ホリエモン、有罪の不思議

3月16日にライブドア前社長・堀江貴文被告、通称ホリエモンに懲役2年6ヶ月の実刑判決が言い渡されました。「本件各犯行は証券市場の公正性を害する極めて悪質な犯行」だから実刑判決という論理はわかるのですが、その「悪質な犯行」の事実認定がほとんど実行犯の証言だけというのが信じられないというか、あり得ない。
今回の判決を聞いて思ったことを書き留めておこう思います。

なぜ強制捜査、逮捕されたのか

出る杭は打たれる
http://news19.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1166487059/138

138 :名無しさん@七周年:2006/12/19(火) 15:55:04 id:RDLl/v7f0
ライブドア粉飾疑惑額 15.8億円
⇒社長逮捕・上場廃止耐震偽装証人喚問にぶつけた不可解)
⇒検察「数10億もの巨額を堀江社長が知らないはずがない!タイホだ!」
安晋会理事の野口氏の自殺をライブドア匿名投資の野口と強調してリーク

◆日興コーディアル粉飾疑惑額 140億円
⇒訂正勧告・課徴金ちょびっと
⇒検察「140億なら訂正と罰金でOK」

nec子会社粉飾「確定」額 363億円
⇒会社おとがめなし
⇒検察「363億程度なら一社員の行為。会社はむしろ被害者」

ミサワホーム 5年にわたり数十億円
⇒いまのところお咎めなし


これが日本クオリティ

出る杭は打たれる : ひろゆき@オープンSNS

法律に詳しいわけではないので、それぞれの粉飾事件の違いが細かくは分かりませんが、普通に考えてなぜ、ライブドア事件だけが強制捜査され、経営者が逮捕されたのか分かりません。テレビの一部のコメンテーターは日興コーディアルとのバランスについて述べている人がいますが、それ以外の粉飾事件について言及している人はいませんでした。疑問点を整理すると、

になります。

ホリエモンは何をしたのか?

判決文がまだ公開されていないようなので、はっきりしたことがまだ分かりません。それで、判決理由の要旨から読み取ると以下のようになります。

  • 宮内被告らと共謀して、虚偽の有価証券報告書を提出
  • 宮内被告らと共謀して、虚偽の業績状況を公表

これが事実だとすれば、素人目にも粉飾決済だと分かります。しかし、ホリエモンは無罪を主張している訳ですから、この「宮内被告ら」と共謀が争点になります。裁判ですので、客観的な証拠で"宮内被告らと共謀"が証明される必要があります。

ホリエモン有罪の証拠

この「判決理由の要旨」によると、宮内被告らと共謀したと判断した証拠についてはほとんど書かれていない。あくまで、検察の主張通りの犯行を被告人が行ったことを前提に、これは「悪質な犯行」であると言っているだけです。裁判所は検察/被告人の主張を判断(ジャッジ)するところであり、お説教をするところではないのだから、この「判決理由の要旨」はおかしい気がします。
他の記事によると以下の記述があります。

判決は、公判で前社長の関与を詳細に再現してみせた前取締役の宮内亮治被告(39)や金融子会社前社長の中村長也被告(39)らの証言の信用性を検証。「メールによって裏付けられている他の幹部の証言と符合し、信用できる」とした。

http://www.asahi.com/national/update/0316/TKY200703160052.html

つまり、ホリエモンが犯罪を行ったという証拠は、他の被告の証言だけしかない訳です。強制捜査ではメールを含む膨大な資料が押収されたと聞きましたがそれらの中にホリエモンの犯行を裏付ける証拠が一つもなく、他の被告人が信用できるかどうかの材料にしか使われていません。

