園児の涙に比べれば些細なことだろうけど、あと1年農園を続ければ約2300万円の相続税が免除になるはずだったのに

門真市の北巣本保育園の畑を大阪府が行政代執行で強制収用したことについて、多くのブクマとコメントが集まっていたので、少し調べてみた。

産経新聞の記事

まず、あの産経新聞の涙ぐんだ子供が写っている写真。WEBの記事では次のように説明されている。

壊されていく畑を泣きながらにらむ園児たち=16日午前8時12分、大阪市門真市(桐山弘太撮影)

強調は引用者。以下も同様。
そして、紙の産経新聞夕刊には次のように書かれている。

野菜畑が行政代執行で立ち入り禁止となり、畑の野菜が刈り取られるのを見守る保護者ら=16日午前8時12分、大阪府門真市(桐山弘太撮影)

第二京阪道路の建設予定地ー北巣本保育園(門真市)の野菜畑 大阪府が行政代執行2008年10月16日付「産経新聞」夕刊より

別に新聞とWEBで表現を変えてはいけない理由はないだろうが、どういう意図と理由で上記のように変えたのかは知りたいと思う。WEB版の日付は10/16 11:32となっているが、WEBと夕刊のどちらの原稿が先に出来上がったかは分からない。(2008年10月16日 17:18時点の魚拓も表現は同じ)
また、朝日新聞の記事では「畑に立ち寄った園児が1人いたが」と書かれているが、それなら園児等という説明は不適切。以下のテレビニュースでは複数の子供が写っているが、この子供は園児ではないという事だろうか。

保育園の職員や保護者らは「子供たちが育てたお野菜です」などと記されたプラカードを掲げ

http://sankei.jp.msn.com/politics/local/081016/lcl0810161139000-n2.htm

産経新聞の写真に写っているプラカードには、読めるものだけで「感謝!!感謝!!すべてに感謝!」「お天道さまは見てござる」と書かれていて、お地蔵様のような絵が描かれている。これはいったい何だろうか。ここの保育園や保護者は何かの宗教団体関係者が多いのだろうか。「津門弘事」という字も読めたが何のことか分からなかった。そういえば、上記のテレビニュース中の「頼むからやめてちょうだい!」「子供が育てた作物やねん!」「どれだけ子供たちの思いが詰まっていると思うんですか」「子供たちの夢を奪わないでください!」「おたくら、子供いないんですか?」等々のコメントは激しい違和感を感じる。

子供たちの農園を守るために立ち上がった松本理事は、相続税を滞納中?

YouTubeにこの幼稚園の経営者 松本理事を特集したワイドショーの動画がアップされていた。


冒頭、ナレーションで次のように語られる。

(工事を差し止めできる可能性は低いと思います。[松本理事])
それでも松本さんが守るもの。それは子供たちの大切な農園でした。食の大切さ、自然の神秘を肌で感じて欲しい。松本さんは自分で経営する保育園のそばに手作り農園を開いたのです。

松本さんによるとこの高速道路建設自体に問題があるらしい。
動画の7:37付近。

1)渋滞緩和に役立たない高速道路建設
2)杜撰な環境対策
3)橋下府政を直撃する追加負担

そして、松本理事は高速道路の建設中止を求めて提訴している。
この番組を観る限りにおいては、貴重な子供たちの教育の場である農園を守るため、無駄な高速道路建設を阻止するために大阪府にたった一人で立ち向かう松本理事という姿が形作られている。


ただ、地主に襲いかかる悲劇として紹介される以下の説明で、自分としてはいろいろなゴタゴタの理由が納得できた。

6:00付近のナレーション。

立ち退きが迫られる松本さんに信じられない悲劇が襲いかかります。
いつの間にか土地の所有者が松本さんから西日本高速道路へ。
この変更が新たな問題を引き起こします。

松本理事のコメント。(強調は引用者)

名義が変わった時点で相続税と利子税を含めておよそ2300万円の税金を6月10日までに納めなさいというお達し。
なぜ特例を受けている納税猶予の権利まで奪われるのか。
怒り心頭です。

7:55付近。パネルから引用。

19年前に亡くなった父親から土地を相続
税務署から
20年間農業を営むと相続税が免除となる特例措置を受けた
 ↓
経営している保育園の農園として提供

土地を相続したなら相応の相続税を支払わなければならない。しかし、農地を相続し農業を継続する場合には相続税の支払いを猶予されるという特例措置があり、松本理事はその特例を受けていた。ただ、単に農業を継続しただけでは「猶予」にしかならず「免除」にはならない。「免除」の条件は申告後20年間の農業の継続。松本理事の場合、20年間まであと1年程度だったらしい。

野菜畑は約20年前から園児用の菜園として利用。第二京阪の建設のため、平成15年から用地買収の交渉が始まっていたが、保育園側は「大切な食育の場」と拒絶していた。

http://sankei.jp.msn.com/politics/local/081016/lcl0810161139000-n2.htm

この「約20年」というのがポイントで20年を超えていたなら、おそらくこんなに揉めることなく幼稚園の関係者も高速道路の公共性について理解を示してくれていたのではと、私は思うのだが今更そんなことを言っても始まらないか。

上記の相続税の猶予については国税庁のサイトに説明があった。

農地等を相続した相続人が農業を継続する場合には、農地等の価格のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税については、一定の要件のもとに、納税猶予期限までその納税が猶予されるとともに、納税猶予期限まで納税が猶予された相続税は原則として免除されるという制度です。
この納税猶予期限は、次のうちいずれか早い日です。

国税庁ホームページリニューアルのお知らせ|国税庁

感想

松本理事にとっては、たぶん相続税の話はどうでもいいことで、あくまで子供たちの農園を守るために大阪府と戦っているのでしょう。土地を相続して保育園の農園にしたことと相続税の特例措置とは直接関係なく、単に偶然だったのでしょう。(客観的にはとてもそうは見えませんが。)
「園児の涙」を新聞社が大阪知事を批判するための材料に使ったり、わざとらしい言葉やパフォーマンスで工事を妨害しようとする人たちがいたり、大阪知事の言葉尻を捉えて批判する人たちがいたりと、いろいろ思うところはありますが、やはり一番の被害者は園児なのだろうと思う。