分かっちゃいるけどやめられない、大人の事情

池田信夫 blog NGNはインターネットではない

NGNのトライアルが、華々しく始まった。これまで、その「キラー・アプリケーション」が何なのか、はっきりしなかったが、どうやらアクトビラらしい。家電メーカーがテレビ局主導の「サーバー型放送」に見切りをつけ、IPベースのサービスに重心を移したのは結構なことだ。しかし問題は、これがインターネットではないということである。

以前からNGNというキーワードばかりが先行していて中身がよく分からなかったが、キラーアプリケーションは「アクトビラ」ということらしい。アクトビラが実際には何なのかはやはり分からないが、キャプテンシステムの後継システム、もしくはテレビ専用の情報提供システムなんだろうと思う。池田信夫さんもコストについて何も考えられていないと批判しているが、全くその通りだと思う。
ITmedia +D LifeStyle:デジタルテレビ向けポータル「acTVila」、07年2月スタート

登録料や月会費は不要で、ISPや回線の種類も問わない。

無料のサービスらしいが、ビジネスモデルはどうなっているんだろう。アクトビラの人達が無給で用意してくれるんだろうか。

コンテンツとしてはまずはニュースや気象、趣味などといった生活に関連した情報が提供され、ショッピング機能も用意される。

これって、デジタル放送のサブメニュー?と何が違うんだろうか。
やはり思うのは、まず「箱」とか「入れ物」を作って、中身は後で考えましょうってことなんだろうということ。ロードマップによると2007年度中にVODで動画配信をすることになっているが、テレビ局や番組制作会社のことが何も出てこないのはまだ決まっていないからだろうと思う。視聴者のニーズはハードじゃなくてコンテンツなのだから、考え方の順番が逆ではないだろうか。それに、動画配信にどれだけニーズがあると思っているんだろう。第2日本テレビGyaoがそんなにうまくいっているのだろうか。Alexaのデータを見るとGyaoはアクセス数が下がり続けているし、第2日本テレビはそもそもアクセス数が低いしどちらもうまくいっているようには思えない。それにアクトビラのビジネスは広告モデルなのだろうか、それともコンテンツ課金なのだろうか。たぶん、まだ、そこまで決まっていないんだろうなあ。

ちょっと、考えただけでも疑問だらけのNGNアクトビラだが、関係者も不安がないとは思えない。たぶん、逆に不安でいっぱいなんだと思う。つい先日まで(今でも時々)、テレビで夕張市の破綻問題で当時の市長や議員を批判していたが、議員達はワザと夕張市を破綻させた訳じゃない。炭坑という収入を失いながらも新たな収入源と雇用を維持するためのアイディアが観光しか思いつかなかったから、やむを得ず、借金をしながら観光施設を作り続けたんだと思う。テレビ報道によるとほとんど客はいなかったそうなので、住民もある程度は予想していたんじゃないだろうか。夕張市の問題は、炭坑閉鎖という問題解決を議員に丸投げしてしまったことが一番の問題のような気がする。そして市の収入維持と雇用の確保という課題を押しつけられた議員達は、うまくいくかどうかは分からないが、少なくとも今現在の体面は保てる「観光地案」しか出せなかったんだと思う。たぶん、それが、分かっちゃいるけどやめられない、大人の事情。
今回のNGNアクトビラも同じ様な話に思える。NTTからすれば固定電話の収入は落ち込むばかりだが、収入も維持しなければならない。交換機をルーターに置き換えることはできるが、それでは収入を増やす事にはならず、人員も余ってしまう。だからこそ、新しい収入源が期待できる全く新しいネットワーク、NGNが必要ということになる。家電メーカーからすれば、テレビ業界の競争が激しくなってきたために、たぶん、差別化による付加価値として「何か」が欲しかったんだと思う。安いだけのPC関連機器と明確に区別できる機能が。で、NTTと家電メーカーの思惑が一致して、NGNアクトビラの構想が具体化していったんだろうと思う。
実際、彼らもこの新しいサービスがうまくいくとは思っていないような気がする。他に良い方法が思いつかないからだけではないだろうか。もしかしたら家電メーカーはテレビ局の下請的な立場から脱却できると期待しているのかも知れない。

