「天使のたまご」の絵コンテを観てきました 〜押井守と映像の魔術師たち〜

八王子で開催中の「押井守と映像の魔術師たち」を観てきたので簡単に感想を書いてみます。なお、書かれている内容は自分の興味のある分野に偏っています。

ネットの記事や八王子市の至る所に貼られているポスターから受ける印象と実際に行ってみた印象に結構大きなギャップがありました。まず、「八王子市夢美術館」は一つの独立した建物ではなくビュータワー八王子の2階にあり、それほど大きなフロアはありません。また、何か面白い仕掛けや観客を楽しませる物もないので、5〜10分もあればざっと見て回れると思います。要はこの展示会は大衆向けではないので単なる好奇心だけで見に行くとがっかりすると思います。なので、見に行く人を選ぶ展示会という印象を受けました。ちなみに自分は1時間くらいいました。

全体概要

イノセンス」「攻殻機動隊」「スカイ・クロラ」関連の展示スペースが比較的広かった気がしますが、主観なので断言はできません。展示されいるものは絵コンテや作画用資料、フィギュア、撮影用の小道具と実に様々でした。
また、ガルム戦記という映画の企画が途中でボツになったそうなのですが、かなり多くの資料が展示されていました。世界観はFFのようなSFとファンタジーを融合させたような感じで面白そうだったので完成しなかったのは残念です。

天使のたまご

絵コンテくらいしか展示されていませんでしたが、生の絵コンテを見るのは初めてだったので興味深かったです。展示されていたのは少女が森の中を走っているシーンと灰色の男たちがシーラカンスらしき魚の影に銛を打ち込んでいるシーン。絵コンテの構成は、左から「絵」「内容」「時間」というふうに区切られていましたが、一部の「絵」は「内容」にはみ出していました。また、何となく絵コンテの「絵」は落書き程度と考えていたのですが、かなり丁寧に書かれていました。「内容」欄の説明は当然直筆で、シーンの説明や指示が書かれていました。何と言うか、実際の現場のコミュニケーションで使われている道具という感覚が直接伝わったくる感じでした。なお、「時間」部分には数字が書かれていましたが意味がよく分かりませんでした。
そして、思ったのはこの映画に関わったスタッフもこの作品の意味を知らないまま作業していたのではないかということです。実際のところは分かりません。でも、絵コンテがあれば全体の解釈は理解していなくても制作は可能です。なので、この作品を観た人の多くが感じたのと同じことをスタッフも感じていたように思いました。

この作品を観たのは子供の頃だったこともあって、内容は全然理解できませんが、その映像と音楽、そして独特の世界観から感じた印象は今でも憶えています。なお、内容の解釈について検索してみると、以下のサイトを見つけました。でも、あの作品の魅力は、映像や音楽が主だと今でも思います。

攻殻機動隊のセルに書かれていたコメント

攻殻機動隊のセル画(鉛筆画と色塗り後)が何枚か展示されていました。攻殻機動隊を観たことのある人なら憶えていると思いますが、人形使いに記憶を書き換えられた哀れな清掃局員が家族と一緒に撮ったはずなのに自分一人しか写っていない写真を見て愕然とするシーンがあります。その写真のセル画にダックスフンドが描かれていて、近くの枠外に以下のコメントが書いてありました。

犬の資料下さい
押井カントクのところにいっぱいあります

この「犬の資料下さい」は大きな字で、さらに◯で囲ってありました。こういうのを見ると、現場のやりとりがいろいろ想像できて楽しいです。また、ほとんどのセル画(鉛筆画)の枠外のコメントには、

こんなでしょうか?

と書いてあったり、上記の清掃局員の写真のセル画には

うまくかけません

とも書かれていました。

絵コンテの変化

天使のたまご」がリリースされたのが1986年、「スカイ・クロラ」は2008年でした。その間、約20年近い月日が経っているためか、見た目で大きく変わっている点がありました。それは、「内容」欄が手書きではなく、ワープロで紙に印刷した文字を切り取って絵コンテに貼りつけていることでした。確かに印刷した文字の方が読みやすいですが、とても面倒な気がします。逆にそれ以外は「天使のたまご」の頃から変化がなかったように見えました。こういうやり方が今の主流なのか分かりませんが、今後は絵コンテもデジタル化されていくような気がします。今、絵描いている人たちは、鉛筆とタブレット、どちらが使いやすいんでしょう。人それぞれなのでしょうか。

撮影禁止

写真撮影は禁止されていたので、写真は撮れませんでした。館内に今回の展覧会用に作られた冊子が何冊か置いてあり、売店で約3000円で販売されていたことが、撮影禁止の大きな理由と勝手に推測していますが、実際は分かりません。なお、帰り際、警備員さんが「館内で模写している人がいる」とカウンターの女性に報告していて、何やら不穏な空気に・・・。その後、どうなったかは、分かりません。