「しんどい」の語源

Wii投票チャンネルで「「しんどい」って言葉、使う?」についての結果が出た。

  • よく使う 44.7%
  • あんまり使わない 55.3%

割合だけなら特に特徴はないのだが、都道府県別では関西地方に極端に偏った結果になった。
しんどい分布
ピンク色が「よく使う」が多い地域、緑色が「あんまり使わない」が多い地域。

個人的にはしんどいは東北地方の言葉と思いこんでいたので、意外な結果だった。

青空文庫内で検索すると、洋画家 小出楢重氏のエッセイ「めでたき風景」の中で関西の言葉として紹介している記述が見つかった。この本が出版されたのは、1930(昭和5)年5月5日とのこと。

しんどいとは、全くくたびれたという上にもっとなまぬるい複雑性が入り込んでいる処の、もっと軽い意味の、そしてどこかに深刻味のある、微妙なくたびれの心もちであり、一種のびやかな漫然としたつかれ心地を表すためにああしんどとかしんどうてたまらぬとかいう、これも東京ではどんな言葉でいい表していいか私には見当がつき兼ねる。

小出楢重 めでたき風景

確かに「しんどい」を別の言葉で言おうとすると思いつかない。「疲れる」よりもっと気持ちがこもっている気がする。北海道弁だと「ゆるくない」が近いと思う。

広辞苑(電子辞書、第五版)には次のように書かれている。

(関西方言)(「心労」の転か)くたびれている。つらい。くるしい。浄、源平布引滝「ー・い時はこのぬるでや紅葉を見て、くたびれを休みたいの」

「浄」とは浄瑠璃の意味で、「源平布引滝」(げんぺいぬのびきのたき)はその作品名。

寛延二年(1749年)、人形浄瑠璃として初演された。
原作者は並木千柳、三好松洛。ふたりは三大狂言の作者でもある。
前年に「仮名手本忠臣蔵」が初演されており、人形浄瑠璃最盛期の作品。
それを歌舞伎化したのがこの作品。

http://www.koalanet.ne.jp/~jawa/kabuki/enmoku/nunobikinotaki.html

浄瑠璃は大阪を中心に発展してきたので、以前から大阪で「しんどい」が使われていたというのは間違いなさそう。

備考

歌舞伎や浄瑠璃は一度も見たことはないし言葉としてしか知らなかったが、かなり興味深い。江戸時代の娯楽、エンターテイメントは限られていて、歌舞伎や浄瑠璃がそれらを担っていたらしい。浄瑠璃は朗読、人形浄瑠璃は人形劇、歌舞伎は演劇。それぞれが競争、協力することで優れた作品がつぎつぎと生まれていったように見える(忠臣蔵もその一例)。現在なら、小説や漫画がアニメやドラマ、映画にリメイクされるのと同じ感覚だろうか。今の日本がコンテンツ産業で高い競争力を維持できているは、膨大な過去の積み重ねがあってのことように思う。