何のために自炊をしているのか分らなくなってきた件

本を裁断してスキャナーで電子書籍化する自炊を始めて1年以上が経ち、ほぼ所有している本のすべてを電子書籍化することができました。時々、新しく本を買ってきては、裁断と電子書籍化を繰り返しています。

居住空間の改善

今、改めて思うことは、居住空間が大きく改善されたことです。もともと狭いアパートだったにも関わらず数百冊の本があったので更に狭くなっていただけでなく、本のせいで片付けらないモノが押し出されていたことに後から気付きました。本来、身の回りに必要な物は日常的に使う物だけにするべきなのに、保管スペースが本に占領されているために使わないものを片付けられないのです。これは自分だけでなく他の人にも当てはまりそうです。

遅くなったWindowsデフラグを実行するには数十%の空き領域が必要です。同様に人が生活するにも物が収まる空間だけでは不足で、取り出した物を一時的に置いておく空間が必要です。そういう空間がないと部屋が物で埋まり更に片付けられなくなり、物理的に物を片付けられないので片付ける習慣が身に付かないという悪循環が続くことになります。
本が物理的に無くなり生活空間に余裕ができると、上記とはまったく逆のことが起こります。本を捨てることで、普段使わないものを捨てるという習慣が身につき、

  • 「よく分らないから取っておく」→「使わない物は捨てる」

という風に考え方が変わりました。家電などのマニュアル類も滅多に使わないのに必要な時にないと困るのでなかなか捨てられなかったのですが、ほとんどは公式サイトからダウンロードできるので、保証書だけ残して捨てることにしました。


所有と共有

もう一つ思うことは、本を持っていることの意味です。自炊によって物理的な本はなくなりましたが、電子化された本は「所有」しています。だから、iPhoneiPadでそれらの本を読むことはできますが、ほとんどの本は読み返すことはないでしょう。また、まだ読んでいない本もありますし、中には読まないままの本もあるかも知れません。そう考えると、読んだ本を「所有」していることは単なる自己満足に過ぎないとも考えられます。

先月、AppleiCloudというサービスを発表しました。

ネット上のストレージという意味では、すでにAmazonや他の企業がサービスを提供していますが、それらと決定的に違うのはコンテンツの管理方法です。前者はネットワーク上に保存スペースを提供するだけですが、アップルはiTunes Storeで購入した音楽やアプリ、そして本は、iTunes Storeのデータを使うと言っています。とても巧い方法だとは思うのですが、このiCloudの様にコンテンツをネット上で一元管理するやり方が一般的になったとしたら、自炊した電子書籍の価値とその自炊にかかったコスト(時間とお金)の意味はどうなるのか、疑問に思えてきました。
自炊した電子書籍iPhoneiPadはもちろんPCでも読むことができますが、iCloudのような専用サービスと比べると使い勝手は見劣りしますし、単に読むだけならBookWalkerで十分です。


1999年のナップスター登場後、レコード会社による訴訟と様々な企業による音楽配信サービスの参入と失敗、AppleiTunes Music Storeの成功が続きます。さらにAppleDRMが閉鎖的だという批判の高まりを受けてAppleスティーブ・ジョブズは音楽ビジネスの主流であるCDにDRMは無いのだから、音楽配信でもDRMを無くすことが誰にとっても望ましいことだという発表を2007年2月に行いました。

当初、音楽配信DRM必須でしたが、たった10年程度で大手のAmazonがmp3で音楽配信サービスを始めるくらいに音楽ビジネスを取り巻く状況が変わりました。
同じ理屈で今後、数年程度で電子書籍DRMがなくなるか、事実上、無いのと同じ状況になる可能性が高いと考えられます。そういう状況になった時、お金と手間をかけて不便な電子書籍を作る自炊という作業は非常に無駄な行為に見えると思います。

とりあえずの結論みたいなもの

いずれにしても価値があるのはコンテンツです。だから、保管スペースの点でデメリットの多い紙という媒体を捨てて電子書籍化しました。さらに、そうであるなら、データが自宅のパソコンにあってもネット上のクラウドにあっても価値は変わらないはずです。けれども、ソニー音楽配信サービスがATRAC形式を米国と欧州(日本は継続)でやめたように、DRM付きの電子書籍サービスが停止されるリスクは残ります。
結局のところ、サービス停止のリスクが高いと考えるなら、無駄な作業になるのを覚悟で自炊を続けるしかないでしょう。AppleなりAmazonなりその他の電子書籍サービスのリスクが十分低いと考えるなら、それらのサービス利用するのもアリでしょう。コンテンツそのものが無くなることはないのですから、買い直す覚悟さえあれば何でもアリです。

まあ、部屋が広くなったのでそれだけでも自炊のメリットは大きかったと思います。