調べると次のように書かれています。

(1)演劇・映画などで、脚本・シナリオに基づき俳優の演技・舞台装置・照明・音楽・音響効果などを統合して一つの作品を作ること。
「創作劇を―する」
(2)式や催し事などを盛り上げるために、進行や内容に工夫を加えること。
「開会式の―」

雨竜川(うりゅうがわ)の意味 - goo国語辞書

この「情報7daysニュースキャスター」という番組は、演劇・映画、催し事の類だったのでしょうか。報道番組に「演出」などという概念が出てくるはずがないのです。もしあるとすれば、それは報道番組の顔をしたフィクションか虚偽報道、捏造報道でしょう。「情報7daysニュースキャスター」が演劇・映画などのフィクション番組であるなら、一般的なドラマや映画と同じように「この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。」とテロップ等で表示して欲しいと思います。そうすれば「演出」の問題も解決するでしょう。


「情報7daysニュースキャスター」のウェブサイトではこの番組について次のように紹介しています。

あらゆる旬な情報を番組独自の切り口で料理する新情報エンターテインメント番組『情報7days ニュースキャスター』。

http://www.tbs.co.jp/jouhou7/introduction.html

この「情報エンターテインメント番組」とはいったいどういう番組でしょうか。

放送法では、放送事業者は番組基準(放送基準、放送コードとも言う)を自ら定め、これを守るように書かれています。

(番組基準)
第三条の三  放送事業者は、放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準(以下「番組基準」という。)を定め、これに従つて放送番組の編集をしなければならない。

TBSの番組基準(放送基準)は以下です。

この中で「放送番組は、報道、教養、教育、芸術、娯楽、スポ−ツ、広告の分野にわたる」と書かれていますが、「情報エンターテインメント番組」という分類は見あたりません。番組基準がないのは放送法違反なのではないでしょうか。
TBSの回答文書に以下の記述があります。

これまで情報制作局では取材や編集、放送に関する倫理や規範は報道局が編集する「報道倫理ガイドライン」をテキストとして来ました。しかし同ガイドラインは報道局員向けで、社外契約者が多く、殆どが報道分野の経験が無い番組スタッフには、やや専門的で詳細に過ぎる点もあり、これを機に情報制作局として独自に、より現実的で分かり易く、実効のある行動指針や判断の基本をまとめることにしました。

「情報7daysニュースキャスター」を制作している部署、情報制作局にはガイドラインがなく報道局の「報道倫理ガイドライン」を使っていたそうです。どうもドキュメントや組織の体制に不備がありそうです。
放送法では放送事業者に放送番組審議機関の設置を義務づけています。

(放送番組審議機関)
第三条の四  放送事業者は、放送番組の適正を図るため、放送番組審議機関(以下「審議機関」という。)を置くものとする。

TBSにも放送番組審議機関はあり、今回の「情報7daysニュースキャスター」も議題になりました。その議事録には以下のコメントがありました。

◇番組にリズム感がなく、内容も詰め込みすぎで、中途半端なバラエテイになっている。バラエテイなのか情報番組なのか、背骨をきちんとさせないと、視聴者はついていけない。

番組審議会議事録:番組制作と放送のルール | TBSテレビ

情報番組もバラエティ番組もTBSの番組基準にはないのですが、放送番組審議機関の議事内容として問題ないのでしょうか。ちなみにバラエティ番組は辞書になく、近い単語として次の「バラエティーショー(省略:バラエティー)」がありました。

歌・踊り・コントなどを取り合わせた演芸の形式。バラエティー

都護(とご)の意味 - goo国語辞書

この辞書によるとバラエティー番組は娯楽番組の一種のようです。「情報7daysニュースキャスター」が娯楽番組だとすると「報道倫理ガイドライン」を使っていた理由が分かりません。なぜ、娯楽番組のガイドラインを使わないのでしょうか。また、「情報番組」とは何なのでしょうか。放送番組はいずれも何らかの情報を配信しています。つまり、どの番組も「情報番組」と言えるわけであり、「情報番組」という種別は存在し得ません。

最後に、4月11日放送予定の番組のVTR作成を、4月6日に「二重行政の例」というテーマだけを担当ディレクターに与えて放置プレイってあり得なくないでしょうか。タレコミ情報もヒントもなく、ただ、「二重行政の例」を見つけてこいってどれだけ非道なんでしょうか。担当ディレクターはパニクって片っ端から電話をかけまくるしかなかったのではないでしょうか。そして、ようやくテーマに結びつきそうなネタを見つけて前日に取材、帰ってきて(たぶん徹夜で)早朝まで編集、チェック、本番放送。これは社外契約者が多い情報制作局特有の事情があるのでしょうか。そして、このことにまったく触れないBPOの目は節穴でしょうか。それともBPOは見て見ぬふりをしているのでしょうか。


提案

自分なりにいろいろ考えてみた結果を放送事業者への提案としてまとめてみました。関係者の方が、読まれて検討していただけるとありがたいです。

今回、初めて放送を読みましたが良いことがいろいろ書いてありました。また、放送事業者やBPOはこの法律の主旨を理解していないか、守っていないように見えるため、順法精神に則って法律を守るべきだと思います。ましてや、法律違反を指摘されたことに対して、批判するなど以ての外(もってのほか)だと思います。

  • 画面の隅に「番組基準」を表示する

最近(結構前からですが)、画面右上に白文字で「アナログ」と表示されるようになりました。同様に左上に「番組基準」(報道、教養、教育、芸術、娯楽、スポ−ツ、広告)を表示することを提案します。例の「アナログ」はCMでは消えますが、番組基準として「広告」と表示した方が視聴者にも分かりやすいと思います。今回の例も「娯楽」と表示していれば、ドラマの中で殺人事件が起きても誰も通報しないように、問題にならなかったと考えられます。