不気味の谷を乗り越える方法

不気味の谷

ロボットやCGで作られた人物の外観を人間に近づけすぎると、余りにも人間にそっくりであるがために返って不気味に見えるという現象を「不気味の谷」と言います。

見た目は人間とそっくりなのに、それが突然ブリキのおもちゃのように動き出したら、普通の人は驚くと思います。悲鳴を上げるかも知れません。それはもうホラーの世界でしょう。不気味の谷の対象は「人間」に限られているのですが、別に人間に限った話ではないようにも思います。例えば、寿司屋でいかにも美味しそうな寿司を食べようとしたとします。そして、箸で掴んだ瞬間に精巧なニセモノだと気づいた時、どう感じるでしょう。騙されたことに対する怒りの前に何とも言えない「嫌な感じ」を持つのではないでしょうか。また、例えば、何も考えずにドアノブを掴む場合も、無意識のうちにヒヤリとした感触を予想していますが、それが生暖かい人の握り拳のような感触だったらどうでしょう。自分だったら「ヒィッ」とか悲鳴を上げそうです。
仮定でしかないのですが、人は世界のイメージを自分の頭の中に持っていて、常に実際の世界と頭の中のイメージを整合させているように思います。もちろん、実際の世界と頭の中のイメージはイコールではありませんが、どういう反応が返ってくるかをある程度、予測することは可能です。もしこの仮定が正しいとすると、見た目は人間でありながら実は違うということによる嫌悪感の正体は、頭の中のイメージと現実の極端な不一致による不快感・不安感ということになります。

不気味の谷に近づくゲーム表現

以下の記事では今のゲーム用にモデリングされたキャラクタを気持ち悪いと言い、いつかは技術の進歩で不気味の谷を乗り越えられるだろうと言っています。

また、以下の記事では実写と区別が付かないようなCGで合成された人物の動画を掲載しています。

しかし、仮に見た目上実写と区別がつかない位までCG技術が向上したとして、違和感や不快感、嫌悪感をなくすことができるでしょうか。登場人物の役割が予め決まっているような映画であれば可能かもしれませんが、ゲームの場合はプレイヤーの一挙手一投足に反応しなくてはなりません。従来のキーパッドようなコントローラーで実写の登場人物を操作することも難しそうですし、NATALのような直感的な操作はデバイス側にとっては更に困難のように思えます。

このNATALの紹介動画の28秒目付近でアバターが不可解な動きをしています。これが意図したものかどうかは分かりませんが、写真と区別が付かないようなアバターで同じ様なことが起こったらどう感じるかを想像してみてください。また、著名人と瓜二つのアバターを作ることができ、自由に操作することができるようになったとします。その時、誰もが社会的、道義的、その著名人にとっての許容範囲内の行為をするとは限りません。今でも同人の二次創作の中で有名なキャラクターを制作者側の意図しない使い方をして、問題になることがありますが、キャラクターではなく実写レベルで人物を自由に操作できるようになった場合、全く別次元の問題になるような気がします。もし、あなたがPerfumeや嵐のメンバー、オバマ大統領の実写動画(本物と区別ができないような)を自由に作れるとしたら、何を作りますか?
実写のようにリアルなゲームを追及した場合に、まずは不気味の谷の問題が見えています。やがて技術の進歩でそれを乗り越えたとしても、実写と区別が付かないということが理由で社会問題化するように思います。そして、そもそもの疑問としてあるのは、ゲームにとってリアルな人物描写は必要なのかということです。

不気味の谷を乗り越える方法

次の画像はWiiSports Resortの一場面です。

Wiiスポーツ リゾート (「Wiiモーションプラス (シロ) 」1個同梱)

Wiiスポーツ リゾート (「Wiiモーションプラス (シロ) 」1個同梱)

手前のピンポンのラケットを持っているキャラクターがプレイヤーですが、腕がありません。画面奥の対戦相手も腕がありません。観客キャラクターに至っては腕も足もありません。このキャラクター達に対して、髪の毛が風にそよがないのは不自然だ、とか服のしわがないや目が死んでいると批判する人はいないでしょう。しかし、いざ、ゲームを始めて見ると高い臨場感を感じることができます。まさに自分がピンポンをやっているかのように体が反応します。


