日本の電子書籍が高いのは本を買った人に配慮しているためなのか

先月、ソニーと松下が電子書籍から撤退したニュースが発表されたとき、ブクマ数300以上と多くの注目を集め、いろんなブクマコメントが書かれていた。
一方、先日、iPhone向けにリリースされた電子書籍の販売が好調という発表があった。

電子書籍専用端末と携帯電話で両者は端末自体の違いが大きいが、上記の撤退ニュースのブクマコメントを読むと、電子書籍に対する誤解が見えてくるように思えた。ブクマコメントの中でスターの多いもの、つまり賛同者の多いコメントをいくつか引用する。

こういうのがあるから、ますます電子書籍って安心できない。紙の本なら一生モノだけど、権利ばっかりガチガチ固めてるデジタルものは、携帯とかでも、下手すると機種変するだけで読めなくなる。怖くて買えない。

http://b.hatena.ne.jp/darkglobe/20080702#bookmark-9144723

デジタルデータにおいて専用形式かつDRMとか最悪だろ、という事例がひとつ積み重なった。

はてなブックマーク - ex_hmmtのブックマーク / 2008年7月2日

この手のマーケティング上の"ガラパゴス化"はちょいと昔にもあった、iTunesとその他大勢の音楽配信販売サイトと同じような希ガス。/とにかくコピーされまい、PC上で再生させまいとした結果価格は高く商品は少ない(?

はてなブックマーク - suzu_hiro_8823のブックマーク / 2008年7月2日

単純に性能で紙に負けている。解像度ひとつとっても2000dpiはほしい

これらのコメントはソニーや松下の電子書籍に対するものだが、電子書籍全般にもあてはまることだし、自分もそう思っていた。しかし、今回iPhone向けに発売された「薬局のポチ山さん」もDRMガチガチだし、文字はつぶれて見づらいし、価格も53ページで600円と普通のコミックスが200ページ弱で約500円なのと比べるとかなり高く感じる。

じゃあ、なぜ売れたのか。個人的には同人誌だからだという理由が大きいと思う。これまでの電子書籍は既に知名度と販売実績のある書籍をラインナップとして用意していたが、知名度や販売実績があるがゆえに紙の書籍と比較されてしまって購入意欲に結びつかなかったのではないか。そのコンテンツが欲しい人は既に本を持っているだろうし、本との比較で劣る点ばかりが注目されていたのではないかと思う。
対して同人誌は稀少品になる。普通の書店では販売していないし、Amazonでも扱っていない。検索したら定価1000円(1話)が1500円で販売されていた。3話だと4500円にもなる。AppStoreの600円という価格は一般コミックと比べると数倍高く見えるが、同人誌という世界で考えればとんでもなく格安になる。

B5サイズ

ただ、大きく縮小されているので単純比較はできない。上記はMacBook、B5サイズのコミック、iPhoneを重ねた写真だが、もともとB5サイズのコミックをそのままiPhoneサイズに縮小するのは無理があると思う。そういうのもひっくるめての600円という値付けなのだろう。

今回の事例で改めて実感したのは、ユーザは多少不満があってもたった一つ買う理由があれば不満には目をつぶって買ってくれるのではないかということ。仮に100個の不満を解消しても101個目の不満が出てくるだけで、買う理由がなければ買ってくれない。

なぜ同人誌をiPhoneで販売しようと思ったのかは開発元のブログを見ても書いていなかった。ただ、知り合いのイラストレーターさんがいた程度の理由しか書かれていない。

そこで懇意にしていただいているイラストレーターの安倍吉俊さんにホテルから電話をかけて、過去の同人作品を電子出版させて貰えないか、という話を持ちかけたのだ。

長文日記

ただ、「単純にこれは実験だからだ。」と言い切っているので、幸先の良い結果となったのだから次もあるだろう。その時にどんなコンテンツをどんな値段でリリースするのか非常に気になる。



ところで、ブログの中で一カ所、理解できない箇所があった。

そこで翻って考えるに、iPhoneで出ているからと言って、むやみに安くしてしまうと、それまでの同人誌を買った人はどうなるんだという問題がある。

とはいえ、印刷をしないうえ、売り子の手間もないものを同人誌と全く同じ値段で売るというのも、どうかと思う。

長文日記

「むやみに安くしてしまうと、それまでの同人誌を買った人はどうなるんだ」と言うが、発売日に定価で販売された商品がでも、売れ行きが悪ければ数ヶ月後には半額以下になることがあるのが、市場ルールではないのだろうか。そもそも、書籍とAppStoreのソフトではまったく質や価値が違う。印刷とか売り子の手間とかを考える以前に、どうしてユーザが得る価値で判断しようとしないんだろうか。

日本ではiTunes Music Store(iTMS)が日本でサービスを開始するまで、パソコンによる音楽配信が普及しなかったが、その大きな理由の一つはCDを基準に楽曲の価格が決められていたからだと思う。普通、値段が変わらないなら圧縮された楽曲をダウンロードするよりもCDを買った方が得だと考えるだろう。iTMSが150円/200円でサービスを開始すると他社も一斉に追随した。

日本大百科全書」という百科事典がある。1巻あたり約1万円で全26巻で約26万円弱になる。これの電子ブック版が1996年にソニーからリリースされたが、電子ブックリーダ込みで80000円だった。さらにWindows向けのソフトが1998年にリリースされたときCD-ROM4枚組で78000円だった。そして今は4万円でWindows向けのソフトが販売されている。なぜ電子ブックリーダ込みの価格とソフトだけの価格がほとんど同じなるのか分からないし、今は値段が半額になっているのかも分からない。

印刷代がかさむから本の値段が高くなるのは理解できるし、印刷部数が少なければその分単価が高くなるのも分かる。しかし、本の値段に合わせて電子書籍の値段を決めるという理屈は理解できない。それよりは配信コストや翻訳費用、ビューアソフトの開発費と言われた方が納得できる。