声の網 星新一著


私たちが何か見慣れないものを調べる場合、まず、いろいろな方向から見てみます。
自分で見られないときは人に見てもらったり、機械を使って超音波や赤外線で調べるという方法もあります。


今、私たちの目の前には「インターネット」という過去には存在したことのない全く新しいものがあり、多くの人がそれについて語っています。たとえば、梅田望夫氏の「ウェブ進化論」などがそうです。ただ、当たり前の話ですがそれらの書籍は最近発行されたものです。なぜ当たり前かというとインターネットが本格的に普及し始めたのが1995年頃からで、いろいろなサービスが充実し始めたのは本当に最近になってからだからです。


ところが、今から30年以上前にコンピュータとネットワークによる情報社会の姿を予見していた本がありました。それが、タイトルの「声の網」です。


声の網
声の網
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星 新一
角川書店 (2006/01/25)


この本の解説「一九七〇年の衝撃」(恩田陸 氏)によると、この本のオリジナルは1970年だそうです。1070年はプッシュホン電話が登場した翌年で、各家庭にあるのはほとんどダイヤル式の黒電話でした。当然、携帯電話もパソコンもありません。コンピュータといえば企業にある大型の汎用機という時代です。
その当時に今の情報化社会の姿や課題を予見した本を書かれているのです。
(登場するのは、その当時の電話機のイメージなので、ギャップが大きいです。)


電話(Wikipedia)


キーワードは、情報、コンピュータ、ネットワークの3つです。


ざっと思いつく予見していると思われる項目は以下です。
(注意して読めば、もっとたくさんあるように思います。)

  • ネットワークによる在庫管理

   商店は、ネットワーク経由で商品の在庫管理を行う。

  • 情報過多

   マスコミの発達。新聞、雑誌、TVなどからの情報が増え続ける。CMの増加。
   「情報の流れが激しい水圧をもって、個人に注がれる。」

  • ネットワークによる個人情報管理

   人々はネットワーク上に様々な個人情報を保存し、必要に応じて取り出す。

  • 個人情報保護と漏洩

   企業は良くないことと知りながら"お客様のため"を合い言葉に個人情報を流出させている。

  • 個人情報の悪用

   ネットワーク上の個人情報を元に、人々を脅迫。
    → 振り込め詐欺

  • 停電に対する情報社会の無力性

   対面での言葉での情報交換のやりとりを見て「原始的な情報交換の形だな」という台詞があるのですが、それが印象的でした。

  • 検索

  コンピュータが名字等のキーワードで個人情報を検索する場面がありますが、これは将にGoogleです。

  • 情報による世界の支配

  コンピュータは世界中の情報を握っており、そのコンピュータをコントロールすることで世界を支配しようとする場面があります。これは、アメリカ政府が検索サービス企業に情報開示を請求していることを彷彿とさせます。実際、検索技術が思考をも支配するという記事もあります。


とにかく、これらが描かれている世界にパソコンはなく、インターフェイスは電話機です。
ですから本の中では情報は全て音声データなのですが、テキストに置き換えればほとんどそまま現代社会に当てはまるように思います。


現代とは全く違う30年以上前の時代に書かれた本にも関わらず、現代の情報社会の本質を捕らえているように感じます。
「木を見て森を見ず」ということわざがありますが、最近の「インターネット」に関する本が「木を見る」だとすれば、この本は「森を見る」ことに繋がる、つまり全く違う視点で「インターネット」を見ることができるように思います。