最近のゲーム業界のイメージ

ネットは1日10時間さんのエントリを読んでから考えていたことを書いてみたいと思います。
考えていたことと言うのは、今のゲーム業界の大まかなイメージです。別に厳密でなくても良かったので、エイッヤッと書いてみたのが以下になります。自分の頭の中のイメージなのでたぶん実際と違うところはたくさんあると思いますが、ポイントは合っていると思っています。

まず、縦軸はゲームの価格を表しています。無料ゲームが一番安く、据置機のパッケージが一番高いという感じです。横軸はユーザー層で、子供、ライトゲーマー、コアゲーマーをイメージしています。
中身についてですが、ゲーム業界の全体的な傾向として無料ゲームの拡大があります。たとえば、モバゲータウンのようなケータイゲーム、iPhone/iPod TouchiPad向けの無料ゲームなどです。そしてそれらの無料ゲームとセットになっているアイテム課金、従量課金といった少額課金のゲームがあります。以下はクラブニンテンドーの2009年度プレミアム会員特典で貰ったゲーム&ウォッチのボールというゲームですが、当時はこれに数千円も支払ってみんな買っていたんです(Wikipediaによると1287万個。大ヒットしたドラクエ9でさえ400万本なのにその3倍近い数。)。

それが、今は数百円でもっと面白いゲームを手軽に遊べてしまいます。このことについて以前、岩田社長は次のように見解を出していました。

岩田:
 いわゆる携帯電話の無料ゲームというものは、無料でたくさん存在するわけですから、もし、そこで得られる面白さや満足と変わらない程度のものしかDSで提供できないとすれば、我々のビジネスというのは瓦解すると思うんですね。(中略)
ですから任天堂がやったようなことの中から、今の携帯電話で実現できそうなことを、どんどん無料ゲームとしていろいろな方が作られる。そして違うビジネスモデルでビジネスをされる。(中略)
「いかにその場にとどまらないか」ということだと思っています。もし、ゲームボーイアドバンスの時代のまま任天堂がそこにとどまっていたら、DSで起こしたようなイノベーションがなければ、きっと、任天堂は今の地位にいないわけですし、それはこれからも同じだと思っています。

このコメントは去年の10月30日でしたから、時期的に考えて先日発表されたニンテンドー3DSのプロトタイプがほぼ見えていたのではないかと思います。だからこそ、他のゲーム機メーカーからすれば「それができれば苦労はしないよ」的なことを堂々と言えたんだと思います。なお、iPadの登場をきっかけに登場した電子書籍という名の「ゲームソフト」があり、注目を集めています。日本語版のソフトはiPhoneiPad上のアプリでありながら、BGMも効果音もインタラクティブ性もなく、ただひたすらテキストやモノクロの絵を見るだけという手抜きゲーです。それにも関わらず1,000円近い価格のものもあります。もちろんストーリーは面白いのでしょう。でも、ストーリーだけではユーザーはお金を払ってくれません。それはすでにゲーム会社が証明しています。今後、「pdfと差がない電子書籍」がどういう結末を辿るのか興味深くはあります。


無料ゲームやケータイゲームは、何しろ無料なので利用者の幅は広いと思いますが、一人当たりの利益は少ないです。対して、据置機のパッケージは高い開発費はかかりますしユーザーも限られますが、高額でも売れるのでヒットすればとても儲かります。なので、DeNAのような会社は自分のテリトリーであるケータイゲームを維持しながら、チャンスがあればパッケージビジネスに参入したいと考えているのだと思います。逆にパッケージメインでやっていたスクエニ他は新しい市場であるケータイゲーム向けに過去タイトルや新タイトルを投入しています。でも、もともとパッケージメインの会社は高コスト体質なのでケータイゲーム会社との競争は不利でしょう。それほど遠くない時期にまたゲーム会社同士の合併があるような気がしています。


いわゆる洋ゲーのメーカーは世界で何百万本も売れるヒットタイトルがありながら、赤字という一見、不思議な状況にあります。

海外大手は5社とも赤字

素直に考えれば、開発費がかかりすぎということなのでしょう。今はFPSが人気ですが、このネタが飽きられたら大変な事になりそうです。据置機で3Dが救世主になるのか、はたまた別の金脈を見つけることができるのか、先行きは非常に不透明です。ただ、この領域の良い点は無料ゲームの影響を受けにくいことでしょう。


最後は任天堂です。

任天堂は売上も利益も他と桁が違う

まさにそんな感じであり、子供/ファミリー向けでは絶大な安定感があります。宣伝が上手いというのもありますが、実力が伴っているので手がつけられません。CMで関心したのはYouTubeで見かけた以下のCM動画でした。日本版もあるんでしょうか。

そして、最近の任天堂はどちらかと言えばコアゲーマーよりのタイトルを出してきている気がします(例えばゼノブレイド)。長時間ゲーム機を独占することになるそういったタイトルは「家族の誰からも嫌われないゲーム機」というWiiのポリシーから外れるような気がしますが、あらゆるゲームユーザーを満足させるということを優先させたようにも見えます。でも、任天堂には、そういったRPG系ゲームのノウハウはないはずです。そのためか、実際の開発は社外の開発会社にまかせて、自分たちは「編集者」という立場にまわるという方法をとっているようです。

山上
そんな感じで、シナリオに関しては
高橋さんが考えている世界をどうすれば
よりお客さんに伝わりやすくなるかということを意識して、
客観的に意見をお伝えするようにしていました。

