ソリューションの時代

かさぶた − 黒物デジタル家電の人が白物家電に言及してない件について

DAKINIさんのブログを読んで、以前に聞いた水口健次氏の話を思い出した。
マーケティングについての話をするとのことだったが、見た目は人の良いおじいさんという感じだったので、眠たくなるような机上の理論をするのかと予想していたが、良い方に期待が裏切られた。話の要約は、”成熟した日本市場ではモノは売れない。サービスやソリューションを提供する必要がある。”という特に新しい話ではなかったが、話がとても分かりやすかった。ただ、自分には説明できそうにないので、興味のある人は直接講演を聴くか、本を読んで欲しい。

水口健次のプロフィール
ネット上にソースがあり、そこにいくつかキーワードのようなことが書かれている。
例えば、ホームページのWhat's Newに「<水口健次からのご挨拶>」というのがあり、その中に、

・酒屋が売る酒は減り続ける
・化粧品店が売る化粧品も減りつづける
・本屋が売る本も減り続ける

というのがある。
それぞれなぜ、「減り続ける」かはリンク先に書かれているが、例えば酒が減り続けるのは、

その需要を変えるのは女性です。
女性にとって酒は食事とオシャベリの部品です。
酒は食品になります。酒屋と酒卸はスーパーとCVS、食品卸の一部になります。

と書かれている。成熟した日本の社会ではモノはどこでも買える。どこでも買えるなら便利なところ、少しでも安いところで買う。わざわざ、酒だけを扱っている酒屋で買う人はいないよ、ということ。もちろん例外もあるだろうが、主流はそうなる。また、酒を「部品」と認識することも重要な見方だと思う。酒はこれからも無くなることはないし需要はもしかしたら増えるかも知れないがそれはサービスの「部品」としてなので、顧客からは酒屋や酒卸は見えなくなる。客から見えるのは、居酒屋であったりスーパーやコンビニだけとなる。顧客との接点を失うこと、それが「部品化」。

他のソースで面白かったのは、ハーレーダビッドソン・ジャパンの話。
日本ではオートバイの市場は下がり続けているらしい。そんな市場でアメリカから大型バイクを輸入販売する数十人規模の企業が生き残っていけるだろうか。競合メーカーにはホンダやヤマハなどの日本企業もいる。普通に考えたら、いつまで保つかという時間の問題になると思う。ところが、現実は右肩上がりの成長を続けている。

『ハーレーダビッドソン・ジャパン Impossible 5』

詳しくは上記の記事に書かれているが、マーケティングのプロを自任する水口氏はこの会社について、5つの不可能を提起している。

5つの不可能 Impossible 5

1. 減少する市場の中で、1社だけ成長
2. 弱小ディーラーを使った、ライフスタイルマーケティングを展開
3. 資本系列のないディーラーで価格維持
4. マスメディアを使わないでブランド確立
5. 卸なのに、売上経常利益率9〜10%を確保

そしてこの不可能を実現するためにトヨタ出身の奥井社長が取り組んだのが、以下の戦略。

奥井は、こう説明する。
「オートバイという乗り物を売ろうとしたら勝てなくなる」「モノを売らないでコトを売る」「ハーレーの楽しみ方を買ってもらう」これしかないという。

オートバイというモノを売る競争では勝ち目がないから、モノではなく「楽しみ方」を買って貰う。そして、これ以外の選択肢は無かったという。


これらの事例をニッチ市場の特別な事例と考えるか、成熟市場、飽和市場で生き残るためのヒントと捉えるかは人それぞれだが、私はこういった考え方が日本でも主流になっていくと思う。


コラム: 大河原克行の「白物家電 業界展望」高付加価値白物家電が注目を集める理由

この記事の中では、ヘルシーな料理が作れる電子レンジや自動清掃してくれるエアコンなど、さまざまなジャンルの製品が紹介されているが、それらに共通して言えることが、メーカー側のコメントして掲載されている。

「最も気にしなくてはならないのは、お客様にとって使いやすい商品を開発するということ」
「作り手側の訴求ではなく、お客様が満足していただける商品を投入していくことが必要であり、それが試されているのが付加価値商品。もし、気を抜いた商品を出したら、いくらメーカーが付加価値商品だといっても、見向きもされないだろう」

この顧客志向という考え方は特に新しい話ではなく、古くは300年近く前の日本の商人にまでさかのぼることができる。
国際派日本人養成講座 国柄探訪: 石田梅岩〜「誠実・勤勉・正直」日本的経営の始祖

近年の経営学では「カストマー・サティスファクション(顧客満足)」が成功への道だとしているが、それを梅岩は3百年近く前に言い出したのである。

成熟した市場で如何に付加価値を付けるかという身近な例は、いくらでもあると思う。例えば、飲料の場合、健康志向が全盛だし、水が人気となれば効果のよく分からない酸素をまぜた飲料水が発売されたりする。単に「おいしい」だけでは買って貰えず、顧客の課題(健康に対する不安)を解消もしくは改善するという付加価値が必要なのだろう。この間の「あるある事件」で、納豆が品切れになったことからも、今の人々が食品に何を求めているか、期待しているかがよく分かると思う。人々は飢えてるわけではないし、美味しいモノも食べようと思えば食べることもできる。それでも、不安や不満が無いわけではないので、それを解決/改善できるソリューションを「商品」として提案する必要がある。

その成功事例の一つが、任天堂DSなのだと思う。DSは人々に「脳を鍛えることができる」や「英語を鍛えることができる」というメッセージを届けることに成功している。
任天堂の据え置き機Wiiもゲーム本来の目的である「楽しさ」をその独特のコントローラーで提案し受け入れられているように見える。ライバルとされるPS3Xbox360はグラフィックを売りにしているが、何を提案しているのかが伝わってこない。

何を提案しているか分からないモノとして、Windows Vistaがある。Windows3.1→95やXPの時は明らかに使い勝手や信頼性、機能が強化されたがVistaは何を提供してくれるのかが分からない。最近のPCの世界でのトレンドとしてWeb2.0があるが、例えば、Vistaを買うとWeb1.0が2.0へ、または、3.0へアップグレードできるのなら数万円でも支払う価値はあると思う。気持ちの問題かも知れないが、以前、OSをバージョンアップする時はWeb1.0→2.0ぐらいの期待を持っていた気がする。たぶん、実際にはVistaに切り替えても多少見かけが変わるくらいで、GoogleやYahooの使い勝手も「はてな」の機能も変わらないだろう。それはつまり、何も変わらないということと同じに思える。

単にモノを作っても売れない時代に、それぞれの商品が発信しているメッセージを読み取ってみるのも面白いかも知れない。そのメッセージによって同じ業界の企業でも、その業績は全く違った結果になるのだと思う。