それらを踏まえ、判決は、前社長の関与について「空売り上げ計上の実行を部下に指示し、それ以外の犯行についても最終的な決定をする形で関与した」と認定した。ただ、粉飾決算などは宮内前取締役が中心に実行したもので、前社長が「最高責任者として各犯行を主導したとまでは認められない」とした。

http://www.asahi.com/national/update/0316/TKY200703160052.html

更に記事ではホリエモンが果たした役割について上記のように書かれていますが、私にはこの2つの文書が矛盾しているように見えます。実行を指示/決定したと言いながら主導していないとは、どういうことなのでしょうか。

この点について判決は、横領の嫌疑が「強く疑われる状況にはある」と弁護側主張に一定の理解を示した。しかし、これをもって証言の信用性が否定されるものではないとした。

http://www.asahi.com/national/update/0316/TKY200703160052.html

今回の事件は会計に関する事件でありながら、他の会計関連の犯罪を犯していると考えられる証人の証言を全面的に信用するというのはとても信じられません。例えば、詐欺師の証言を何の根拠もなく、今回の証言は信用できると言っているように思えます。

その他

粉飾した業績を公表して株価を不正につり上げて、ライブドア企業価値を実態よりも過大に見せかけ、株式分割を実施して、人為的に株価を高騰させ、結果として同社の時価総額を短期間に急激に拡大させた。

http://www.asahi.com/national/update/0316/TKY200703160215.html

上記を読むと株式分割が不正な事のように見えますが、株式分割は新株発行の一種で防いでも何でもありません。

全体を通して

今回の判決について思ったのは、痴漢の冤罪事件です。『それでもボクはやってない』というタイトルで映画にもなった件です。
粉飾決算と痴漢では全く次元が異なりますが、どちらも証拠が証言だけという意味では共通です。そして、有罪/無罪の判断基準が検察や裁判官の心象次第というのも共通です。さらに例え無罪でも罪を認めて反省した方が罪が軽くなると言うのも共通です。
やはり証言だけで有罪にするのは間違っていると思います。今回の粉飾決算の実行犯とされている宮内被告は複数の証拠もあるようなので言い逃れできないのでしょう。もし自分の罪を軽く見せるとしたら、主犯が別にいて自分はただその指示に従っただけと言うのが簡単です。今回の事件ではそういう構図がありながら、その証言を全面的に信用する考えが全く理解できません。
もちろん、「被告はライブドアの創業者で、当時唯一代表権を有する代表取締役社長であり、筆頭株主でもあって、グループ不動のトップとして君臨し、絶大なる権限を保持していた。」というのは事実なので、その立場上、粉飾決算やその後の株価暴落、上場廃止の責任はあるでしょう。しかし、社長であっても全知全能では無いわけです。だからこそ、これまでの粉飾事件でも経営者が逮捕されることはなかったのだと思います。では、なぜ、ホリエモンだけが逮捕され、そして実刑判決が下されたのか。やはり、出る杭は打つという国策捜査としか思えません。

追記(2007.03.18)

非常に納得できるエントリーを見つけたので、引用します。

もっと実質的な問題は、この種の事件では、ホリエモンのような最高経営者は――形式的な責任はまぬがれないとしても――犯罪の内容を知らないことが多いので、厳罰にしても抑止効果は小さいということだ。しかし捜査当局は、財務責任者よりも社長のクビを取りたいので、CFOと取引して協力させ、社長を厳罰にすることが多い。エンロン事件の場合も、3000もの膨大なSPEをつくって「飛ばし」をやったのはCFOのファストウなのに、彼の判決は懲役6年だった。ライブドアでも、宮内元副社長の求刑は2年半で、執行猶予になる可能性が高い。

事情を知らない社長をスケープゴートにするために、実質的な「犯人」と取引して刑を減じるのは、法の公正という観点から問題があるばかりでなく、リスク態度の歪みをもたらす。社長は、複雑な金融スキームのからむプロジェクトをよくわからないまま許可すると訴追されることを恐れて、自分の理解できないプロジェクトは許可しなくなるだろう。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/b32bee32155181fc933a2e89e55891ab