任天堂に残るヨコイズム

以前から読みたいと思っていた「横井軍平ゲーム館」が復刊されたので読んでみました。期待以上に面白かったです。また、「自炊」してiPadで読んだ初めての本になりました。

横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力

横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力

内容は横井さんが開発された製品について古い順に語っていくというスタイルで、それは予想通りでした。しかし、その発想や考え方が今の任天堂製品の中に目に見える形で残っていることが意外でした。「枯れた技術の水平思考」という漠然としたものではなく、横井さんが作りたいと言っていた製品が任天堂で製品化されて大ヒットしているとは思っていませんでした。

Wiiリモコン

Wiiのポインタは、Wiiリモコンとセンサーバーの組み合わせで動作しますが、センサーバーはLEDが入っているだけでセンサーは入っていません。センサーはWiiリモコン側に入っています。だから、センサーバーをロウソクで代用することもできます。

この画面側ではなく人の側にセンサーを持たせるという考え方は、「レーザークレー」と同じです。

的が光線を出して、銃が受け止める
「レーザークレー」は光を発しているんではなくて、受光銃なんですね。スクリーンに映し出したターゲットを、銃の中のカメラで受け止めるという仕組みなんです。


横井軍平ゲーム館RETURNS P.69

今年のE3でマイクロソフトソニーがそれぞれ体感ゲームインターフェイスを紹介していましたが、どちらもWiiとは違い画面側にセンサーとなるカメラを持たせるものでした。画面側のカメラをセンサーにする方法は自由度は高そうですが、高い処理能力とコストが必要なように見えます。このカメラならではの「自由度」が、どういう形でゲームの面白さにつなげられるのかは製品を見てみないと分かりませんが、単に画面にポインタを表示させるだけならWiiの方式が優れているように見えます。
なお、任天堂の光線銃シリーズには的側にセンサーを持たせているものもあり、WiiではWiiリモコンに都合よい方式を採用したのだと思います。

エンターテイメント・システム

PS3の発売前、SCEはE3で「PS3はエンターテインメント・コンピュータだ」と強調していたそうです。そんなことを言うのはソニーだけだと思っていたのですが、遥か昔に任天堂アタリショック後の米国でファミコンを販売するときに言っていたそうです。

アメリカでファミコンを売り出すことになったときに、もうテレビゲームでは駄目だということになったんですね。それで、これはテレビゲームじゃなくて、新しいエンターテイメントなんだ、ついでにテレビゲームもできるんですよという売り方をしたんです。ですから、Nintendo Entertainment Systemという名前になったんです。


横井軍平ゲーム館RETURNS P.96

この時、NESに「光線銃」や「ダックハント」が同梱されて大ヒットとなりました。VGchartzの"Software Totals"によるとこれまで発売された全ゲームタイトルの中でダックハントが28百万本販売で5位になっています。
また、これまでのゲームとまったく違う「遊び」をキラーコンテンツとして本体に同梱して販売するやり方はWiiと同じです。日本ではWii本体とWii Sportsは別売りですが、米国では本体に同梱させて販売しています。

ゲームの医療分野への応用という発想

横井軍平のこれから」という章ではDSやWiiキラータイトルのベースとなるアイデアが書かれていて、びっくりしました。1997年のインタビューだそうです。

また、遊びの世界にだけにこだわらず、実用品の世界もやってみたいと考えています。


横井軍平ゲーム館RETURNS P.203

例えば、医療分野なんか面白いと思うんです。バーチャルボーイのときに、PL法の関係で医療分野の人たちと話す機会があった。そうしたら、リハビリなどの世界にゲームの要素を入れられると非常にいいという話が出たんです。(中略)リハビリというのは、毎日同じことの繰り返しであまりみんなやりたがらないんですが、それにゲーム性を盛り込むことで、リハビリがすごく進む。


横井軍平ゲーム館RETURNS P.204-205

まるでDSの脳トレWiiWiiFitのヒットを予言していたような内容だったので、この本を読んでいて最後の最後に一番驚かされました。

まとめ

この本を読んで改めて思ったことは、やはり任天堂はテレビゲームの開発会社ではなく、良い意味で「玩具の開発会社」だということです。基本的な考え方はウルトラハンドの頃から変わっておらず、その応用範囲が広さから今はテレビゲーム(携帯機含む)を中心に製品を開発しているのだと思います。