iPad − 穴を埋めるのではなく新しい道を創るということ

iPadを1〜2日使ってみたところで、面白いエントリを見つけたので思ってみたことを書いてみます。
上記のエントリではiPadをノートパソコン(ノートPC)と比べて、どこが良いのか、iPadならではの、iPadにしか出来ないことを探している点で共通しています。そして、おおよその結論としてはどうやらなさそうということになっています。


ところで、過去にあった2つの事例を考えてみます。一つは数十年前のこと、もう一つはつい数年前のことです。


最初の事例は、録音出来ないボイスレコーダーウォークマンです。当時は携帯音楽プレーヤーの代名詞でした。そのウォークマンの開発経緯は非常に有名でソニー創業者の盛田昭夫さんによる直々の指示だったそうです。録音機能がないのですからボイスレコーダーには使えませんし、音楽を聞くのであれば家のステレオで聞くのが当たり前の時代でしたから、社内の猛反発にあいながらも開発を続行したそうです。騒音や雑音の多い外で音楽を聞くなんて当時の常識からは考えられなかったのでしょう。でも、結果は今、みさなんが日常的にご覧になっている通りです。


もうひとつの事例は、140文字しか書き込めないブログ、ツイッター(Twitter)です。140文字しか書き込みないブログに何の意味があるのか。140文字に制限したらければ普通のブログで勝手に文字制限して投稿すればいいだけではないのか。このサービスを聞いたときはそう思いましたし、今でもなぜこんなにも普及しているのか実感としては分かりません。でも、敷居の低さは感覚的に分かります。


これらの2つの事例について、その製品やサービスが登場した時に既存の何かと機能の優劣を比べて、何か意味があったと思うでしょうか。どちらも当時の生活にとって必要のないものでした。それはこれまでにない新しい市場・分野・ジャンルを開拓した製品・サービスだったからです。


新しい製品やサービスには大きく2通りあると思います。一つは今ある不満や課題を解決するもので、言い換えれば「穴」を埋める製品・サービスです。もう一つは新しい市場を開拓するもの、「新しい道」を創る製品・サービスです。前者は困っていること、不満に感じていることを解決するものなので、とても分かり易いものになるでしょう。しかし後者は必要とされていたものではなく、すぐに効果がでないので分かりにくいものになると思います。ただ、それまでになかった新しい市場を創ることになるため、その将来性や影響力は圧倒的に大きなものになります。iPhoneiPad、どちらも技術的には非常によく似ていてiPadは単にiPhoneを大きくしただけにも見えますが、iPhoneは前者の例、iPadは後者の例になると思っています。


iPhoneは既存の携帯電話やスマートフォンの課題や不満の多くを解消してくれた非常に分かりやすい製品でした(少なくとも私にとってはそうです。)。しかし、iPadは違います。似たような製品のKindleが完成度の電子ブックリーダーに見えるのに対して、iPadは電子ブックリーダーにも使える別の何かです。今、分かるのはiPadはこれまで使ったコンピュータの中でもっとも身近で感覚的に使える道具だと言うことです。


似たような感覚を以前にも感じたことがありました。それは大学の研究室で初めてインターネットを使った時です。当時、インターネットは主に大学関連の施設がつながっているだけで民間企業のホームページもほとんどなく、実生活の役に立つことはほとんどありませんでしたが、何かとてつもない可能性だけは感じていました。今、それと同等かそれ以上の可能性をiPadから感じています。ただ、ウォークマンTwitter、インターネットが個々人で使ってもその真価を発揮できないように、iPadがその本来持っているポテンシャル発揮するまでには、ある程度の数の人が使い始める必要があるでしょうし、それまでには少し時間がかかるかも知れません。もしかしたら、第2、3世代のiPadまで待つ必要があるかも知れません。でも、おそらく確実に普及するでしょうし、人々の生活、特に仕事のやり方を変えるに違いないと信じています。また、今あるPCをクラウドコンピューターに置き換える原動力にさえなるような気がします。