もう一つの例は最近話題のラブプラスです。

ラブプラス

ラブプラス

このゲームはDSなのでPS3Xbox360と比べると画質は圧倒的に劣りますし、当然、写真とは比べものになりません。しかし、そのリアリティは圧倒的です。

163 名前: 名無しさん必死だな Mail: sage 投稿日: 2009/09/04(金) 07:48:56 ID: wSQUstyM0
HD機のグラやサウンドより
遥かに五感を刺激されるぜ


243 名前:名無しさん必死だな mailto:sage [2009/09/04(金) 14:27:58 id:BymL6HYni]
>>240
DSでのすぐ近くという距離感も結構重要だと思うんだよね
後、DSの粗い3Dだから脳内補完で可愛く見えてるけど、リアルになると「何か違う」となりそうだわ
例えWii程度でもね

ま、Wiiで怪しい周辺機器出たり、大画面で等身大とかは惹かれるかもなー

2ちゃんねる−ラブプラスの本名プレイがヤバすぎる件


このエントリの最初に不気味の谷の原因として、頭の中のイメージが現実と不一致することが理由ではないかいう仮説を書きました。実写のようなキャラクタよりもWiiやDSのマンガ絵のキャラクタが好まれる理由をこの仮説に基づいて考えてみます。実写のようなキャラクタは脳に対して「このキャラクタは本物ですよ」というメッセージを送りますが、本物とは違う点が色々あることから脳はそのメッセージがウソだと認識して拒否します。マンガ絵のキャラクタは脳に対して「このキャラクタは本物ではありませんが人間だと思ってみませんか。そうすると面白いですよ。」というメッセージを送ります。脳は単なる絵にすぎないことがすぐに確認できるのでまず安心します。そして、仮に人間だと思ってみたときにどうなるかを考え、その方が面白いと判断した場合は積極的にキャラクタの人間化に協力してくれます。つまり、前者は脳を欺こうとし、後者は脳を味方にする訳です。北風と太陽の逸話に似ているかも知れません。
脳を味方にすると、細かい違いは全部「脳内補完」してくれるようになります。脳内補完の例としては、以下の「例文」が分かりやすいと思います。

こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です。


この ぶんょしう は いりぎす の ケブンッリジ だがいく の けゅきんう の けっか


にんんげ は もじ を にしんき する とき その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれば



じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう に もづいとて



わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす。


どでうす? ちんゃと よゃちめう でしょ?


ちんゃと よためら はのんう よしろく

最初にこの文を見た時、一部の単語がおかしいけど確かに読める、と思ったのですが、注意して読み直してみると、最初に読んだ時には気づかなかった入れ替えがけっこうあることに気がつきました。単語の一部を入れ替えているだけだから読めるのは分かるのですが、無意識に読んでしまっているのには「脳内補完」の凄さを感じました。マンガ絵はこのプレイヤーにおかしな点を意識させないというメリットが大きいのだと思います。
もちろん、脳を味方にすれば無意識だけでなく、意図的で積極的な補完もしてくれます。

732 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 2009/09/03(木) 16:52:50 id:Lue8BOZh
DSに香水かけたいが、そんなもん家にないし
買いに行くのも恥ずかしい人へ

8×4のフローラルティアラ
そこら辺のスーパーに売ってるし、
食料品とかと一緒に買えば怪しまれる可能性も低い

女子高生の着替えのあとの教室のような匂いが楽しめて、マジお勧め!
DSに直接つけるんじゃなくて、ティッシュか何かにつけるんだぞ。

2ちゃんねる−【KONAMI】ラブプラス 16日目【DS】

それにしても、電車などで男の人から「女子高生の着替えのあとの教室のような匂い」が漂ってきたら怖いですね。。。

まとめ

実写のようなリアルなCGもマンガ絵も、どちらもプレイヤーに本物と思って貰いたいという目的は同じです。そして、どちらも本物ではないという点では共通しています。リアルなCGは限りなく本物に近いニセモノと見えるために拒絶され、マンガ絵は本物以上の理想型として認識されるため支持を得ることができるわけです。
つまり、不気味の谷を乗り越える方法とは、脳を欺くのではなく、脳を味方にすることです。