野球少年は球団オーナーからお墨付きを貰ったらどう思うのだろう

もしプロ野球にあこがれる野球少年にある日突然、球団オーナーから「キミの野球には愛を感じるから野球を続けてもいいよ」と手紙が届いたら、野球少年はどう思うだろうか。たぶん、最初は驚き、そして結局は嫌な思いをするのではないだろうか。

角川作品を流用したユーチューブ動画の中には100万回以上視聴されている作品もあり、優秀な作品にはお墨付きを与えていきたいと考えている。電子メールを送って、動画の横に角川の認定マークと広告を表示させてもらう許可を求め、またユーチューブ上に開設した「角川アニメチャンネル」(記事執筆時の会員数は2186人)への加入を勧める。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080818/168087/

この角川が新規ファンの開拓のためになると期待しているYouTube投稿動画の認定作業というのは、動画を投稿しているアニメファンにとってみればこの野球少年と同じように感じるのではないかと思う。
もちろん、アニメファンと野球少年では全然違う。でもファンの心理は同じだと思う。憧れの対象があって、それをしていると楽しくて仕方なく、少しでも目標に近づくための行動をとる。そういった熱烈なファンの中から次の憧れの対象となるプロが育っていく。ただ、一般的に野球の練習は推奨されるが、アニメや漫画はあまり評価されずに場合によっては著作権侵害だと訴えられたりする。どちらもファンの心理としては同じ事をしているのにも関わらず。

アニメや漫画という業界において、作者の価値は作品を創ることだし、ユーザの価値は金銭的に業界を支えコンテンツを楽しむ事だと思う。では権利者の価値は何だろうか。権利者はコンテンツをユーザに販売することで利益を得ているが、それは手段でしかなく、より本質的な意味では作者とユーザを結びつけることが権利者と呼ばれる人たちの価値なんだと思う。それが正しいとすればファンが作った二次創作について良い/悪いを判断して、お墨付きを与えたり削除したりするのは良いことは何もないのではないかと思う。もちろん、だからと言って一律削除は最悪だが。

作者や作品とユーザを結びつけるという意味で、これまで権利者がやってきたことは宣伝ぐらいしかなかったが、インターネットという便利な道具が使える今ならより効果的なことがいろいろできるんじゃないかと思う。

この前、ニコニコ動画MMD(MikuMikuDance)を使った動画の大会が行われた。「振り込めない詐欺」と言われるほど評価されているMMDをより楽しむためにファンが自ら企画した大会だったが好評だったと思う。

今、「権利者」に期待されている行動というのは、作者とユーザを結びつけてよりコンテンツを盛り上げるこういった企画なのではないかと思う。少なくとも作品のファン同士がより作品を楽しむために投稿した動画にあれこれ口を出したり削除したりすることは方向として間違っている。

そうは言っても角川がやっていることは業界の中の人としては先進的な方でこれ以上は難しいというのも分からなくはないが、いつまでも状況が変わらないようだと、作者やユーザから見捨てられる日が来るような気もする。

追記(2008/08/21)

はてブコメントを読むとなぜ野球に喩えるのか分からないというコメントが複数あったので、図にしたみた。野球も漫画も日本でメジャーな大衆娯楽という意味で共通していて、一部のスキルの高い人を大勢のファンが支える構成となっている。

野球業界

野球業界

アニメ/漫画業界

アニメ漫画業界

才能に恵まれた野球少年は誰彼憚る(はばかる)ことなく練習して甲子園に出場、そのままプロ野球界へという道が用意されている。甲子園に出場した時点で、地元ではヒーロー扱いだろう。

一方、絵の才能に恵まれたアニメ/漫画ファンが実際にプロになる場合、どういうプロセスになるのか分からないが、同人業界からプロになるとすると、出版社から著作権侵害として批判される立場から、業界を支える側に回ることになる。出版社は、将来の業界を背負う「金の卵」を犯罪者呼ばわりしているようにも見える。

野球でも漫画でも才能は貴重なもので、どちらも大切に育てていくべきものと思うのだが、野球の方は比較的大事にされているが、漫画の方は才能に恵まれたとしても肩身の狭い思いをしているように見える。しかも、その原因を作っているのが同じ業界人というのだから、救われない気がする。

この図や話は、あれこれ勝手に推測で書いたステレオタイプなので、もし、詳しい方がいたら指摘・訂正していただけるとありがたい。