岩田
それはまさに“作家と編集者”の関係ですね。

開発は社外の開発会社にまかせて任天堂は編集者に徹するという手法は、RPGに限らずこれまで任天堂が苦手だったジャンルへの参入を可能にします。そして任天堂の開発者不足も解決するという一石二鳥のアイデアです。今後、本格的なRPGとしてはラストストーリーも控えており、既存のRPGメーカーへの影響が気になります。つまり、任天堂3DSで無料ゲームと差別化、他の開発会社との連携で未開拓分野への進出が可能な訳です。一方、他のゲーム機メーカーやサードパーティは、無料ゲームに対して有効な対応策がなく、HDゲームは高リスク、任天堂の従来型RPGジャンルへの参入に対しては有効な手段が見えていないという非常に厳しい状況に置かれています。
さらに、3DSのゲームカードの容量は2GB以上だそうです。携帯機としては大容量が売り文句だったはずのPSPUMDは最大1.8GBだそうなので、DSに対するPSPの大きなメリットが無くなることになります。

でも、メモリ容量およびその容量単価が下がり続けることは10年近く前から分かっていたことでした。以下は2001年の日経エレクトロニクスの記事です。

これまで遠い未来の夢物語と思われていた不揮発性メモリによるハード・ディスク装置(HDD)の置き換えが,にわかに現実味を帯びてきた。フラッシュEEPROMの1Mバイト当たりの価格は急速に下がり続け,3年〜5年以内に10Gバイトを1万円で実現できそうな勢いだ。対するHDDは,猛烈な低価格化を推し進めることで応戦する。

PSP発売時にPSPの画素数の要求を満足する方法は光ディスクしかなかったのでしょうが、任天堂がより長期的な戦略で、画素数を抑えてメモリタイプのゲームカードを選択していたといたら、PSP発売時からPSPの負けが決まっていたことになります。


それから、任天堂 VS Apple について。iPhoneiPad向けにそれこそたくさんのゲームが発売されているので、iPhone/iPadをゲーム機として見た場合、任天堂Appleは競合していると言えなくもありません。でも、iPhone/iPadにとってゲームソフトはアプリの中の1つのジャンルに過ぎないため、仮に有料ゲームがすべて無くなってもAppleにとっては大きな影響はありません。一方、ゲーム会社である任天堂にとってゲームが売れなくなることは倒産を意味します。つまり、ゲームというジャンルに限った場合、任天堂が負けることはあっても、Appleが負けることはあり得ません。


また、3DSについて3D立体視が一過性のブームに終わる可能性について書かれている記事がありました。

しかし、ネガティブな部分もある。それは3D立体視が一過性のブームに終わり、定着せずに飽きられるケースだ。コンテンツ市場の流れがそうなったら、 3DSの力も弱められることになる。今の段階では、3D立体視は大きなブームとなっているので3DSの追い風になっているが、それが逆風になる場合も考えられる。

確かにこれまでも、赤/青セロファンのメガネによる3Dなど3Dブームは何度かありました。しかし、裸眼による立体視は初めてのことです。ビジネスで重要なのはある現象に対して、それが一時的なものなのか、今後の主流になるのかの見極めでしょう。上記の記者がそれを「になる場合も考えられる」と言葉を濁しているのが気に入らないです。
以下はスクエニの和田社長のTwitterの書き込みです。

明日決算発表。ウチはまだましだけど、ゲーム業界全般の収益はひどい(特に欧米企業)。経営で最も大切なのは、循環的か構造的かの見極め(不況という単語は使いません、既に循環を前提にした言葉だから)。数年前から構造的である事は明らか。う〜ん、やる事が山ほどあって痛気持ちいい!

そして、任天堂が3Dを採用した理由について、宮田さんはこれまで難しかった操作が3Dによって簡単になるからだと言っています。

社長が訊く E3特別編『ニンテンドー3DS』その1:2/3くらいの位置)
宮本:
マリオで一番難しいのは切り株の上にピョンって乗ることなんですよ。空中にあるハテナブロックを叩くのはもっと難しい。ところが3Dにすると空中にあるハテナブロックが叩けるようになる。そのブロックの上にヒョイっと乗ることができるようになる。

映画やテレビは分かりませんが、ゲームにおける3Dは単なるもの珍しさではなく、ユーザーにとって明確なメリットがあり、その便利さを実感できると言っています。そして、人は一度便利なものを体験してしまうと不便なものには戻れません。これは単なる一過性のブームとは全く異なる話です。

常に脅威に晒されている任天堂(2010/06/23)

任天堂はIPの使い方がうまいと思った。この点において、我々が学べることはたくさんある」。任天堂のプレスカンファレンス終了直後、ゲーム業界大手、カプコン稲船敬二常務執行役員は、唸るようにつぶやいた。

つまり、ソフトの場合、「市場を形成するのは、クリエイターが持つ『自分のアイデアで、世の中を驚かせてやろう』という気持ち」(バンダイナムコホールディングス石川祝男社長)がベースになるということだ。

イデアが重要なのは、商品/製品/道具/作品などあらゆる事に当てはまります。PS3Xbox360だって技術者のたくさんのアイデアがギッシリ詰まっていると思うのですが違うのでしょうか。ただ、任天堂はアイデアの使い方が飛び抜けて上手いだけでしょう。他のゲーム会社が、なぜソフトウェアーとハードウェアを分けて考えるのか、なぜソフトウェアを作る人を「クリエイター」と呼ぶのか、自分にはわかりません。

「ゲームはテレビに良くない」「ゲームをする子供は暴力的になる」「ゲーム脳」そして「マジコン」など、ゲームは様々な批判や脅威に晒されてきましたし、これからもそれは変わらないでしょう。そして、今は無料ゲームで溢れています。もし任天堂が慢心して新しい取り組みを止めてしまったら、上記で岩田社長が言っていた通り「任天堂は今の地位にいない」状態になってしまうでしょう。