楽しいからこそ才能を無駄遣いできる

9月20日のエントリは、たくさんの方にブクマやトラックバックをいただきました。ありがとうございました。
もともと国と国との間の文化の違いについて興味があったのと、麻生太郎さんが書かれたとてつもない日本 (新潮新書)という本が話題になっていたこと、Forza2のペイントやニコニコ動画の作品から日本人独特の文化というか特徴みたいなものがある気がして、それを解く鍵としてイザベラ・バード日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)の説明が参考になると思い、このエントリを書きました。

みなさんからいただいたはてブトラックバックのいくつかについて、このエントリでコメントしたと思います。

はてブについて

2007年09月20日 mobanama mobanama 社会, 歴史 英国の子供の遊び方、ほんとかなあ。イザベラ・バードは時に誇張しすぎじゃないかと思える。

確かにあのイギリスの子どもの説明は極端すぎる気がします。たぶん、話を分かりやすくするためにわざと誇張したのだと思います。もし、外国の子ども遊びについて詳しい方がいたら、コメントして貰えるとありがたいです。

2007年09月20日 ono_matope ono_matope 社会, 文化, 日本人 そうだ、イザベラ・バード読もうと思って忘れてたんだ。読もう。

字が小さくページ数も多いので、なかなか大変ですが、異文化に興味があるのでしたらお奨めです。日本人が昔から「日本人」だったのがよく分かります。
高田という町を二千人もの見物人に囲まれてイザベラが出発する際、望遠鏡とピストルを勘違いして人々が逃げ出したときのことを引用してみます。

そこで私は、その品物が実際にはどんなものであるかを彼に説明させた。優しくて悪意のないこれらの人たちに、少しでも迷惑をかけたら、心からすまないと思う。ヨーロッパの多くの国々や、わがイギリスでも地方によっては、外国の服装をした女性の一人旅は、実際の危害を受けるまではゆかなくとも、無礼や侮辱の仕打ちにあったり、お金をゆすりとられるのであるが、ここでは私は、一度も失礼な目にあったこともなければ、真に過当な料金をとられた例もない。群衆にとり囲まれても、失礼なことをされることはない。馬子は、私が雨に濡れたり、びっくり驚くことのないように絶えず気をつかい、革帯や結んでない品物が旅の終わるまで無事であるように、細心の注意を払う。旅が終わると、心づけを欲しがってうろうろしたりしてたり、仕事をほうり出して酒を飲んだり雑談をすることもなく、彼らは直ちに馬から荷物を下ろし、駅馬係から伝票をもらって、家へ帰るのである。ほんの昨日のことであったが、革帯が一つ紛失していた。もう暗くなっていたが、その馬子はそれを探しに一里も戻った。彼にその骨折り賃として何銭かあげようとしたが、彼は、旅の終わりまで無事届けるのが当然の責任だ、と言って、どうしてもお金を受け取らなかった。彼らはお互いに親切であり、礼儀正しい。それは見ていてもたいへん気持ちがよい。

日本奥地紀行 P171

(強調は引用者)

もう一カ所は、イザベラの通訳兼従者の18才の少年(伊藤)についての説明。

日本が外国人の発明したものを利用するのはよいことだ、と彼は思っている。外国もそれと同じほど日本から学ぶべきものがあるし、やがて日本は外国との競争に打ち勝つであろう、と信じている。なぜなら、日本は価値あるものをすべて採用しキリスト教による圧迫を退けているからだという。愛国心が彼のもっとも強い感情であると思われる。スコットランド人やアメリカ人は別として、こんなに自分の国を自慢する人間に会ったことがない。

日本奥地紀行 P.263

(強調は引用者)

当時、東京などは例外としても、田舎では半裸に近い姿でその日暮らしをしているところが少なくありませんでした。そういう国が「外国との競争に打ち勝つ」という話を聞いて、著者は愛国心ゆえの妄想と思ったのかも知れません。
しかし、この後の歴史を考えると、この伊藤という少年の”預言”とその理由「日本は価値あるものをすべて採用しキリスト教による圧迫を退けているから」に驚かされます。

なお、この本は原文がプロジェクトグーテンベルクによって公開されていますので、英語で不自由してない方はこちらをどうぞ。


2007年09月20日 yumizou yumizou 社会, 思考, 知 「この新しいものを生み出し、伝え、育んでいくという「遊び」が、私たち日本人の誰もが持っている才能だとしたら」日本というのは関係なさそう。国民性って何だという問題。

