テレビの未来(コンテンツの異種格闘技戦へ)

従来型テレビ・モデルの終り

■VODに殺到するメディアの巨人達

 何故メディアの巨人達がオン・デマンドの世界に殺到するのか。前掲のビジネスウイーク(BW)誌によるとその理由は以下の通りである。視聴者(の価値観)がバラバラになりつつある。また、メッセージに無関心な若い視聴者層が増加しており、販売の拡大を期待するスポンサーはいずれテレビ・コマーシャルにお金を払い続けるの止めるだろう、とメディアの巨人達は当惑している。視聴者は日々の放送番組表に対をする拒否感を高めている。それがDVRやiPodが急激に伸びている理由だとみて、メディアの経営者は大騒ぎしている。しかし、現時点では、テレビのエンターテインメント番組の制作者が、マスの視聴者を狙ったコマーシャルを売ることで得てきた収益を、どうしたら今後も獲得できるのか、そのビジネス・モデルが欠けているのが問題だ、とBW誌は指摘している。

アメリカのメディアの巨人たち(いわゆるテレビ放送局)は、人々がテレビを見なくなりスポンサーがお金を払わなくなりそうなのに、どうして良いか分からなくて大騒ぎしているらしい。
インターネット以前(〜1980年代)、コンテンツの動画配信ビジネスはテレビ局がほぼ独占してきた。動画配信以外では、新聞、雑誌、ラジオなどの媒体もあったが、視聴者への訴求力の点でテレビの存在感は圧倒的だった。ほとんどの人は放送される番組を喜んでみてくれたしスポンサーに困ることも無かったのだろう。それが、IT技術の発達によって変わり始め、気がつくと、過去には戻れないことが誰の目にも明らかになってきた。
インターネットで現れてから、PCや携帯などコンテンツ配信手段が多様化してきた。
当初、1枚の写真の送信ですら数分かかっていたインターネットは、いまではTVと遜色ない動画をリアルタイム送信が可能にまで発達してきた。GyaOはインターネットでTVと同等の動画配信ができることを証明している。
また、TVとインターネットでは、参照できるコンテンツの数が全く異なる。TVは放送局のプログラムに従ってコンテンツが配信されるが、インターネットではテキスト/音声/動画などの多様な大量のコンテンツをユーザが選択することができる。
(たとえば、TVでニュースを見ようとしたら放送時間まで待つ必要があるが、インターネットならいつでも最新のニュースを見ることができる。)
また、インターネット上のコンテンツはTVや新聞などと違い個人が発信しているコンテンツーブログ、掲示板(2ちゃんねる)、ポッドキャスト−が増えてきている。


TVが唯一の動画配信媒体でなくなった今、放送局はインターネットの世界で今まで競争相手と考えたこともなかった無数のプロ/アマのコンテンツ提供者とスポンサーを奪い合うための戦いを強いられることになる。放送局は多くの良質のコンテンツを持っているが、競争相手もインターネットの世界で生き延びてきた強者たちなのだから、一筋縄ではいくまい。ストリーミング配信では高い競争力を持っていたとしても、たとえば、Google Earthの様なサービスはTVの世界には存在しなかった。これらのサービスと真っ正面から勝負しなければならないのだ。
インターネットの世界に参入することでTVと違い、競争者は何倍にもふくれあがるが、スポンサーが提供可能な資金も視聴者の数も時間も今までと変わることはない。


日本の放送業界は、将にサバイバル時代を迎えようとしているのに、今まで自分で自分の首を絞めるようなことばかりしてきた。一つは、大量の資金が必要になるデジタル放送の導入。そして、視聴者の利便性を著しく制限するコピーワンス制限。
画質は悪いより良い方がいいに決まっているが、高画質に対するニーズがそんなに高いとは思えない。反対意見も多くあったにも関わらず、デジタル化に踏み切り放送局は重い資金負担を背負うことになった。
コピーワンス制限は、ユーザにとってメリットは何もない。
どちらかといえば、これから様々な携帯機器が普及していくことを考えると、利便性が損なわれる機会は増えていくように思える。


従来型テレビ・モデルの終り

トップ・タレント達は仲介人(middleman)を省き、ブロードバンドに直接配信する番組を制作し、自力でお金を集め始めるだろう、と前掲のBW誌は書いている。

【WPC EXPO 2005】インテル講演、「Viivがリビングを変えていく」

インテル自身も吉本興業と協力してコンテンツ製作に取り組む。

今後、優良コンテンツを制作できる個人や団体は、放送局から独立していくんだろう。



■笠原一輝のユビキタス情報局■
楽天問題に見る、デジタル時代に合わせた放送免許要件の見直し

総務省に求められる放送行政の早急なる見直し、竹中大臣に期待

 今後IT業界は、現在の放送事業のあり方について政府に変更を働きかけていくと思われる。実は、状況的にはそうした方向に向かいつつある。


現在の放送行政ではコンテンツ制作と放送設備の運用は一体でなければならないとされているので、これを分離すれば放送業界の圧力を受けずにコンテンツ制作/配信ができるようになるという記事。
もし、そうなった場合、放送局には何が残るんだろう。(デジタル放送機器購入の借金?)


たぶん、10年後もリビングの中心にはテレビがあるだろう。
ただ、手段はともかく、標準でインターネットからの動画を表示できるようになっている。
そして、もしかしたら、いくつかの放送局はIT企業に「友好的に」買収されているかもしれない。