自分なりに電子書籍の歴史を振り返ってみた

電子書籍について

今年になって電子書籍関連の発表が急に増えた印象があります。でも、この「電子書籍」とはなんでしょうか。ディスプレイに文字が書いてあれば、それは電子書籍となるのでしょうか。大辞林(iPhone)には「書籍をデジタル-データ化して、電子媒体に記録したものの総称。」と書かれています。では、「書籍」とは何かと言うと本、書物、図書。そして、「本」とは書籍、書物だそうです。ここで堂々巡りとなりこれ以上の意味は分かりません。
この大辞林青空文庫、ブログ等を電子書籍とするかは人によって意見がわかれると思っています。このエントリでは、電子書籍を「文字を主体として電子媒体を通して物語を語るコンテンツ」と定義してみます。そういう定義に基づいて、自分がこれまで体験してきた電子書籍について語ってみたいと思います。

電子書籍以前

電子書籍以前、今まで本にはない新しい試みに挑戦する本がありました。もちろん媒体は紙の本なのですが、電子書籍ならでは特徴であるインタラクティブ性を備えていました。

  • 『きみならどうする?』(1980年代)

きみならどうする? - Wikipedia
紙の本でありながら、アドベンチャーゲームのように所々で選択肢が提示されて、選択肢によってページをジャンプしながら読む本です。
かなり昔のことなので自分が実際にどの本を読んだのかさっぱり思い出せません。そういう普通の本とは明らかに違う本に驚きと強い興味を抱きながら読んだことは憶えています。

電子書籍

普通、これはテレビゲームと考えられていますし、自分もそう思います。ただ、しかし、同時にこれは登場キャラクタの会話を軸に展開される定番のファンタジー物語でもあります。困っている人々を助け、様々な怪物を倒しながら経験を積み、お姫様を助け、そして最後は世界を救います。テレビゲームでありながらゲーム性は低く、時間をかければ誰でもエンディングまでたどり着けます。そう、まるで本を読むかのように。このゲームは大ヒットとなりその後に作られる続編もことごとく大ヒットとなりますが、それらはゲーム性が増してストーリーの比重は相対的に低くなっていったように思います。)もちろん、ストーリーが悪くなったとは思いません。)
以下のやり取りは、ゲームを遊んだことのない人でも知っている有名なイベントだと思います。
http://www7.ocn.ne.jp/~bacube/bangai/oldgame_ban05/DQ1.html

 竜王:『私の味方になれば世界の半分をやろう』
 勇者:▲『はい』 △『いいえ』

ちなみにドラクエと双璧をなす『ファイナルファンタジー』(1987年)は、それほど印象に残っていません。理由はよくわかりません。

こちらも知る人ぞ知る名作ゲームです。ただ、残念ながら遊んだ記憶はあるのですが、よく憶えていません。自分で買ったのか、友人に借りたのか、友人宅でちょっと遊んだだけなのか。
それにして、今考えてみても、あの結末はよくできていたなと思います。

ファミコンディスクシステムのゲームです。桃太郎やかぐや姫といった定番の昔話のパロディですが、ポートピア連続殺人事件といったゲームが推理小説風の謎解きを重視していたのに対して、こちらはストーリーに重きを置いていたました。アドベンチャーゲームですので、間違った選択肢を選ぶとゲームオーバーになるのですが、それは物語を退屈させないための仕掛けだったように思います。

弟切草

弟切草

サウンドノベルのというジャンルを確立した記念すべきタイトルです。彼女と共に寂れた洋館に迷い込み、様々な奇怪な出来事に遭遇するというこれまた定番とも言えるストーリーですが、プレーヤーが選ぶ選択肢によってまったく違う展開が広がるので本当に新鮮な体験でした。さらに2週目では1週目にはなかった選択肢が増えて別にエンディングに辿りつけるという仕組み、およびマルチエンディングは、今のアドベンチャーゲームの基本システムとなっています。また画像やBGM、効果音も演出効果をよく表していたと思います。当時のプラットフォームはスーファミでしたが、あのスペックをギリギリまで使い切っていたように思います。
あの当時はインターネットという便利なものは使えなかったので、頑張って「ピンクのシナリオ」を探したのを憶えています。その中でこういうなぞなぞがあった気がするのですが、もしかしたら勘違いかも。「目をつぶったら見える魚の名前はな〜んだ?」