その通りです。最後、エントリがうまくまとまらなかったので、論理に飛躍が入ってしまいました。「生み出し、伝え、育んでいく」というプロセスは世界中どこでも行われていることなので、日本だけが特別持っている特性ではないです。しかし、日本独特のものとして、このプロセスをみんなで遊びとしてやれるというのがあると思っています。
才能の無駄遣い」をするためには、自分の得にならないことに、情熱やら根気やら時間やら(場合によってはお金も)のコストをかけて取り組むことが前提になります。普通はそんなことはしないのに、ニコニコ動画でそういうことがなぜ起きるかというと、作品の作成含めて「遊び」だからだと思います。自分が楽しいからやっていることだから、一生懸命にもなるし、手間を惜しむこともなく、結果、優れた作品が生まれているんだと思います。
ひろゆきさんは、2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)

ニコニコ動画の場合はコメント機能がついているので、面白い動画を載せると、ユーザが反応をしてくれる。ユーザーは動画が観たいわけではなく、あくまでもユーザー同士がメッセージのやり取りをしたいだけなのです。

P.66

と言っています。
また、YouTubeから遮断されてもユーザー数が減るどころか増えていることから「結局、観る動画は何でもいいと言うことなのです。」(同P.67)とまで言い切っています。
これらと合わせて「才能の無駄遣い」を考えると、メッセージのやり取りのためにネタ動画を作ったら、ものすごい質の高い作品ができちゃった、とも言えそうです。
こういうプロセスが日本独特のもので、外国で同じ事が起こるかどうかはよく分かりませんが、ニコニコ動画が海外展開されれば国民性の違いが見えてきそうです。
なお、思わぬ副産物として、傑作が生まれる例は外国にもあります。例えば、19世紀初頭に詩人バイロンが友人に小説を書くことを提案した結果、吸血鬼ブームの火付け役となる作品(有名なあのドラキュラとは違います)をバイロンの主治医ポリドリが、フランケンシュタインを作家の妻(素人)のメアリ・シェリーが執筆しました。こういう作品が歴史の闇に埋もれなくて良かったと思います。

2007年09月21日 nogoldbridge nogoldbridge 日本, 社会, 文化 同じような事を夏目房之介も言ってた

夏目房之介さんというのは、かの夏目漱石のお孫さんだそうで、漫画評論家だそうです。ネットで記事を検索するとそれらしいことが書いてありました。

要するに、マンガの“面白さ”は、ことほどさように一般的な絵のうまいヘタとは別物なのである。
 私なりの言い方をすれば、マンガの絵の“時間”の豊かさは、いわゆる絵のうまさとは別の要素が大きい。まして、コマの“時間”との一致やズレを組み立てる感性は、鄭問のような才能をもってしても一朝には越えられない文化的蓄積なのだろうと思う。あるいは日本語の構造(漢字+ひらがなの二重性など)からくる発想のちがいも背景に横たわっているかもしれない。
 おそらく、このあたりが“日本のマンガの特異性”をとく鍵になるところだろう。

マンガの力-立ち読み

(上記のリンク先は文字コードShift_Jisに変更しないと読めませんでした。)
鄭問{チェンウェン}さんというのは、台湾の漫画家だそうですが、絵は並の日本の漫画家よりうまいが漫画は(日本人的には)面白くないそうです。台湾人からみて面白いのかどうかは分かりませんが、日本の漫画が世界中で受け入れられていることを考えると、同じ台湾人から見ても面白くないのかも知れません。夏目房之介さんは漫画の面白さは、絵のうまい下手とは別だとして、絵が下手だからこそ面白くなる漫画もあると言われています。
このマンガをニコニコ動画の作品に置き換えてみても同じ事が言えるのかもしれません。

トラックバック

限定されたルールのなかで自分の想い描くものを実現するために、技術を洗練させること、それが楽しいんじゃないかな。日本人が縛り好きなのは、その辺が理由だろう。

http://d.hatena.ne.jp/gunzyou/20070921/p2

誰かに強制されたり、目先の利益のためにではなく、工夫したりアイディアを考えたりするのが楽しいからというのが、大きい気がします。

最初に戻ると、最後の1ステップのある無しが「協調的」か「個人主義的」か、をわけているとしたら、まぁそれは社会性の違いってものなのかも、とか思ったり。

http://moustacheetgrandssein.g.hatena.ne.jp/wetfootdog/20070920/p2

子どもの遊びやニコニコ動画で重要なのは、雰囲気というか場の空気のような気がします。何でもいいから作品を作れば、何かしらの反応(コメント)が期待できて、仮に変なものを作っても得にペナルティはない、そういう条件が揃うと日本人の場合、自分の能力の120%が出たりするんじゃないでしょうか。YouTubeにも海外のとんでもない力作が上がっていたりするので日本限定というわけではないでしょうが。もしかしたら、単純に日本は暇人が多いだけなのかも知れません。

こういうのを読むといつも思うんだ。日本人に生まれて本当に良かったって。

なんてね

2007-09-20

本当にそう思いますね。