最近、はてブ経由で以下のサイトを見つけた。
ニセ科学入門

信じたいことだけを信じる人間は常識から目をそむけてしまうものらしい。

著者は上記を一部の特殊な人のことだと思っているようだが、実際にはほとんど人が当てはまると思う。ことわざで言うなら「溺れる者は藁をもつかむ」や「苦しいときの神頼み」だろうか。多くの人は自分には解決できない課題を与えられた場合、冷静なときには選ばないような選択肢を選んでしまうのではないだろうか。特に社会的な立場が上になればなるほど、100点満点では満足せず、120点や200点を求めてしまうものではないのだろうか。だからこそ、夕張市の議員達は炭坑閉山の時、地道な努力ではなく、明るい未来が予想できるような夕張市の観光地化を提示したし、NTTや家電メーカーは、収益の悪化につながる低コスト化ではなく、テレビに付加価値を追加できるサービスを立ち上げようとしているのではないだろうか。例えそれが、どんなに望みがないとしても。

まあ、勝手にメーカーがやる分には好きにして貰って良いと思うが、それに税金が使われるのは勘弁して欲しい。あと、望みのないサービスを作らされる技術者も可哀想な気がする。例のホワイトカラー・エグゼンプションというのが採用されたら低賃金で使い放題で働かされるのだろうし。
もし、テレビに付加価値を付けたいなら、もっと他にやることがあるんじゃないだろうか。例えば、今のボタンばかりのリモコンはユーザーからの苦情が相当あるだろうから、早急にこれを改善すべきだろう。最近、テレビにPCを接続できる機種が増えたが、とても使いづらい。リビングのテレビを見るときは普通、2〜3m程度離れた位置から見ると思うが、PCとして使うときも同じ位置から使うのだろうか。マイクロソフトはメディアセンターエディション向けのWindowsにはテレビのようなリモコンを用意しているし、Appleは"Apple Remote"というリモコンを用意している。ただ、どちらもテレビでウェブブラウザが使えるようにはできていない。テレビでウェブを見るならまず、テレビで見やすい規格を作るべきだと思う。今のインターネットでも画面の小さいi-mode用の画面が用意されているのと同じ様にできないだろうか。ただ、テレビ業界が何もしなくても、Wiiが普及すればテレビでの表示に適していて、Wiiリモコンで操作しやすい表示モードがすぐに広まりそうな気がするが。

06/12/24追記

デジモノに埋もれる日々: Wii用に最適化されたウェブページを作ってみるテスト(動画あり)
デジモノに埋もれる日々さんのところでWii用に最適化されたウェブページの例が掲載されていた。

・画面サイズは 800×512 ピクセル。それに収まってスクロールしないように、
 780×480 のdiv枠を作って、その中ですべてのコンテンツを描写する。
 
・特別なページ以外、スクロールはなるべく避ける。
 マウスと違って、スクロール操作はストレスを感じる。
 
・文字サイズは固定ピクセル で指定する。どうせ Opera for Wiiには
 ユーザが自分で文字サイズを変える機能がないので無問題。
 固定サイズなら「1画面に収めるレイアウト」がやりやすい。
 
・文字サイズの 最小単位は24px が妥当。20pxや16pxだと、
 読むために「目を凝らす」度合いが多くなり、ストレスが激増する。
 情報量の少ないページだったら基本28pxでもいいくらい。

これはWii用に最適化されたウェブページの例だが、テレビすなわちリビングで2〜3m離れた位置から操作し表示させる場合にも同じ事が言える。こうやって、テレビでウェブをブラウズする環境が整ってデファクト化されていくんだと思う。テレビ業界は抜きで。数年後にはテレビはHDDレコーダーやWiiを表示させる機器として定着し旧来の番組はおまけのようになるかもしれない。