かまいたちの夜

かまいたちの夜

弟切草がとても気に入っていたのでサウンドノベルの第2弾となる本作はそうとう心待ちにしていました。たしか人物描写に関する仕様変更が原因で発売日が遅れたことがあったと思います。そしていざ発売されて遊んでみて、期待と違っていてガッカリしたのを憶えています。そして自分は謎解き系の話は好きではないことを実感しました。密室状態での殺人事件という設定は構わないのですが、そこから様々な話に展開が広がるのではなく、あらかじめ決まった選択肢以外を選ぶとバッドエンディングが確定する一本道ストーリーは自分には合わず、結局、最後まで遊ばなかったと思います。
でも、セールス的には弟切草よりも良かったようです。

ダブルキャスト

ダブルキャスト

いわゆるギャルゲーという分類にあたるのかも知れませんが、面白かったのでよく憶えています。たしか、攻略本も買ってオールクリアしました。マルチエンディングの楽しさを再認識させてくれた作品です。一度のエンディングではなかなか背後にある真実に辿りつけず、その結果、何度もプレイすることになりました。弟切草ではエンディングによって事実が変わりましたが、この作品では一つの事実を多面的に探り当てているような感じがしました。
昨年からPSPでダウンロード配信をしているそうなので、興味のある人はオススメです。

サンパギータ

サンパギータ

ダブルキャストが面白かったのと、ストーリーがスリリングな感じがしていたのでかなり期待していたのですが、自分には合わず途中で挫折しました。どうもメリハリがなくダラダラと話が進んで行ったような感じで・・・要は面白くなかったということです。

出版不況」というタイトルのエントリを書く過程で青空文庫で読んだ作品です。そのエントリの内容はネットで書かれていることのまとめみたいなものだったのですが、はてブで「本を買わずに青空文庫で読むから出版不況に〜」というようなことを言われて、確かにその通りだと思いました。
パソコンのブラウザ(Firefox)で青空文庫を読むのはちょっと(いや、結構かも)読みづらい感じでした。画面いっぱいに文字が並んでいると読む気が失せるし、特に改行が分かりにくかったです。また、ページがないのでどのくらい読んだのか分からないのも抵抗がありました。この辺りは専用ビューアを使うと良いのかも知れません。
内容は正直期待していなかったのですが、認識を改めさせられました。いや〜、面白い。当時の時代背景が感覚的に分からないところもあり、どう受け取ればいいのか迷う箇所もありましたが、非常に「人間らしさ」を感じました。これの現代版を誰か書いてもらえないものでしょうか。
太宰治 人間失格

DS文学全集

DS文学全集

脳トレほどではないですが、結構話題になったタイトルだったと思います。定番の「吾輩は猫である」から、「杜子春」、「河童」、「東京要塞」、「死者の書」、「恩讐の彼方に」、「桜の森の満開の下」、「山月記」、「花のき村と盗人たち」、「セメントの中の手紙」、「魔術」、「アグニの神」、「洋館」なんかを読んでみましたが、ハズレがないのが良い点だと思いました。また、比較的、ページ数が少ないのでサクサクと読めます。「人間失格」もこれがあれば、DSで読んでいたと思います。
DSで本を読むようなタイトルを買うのは日本人くらいかと思っていたのですが、AmazonやVGChartzを見ると、まったく逆らしいことが分かり複雑な気分になりました。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B000VQOKBS
日本では24人が5つ星、20人が4つ星、7人が3つ星。
http://www.amazon.com/100-Classic-Books-Nintendo-DS/dp/B003B3V0MA
アメリカでは38人が5つ星、8人が4つ星。
http://www.amazon.co.uk/100-Classic-Book-Collection-Nintendo/dp/B001LK6XKE
イギリスでは68人が5つ星、18人が4つ星。
http://gamrreview.vgchartz.com/sales/12312/ds-bungaku-zenshuu/
http://gamrreview.vgchartz.com/sales/29476/100-classic-books/
日本の売上は16万本なのに対して、アメリカは10万本、ヨーロッパは54万本でした。

  • 「猫の妙術」(2008年8月)

銃夢LOの12巻でこの話のパロディが紹介されていたので、読んでみた話です。話自体は非常に短いのですぐ読めます。以前にどこかで聞いたことのある話なので、結構有名な話のような気もしています。
猫の妙技
http://reijifur.main.jp/neko.html

