「アバター」を観て改めて「風の谷のナウシカ」の先進性と偉大さを実感

人気の映画、アバターを観てきました。理由はもともとSF映画が好きだったことと、PS3も3D対応予定だったり3D対応テレビが発表されたりと3Dが話題だったのでどんなものかを実際に見たかったからです。結論から言うと、スクリーンの真ん中辺りに座れたせいかちゃんと立体に見えましたし、その分、迫力も増していたと思います。映画の内容も十分楽しめる内容でした。自分の場合、3Dメガネのせいで特に疲れることもありませんでした。


以上が雑感で、以降はネタバレを含む感想を書いていくので、まだ映画を観ていない人は読まないことをオススメします。


ぶっちゃけて言うとこの映画は、緑豊かな惑星の地下に貴重な鉱石が埋れていることを発見した人類が、森を攻撃して森の怒り(大地の怒り?)に触れ、大挙して押し寄せてきた原住生物に一斉に襲われて、惑星から撤退する話です。そうです。これは「風の谷のナウシカ」と大枠の話がそっくりなのです。このメインストーリーに、別の肉体に乗り移って操作する話(アバター)や、原住民とのやりとりや恋愛、しぶとい軍隊長との戦いが乗っかっています。

メインストーリー以外にも「風の谷のナウシカ」と似た点が他にもあります。

  • マスクをしないと死んでしまう惑星=腐海
  • 森の生物は王蟲のような触覚を持っており、互いの触覚を合わせることで会話可能
  • 鳥にのって空を飛ぶ=メーヴェ
  • 木の触覚による治癒=王蟲の触覚の治癒
  • 炎に包まれる空母から戦闘ロボで脱出=炎に包まれる大型航空機からガンシップで脱出

いくつかの演出が似ている点は気にならなかったのですが、メインストーリーはもう少しどうにかならなかったのかと考えてしまいました。極論すると、仮に原住民たちと心を通わせて人類を裏切る主人公たちや軍隊に立ち向かう原住民たちがいなくても、採掘をしようとした軍隊は森の怒りに触れて結局撤退することになる訳ですから。

映画は娯楽として作られますが同時に何らかのメッセージが含まれている場合があります。この作品に込められたメッセージは次のような内容だそうです。

■平和につながる親子の会話に役立ててほしい

Q:ナヴィと地球人とのバトルシーンは、アメリカのイラク戦争を彷彿(ほうふつ)とさせました。

人類の歴史というのは、インベージョンすなわち侵略に血塗られた歴史なんだ。原住民たちは、すべてのものを破壊されて、たくさんのものを奪われてきた。自分たちの欲求を満たすために、ほしいものはすべて奪う。それが侵略だよ。じゃあ侵略される側はいったいどんな気持ちなんだろう? そういう被害者の側から描いたのがこの映画で、いったい政治家たちがどんなことをしているのか、地球の人たちに目を開いて見てほしいというメッセージがこめられているんだよ。

Q:この作品は、親子連れでも観に行ける映画ですね。5人のお子さんがいるキャメロン監督は、親として子どもたちにはどんなことを感じてほしいですか?

大人には、先ほど言ったように政治家がしていることに対して目を向けてほしい。そして、子どもたちには、美しくて平和な地球を作ろうという気持ちになってほしいんだ。木々が倒されたり、森が燃やされたりしているのを見て、怒ってほしい。正義感から生まれる怒りは、子どもにとって大切だからね。そして映画を観た後に、あれは今地球上で起きていることだと、たくさんの親が子どもに伝えてほしい。この映画が、平和につながる親子の会話に役立てば、とてもうれしいよ。

侵略とは圧倒的に強い側が弱い側を征服することです。しかし、この映画では、侵略する側と侵略される側が武力衝突し圧倒的な弱者であるはずの原住民が勝利する形で幕を閉じます。これではいったい何を教えようとしているのか分かりません。結局、勝ったものが正義なのか。それとも正義は必ず勝つなのでしょうか。


木や森が破壊されることについて怒って欲しいと言っていますが、なぜ木や森を破壊してはいけないのかをこの映画では答えていません。博士が「この惑星の森は全体でひとつの脳のようになっていて価値がある」みたいなことを言っていましたが、その理屈であれば地球の森を守らなければならない理由にはなりません。子供の頃、まんが日本昔ばなしで山の木を切りすぎて大洪水になり村民が改心して森を大事にするという話がありましたが、こっちのほうがよっぽど説得力があります。

だいたいどうしてこう勧善懲悪に持っていくのでしょう。その方が観る側は分かりやすいし話も盛り上がりやすいでしょうが、それこそまさに侵略行為に加担する行為でしょう。

14世紀、ポルトガル帝国を先峰に始まった、西欧キリスト教白人文明による人類史上最大の蛮行は、地球上のありとあらゆる場所で夥しい数の悲劇を生み出した。アジアで、アフリカで、アラブで、アメリカで、オセアニアで、西欧諸国の白人種達は、銃と聖書を携え、非西欧世界への武力的侵略、植民活動を開始するのであった。

大航海時代の植民地化も人種的に優れた白人が野蛮な国を聖書で文明化するという大義名分がありましたし、イラク戦争は独裁者フセインに苦しむイラク国民を救い大量破壊兵器で世界の平和を脅かすイラク政権を打倒することでした。建前はメディアによっていくらでも捏造/演出できます。必要なのは力による解決ではなく、本当の課題を見つけて解決しようとする意思と行動力でしょう。


宮崎駿監督が作り1984年、今から26年前に公開した「風の谷のナウシカ」では自然や森を守ろうというほぼ同じテーマを掲げながらアバターとは全く違う方法論を使っています。この物語の設定は、汚染された世界で大地を浄化する「腐海」と腐海を守る「巨大な虫たち」に苦しめられる人々です。物語の中で多くの人々が「腐海の毒」や「虫たち」に苦しめられていますが、その発端を作ったのは我々現代人だという設定です。そのため設定自体が、今、環境を汚すことが未来の人々を苦しめることになるというメッセージを表現しています。
また、映画では「風の谷」が王蟲の大群に襲われそうになったとき、ナウシカ王蟲の子供と一緒に大群の前に立ちふさがることで風の谷を守ります。つまりナウシカがいないとこの映画のストーリーが成立しません。さらに漫画版ではナウシカ王蟲クシャナに対して交渉し、クシャナの大型航空機で王蟲の子供を王蟲に返すことで問題を解決しています。様々な文化や価値観を持つ人々が同じ課題に立ち向かわなければならない現代社会において、求められる行動はアバターではなく漫画版のナウシカでしょう。
同じようなテーマとメッセージを持ちジャンルもSFで同じ、どちらも未来の話と共通点が多いにも関わらず、物語の方法論が根本的に違い、なおかつ、26年前の作品の方が明らかに優れているように見えることは、何とも言えない感じがしました。


風の谷のナウシカ [DVD]

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風の谷のナウシカ 全7巻箱入りセット「トルメキア戦役バージョン」

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参考

宗教は多くの争いを産んできたのに、なぜ宗教がマナーを高め犯罪率を抑制すると考えるんでしょう。

キャメロン監督が短い舞台挨拶の中で「僕は宮崎駿の大ファンだから」と語っていたのが興味深い。