ケータイ小説が相次いで書籍化や映画化されている状況があって、また、「あたし彼女」は独特の表現が話題になっていたので読んでみました。
iPhoneで読んだのですが、思ったのはこの細切れとも言えるような表現方法は1画面に表示可能な文字数に制限のあるケータイ画面にとても向いているということです。とても読みやすかったです。また、万事が主人公の主観で物ごとが語られるのですが、このストレートな書き方はそれを非常に活かしていると感じました。さらにメールのやり取りの場面では、まさにメールを読んでいるかのような錯覚をも感じることもでき、まさにケータイ小説のために作られた作品だと思いました。
なお、以前はパソコン経由で読めたサイトが今はケータイでしか読めなくなっていました。なので、今から読むならならケータイ経由か別のサイトを探す必要がありそうです。
ケータイ小説という疑似体験 −あたし彼女(著:kiki)−

みんなのおすすめセレクション 428 ~封鎖された渋谷で~ - Wii

みんなのおすすめセレクション 428 ~封鎖された渋谷で~ - Wii

自分の中では電子書籍の傑作となっている作品です。ストーリーはもちろん、登場人物を切り替えながら読み進める独特のシステム、場面を盛り上げるBGM、臨場感溢れる画面表示、そしてそれらが高いレベルで結びつくことで傑作となっています。この作品と最近話題になっているテキストをPDFにしただけとか、音楽もつけてみましたとか、文字サイズも変えられますといったiPhone/iPod向けタイトルを比べると、あまりにも大きすぎる差を感じてしまいます。「428」のような作品こそiPad向けアプリに向いていると思うのですが、容量や価格が見合わないのでしょうか。

  • 魔王はなかまをよんだ!しかしだれもあらわれなかった!!(2009/03/08)

http://urasoku.blog106.fc2.com/blog-entry-634.html
たしかはてブ経由で知って読んだ作品です。ドラクエの二次創作という分類になると思いますが、ゲーム中ではまったく登場しない名もないキャラクタが重要な役割を果たすという展開が面白かったです。電子書籍CGM的側面がよく表れた作品だと思います。

  • まおゆう(2010年4月)

魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」まとめサイト
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 - うつせみ日記 (Utsusemi Nikki)

正式名称は『魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」』なのか、それとも決まったものはそもそもないのか分かりませんが、略称として「まおゆう」がよく使われている作品です。
かなり真面目に読んで3日間程度かかるくらいのボリュームも凄いですが、それだけのボリュームを飽きさせず、破綻させずにまとめきる力量は感嘆せざるを得ません。
上に挿入させたニコニコ動画は、この作品の漫画化、動画化プロジェクトのものですが、こちらも非常識なほどハイレベルです。
こういう作品を読んだり、観たりすると、プロとアマの境界線とは何だろうかと考えさせられます。

  • 「嘘に「嘘」を吐いたなら」(2010/09/15)

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=48724
Pixivはイラストの投稿サイトとして有名ですが、小説の投稿も始めたということで読んでみたのがこの作品です。他の作品もざっと見てみたのですが、いわゆる「腐向け」が多いようで自分の趣味には合わなそうでした。
この作品は、シンデレラのその後を描いているのですが、主役は魔法使いです。なぜ魔法使いはシンデレラを助けたのか、著者の独自の解釈により話が大きく広がります。何と言うか、とにかく素敵なお話ですので、老若男女問わずぜひとも多くの人に読んでもらいたいです。

  • "MOMOTARO"(2010/10/18)

"MOMOTARO"
これもはてブ経由で知った作品です。桃太郎のパロディですが、面白いです。作られた目的通り、親が子どもに話してあげるのが一番向いていると思います。

イシイジロウ氏が放つ『タイムトラベラーズ』はニンテンドー3DSに!【LEVEL5 VISION 2010】 - ファミ通.com
こちらは購入予定です。新作のサウンドノベルということで期待はしているのですが、不評だった「忌火起草」(イマビキソウ)の例もあり、少なからず不安もあります。

まとめ

結局、娯楽としての読書はこれからもなくなることはないと思っています。さらに、インターネットの普及によって簡単に小説を発表する場ができたことで、誰もが小説を書き世界に発表することができるようになりました。これまで文書だけで娯楽としての価値を維持できた小説家は無名の新人たちのプレッシャーに晒されることになるでしょうし、逆にアドベンチャーゲームのノウハウを電子書籍に持ち込むことも出来ると思います。ゲームと違って、小説に数千円はなかなか払ってもらえませんが、iPhoneiPad向けに機能を絞り価格を抑えたタイトルであれば、需要はあると思います。
iPhone, iPad, Kindleなど電子書籍のインフラはアメリカ企業のほぼ独占状態となっています。でも、そのインフラの上で取引されるコンテンツでは、日本は決して負けていないと思います。