「国民の税金を役人に握られてていいのか」,1国民が語る技術立国日本の将来への不安と希望


「技術の根幹を米国に握られていていいのか」,経産省の担当官が語る検索エンジンへの思い


この記事を読んでいろいろと思うところがありましたので、整理の意味も込めて書いてみました。
私なりに書かれている内容を理解した限りでは、文字通り社会生活に直接関わる様な重要な技術が米国企業に独占されていることに危機感を感じ、目標100億円程度の予算の「国産検索エンジン」プロジェクトを春頃までに立ち上げるという内容でした。

まず、思ったのは、今からプロジェクトを立ち上げるのでは遅すぎるのではないかということ。

FIFTH EDITION ー マッシュアップ戦略でヤバイのはどっちだ?

グーグルが新サービスを矢継ぎ早に繰り出し、
ヤフーが買収に積極的に打って出ているのは、
彼らが、危機的状況にあることの一つの証明ではないかと
思っている。

FIFTH EDITIONさんは経産省さんが目標としているGoogleが危機的状況にあると言われています。
私は単純な検索サービスの競争は終わっているのではないかと思っています。
仮に今、「国産検索サービスができたので使ってみてください。」と言われても、Googleと同等レベルの機能なら使わないでしょう。同じなら実績のあるGoogleの方が良いですから。
でも、想像もつきませんがGoogle以上の機能/サービスが提供できるなら、そっちに乗り換えることもあるでしょう。


果たしてGoogle以上の検索サービスを開発できるのでしょうか。
ちなみにhttp://finance.yahoo.com/q?s=GOOG:TITLE=Googleの時価総額は2月12日21時時点(日本時間)で107.17ビリオン、つまり1071.7憶ドル。1ドル=117円換算だと12兆5000憶円になります。
一方、国産検索プロジェクトの予算は多くても100憶円です。
資金があれば良いものが作れるわけではありませんが、多少心許ない気がします。


また、資金よりも重要なのは人材です。
なんでも、Googleのコンピュータシステム目当てに世界中から優秀な研究者が訪れているそうです。

「情報の爆発は止まらない」--“20%ルール”で進化するグーグル - CNET Japan

続いてマグラス氏は、Googleではどんな人達が働いているのかを紹介した。「社員は皆、才能とやる気に溢れた人達で、3から5人の小さなチームで、問題となっている事柄にあたっている。Googleが持つ巨大なコンピュータパワーを自由に利用できる」という。「仕事に就いて1週間目の社員でも数千台のコンピュータを使えることがある」(同氏)
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だが、さらに重要なのは、すべてのエンジニアが20%の時間を自分が重要だと思うプロジェクトに費やせるという「20%ルール」だ。「研究者だけに与えられた特権ではなく、すべてのエンジニアに期待されていること」だとマグラス氏は言う。

日本にも優秀なエンジニアの方は大勢いると思っていますが、そういう方がどういう職場を望むか、また、どういう環境が開発環境として適しているかをGoogleは理解し、実践しているように思います。


ところで、Googleの企業理念は次のような内容だそうです。
Google の使命は、Google 独自の検索エンジンにより、世界中の情報を体系化し、アクセス可能で有益なものにすることです。


「世界中の情報」とは何でしょう?
特にWEBとは書いてありませんので本やCDやDVDなどのパーケージメディアを含むあらゆる情報だと、私は思っています。
次の検索の競争は、現在は検索の対象外となっているパッケージメディアになるのではないでしょうか。

グーグル vs オープンソースプロジェクト--デジタル書籍分野の新たな戦い

 人々がインターネット上でアナログ情報を利用できるようにしようと試みる中、書籍のデジタル化はここ数年の注目事業となっている。学術研究やクラシック音楽およびポップミュージック、ビデオまでもがデジタル化された今日、次の対象は書籍というわけだ。


すでに検索技術の競争だけではなく、検索対象データの囲い込みが始まっています。
また、この先、情報のアクセス性の競争に発展していくように思います。


今はまだネット上のデータはテキストデータが主流でしょうが、やがて音声/画像/動画などがテキストを圧倒するでしょう。
そのとき課題になるのは、ネットを流れるデータのトラフィック管理です。
ソース側のサーバ台数を増やしても自ずと限界があり、データ量/アクセス数の増大により耐えられない上限があります。
日本には、この課題を解決する技術でたぶん、世界でトップクラスにいましたが、開発者は逮捕されてしまいました。

圏外からのひとことーWinny開発者逮捕についてのコメント

(技術的評価について)善悪とは関係なく、純粋に技術的にWinnyを評価するなら、一番注目すべきことは、その適応力です。

たくさんの素人によるP2Pネットワークを稼働させるということには、非常に多くの不確定性があります。誰がいつどこに何をどのように通信するのか、そのほとんどが予測できません。

そして、原則的に開発者は運用中のシステムに介入して、監視したりコマンドを打って調整することはできません。プログラムが全てを自動的に実効しなくてはなりません。

このようなシステムの難易度は、特定の側面に限って言えば、火星探査機に匹敵すると思います。

Winnyの基本的な設計はFreenetという既存のシステムを改良して使いやすくしただけのものですが、技術的には大変高い評価を与えられるべきものだと思います。

私も上記の意見に賛成で、「P2P著作権侵害」というレッテルを貼るのではなく、優れた技術は育てていくべきだと思います。(別にWinnyを放置しろとは言っていません。)


ところで、最初の記事の中で経産省さんは、次のように言われています。

 その検索エンジンGoogle社とYahoo!社,Microsoft社という米国企業がガッチリ押さえてしまっている。この状況で本当に良いのだろうか,というのが今回研究会を立ち上げたキッカケです。

この経産省さんが敵対視している米国の3社に何か共通点はありませんか?
そう3社ともベンチャー企業なんです。
もっとも古いマイクロソフトでも1975年の設立です。
検索技術で追いつくことも大事なことと思いますが、なぜIT技術アメリカに独占されてしまったかを考えることも大事ではないでしょうか。
今、有名なIT企業と言えば、Google社とYahoo!社,Microsoft社, Amazon社などがありますが、どれもアメリカのベンチャー企業です。(他にもたくさんあるんでしょうが。)
日本のIT企業で普通思いつくのは、楽天ライブドアぐらいですが、ライブドアの社長はよく分からない容疑で逮捕されてしまいました。
世間では「虚業」と言われているライブドアですが、IT技術では先進的だったようです。
「ライブドア次世代テクノロジーセミナー第1弾」
Winnyの作者も、よく分からない容疑で逮捕されてしまいました。
(殺人の凶器となる包丁を作っても逮捕されないのに、著作権違反の道具であるプログラムを作ると逮捕される?)
どうも日本では「出る杭は打たれる」じゃないですが、新しいことをやろうとすると、逮捕されてしまうように感じがします。
もちろん、法律に違反したなら逮捕されて当然なのですが、よく分からない"グレーな容疑"なのは納得できません。
たぶん、新しい技術や方式、考え方というのは、何らかの形で既成勢力との争いになってしまうのだと思います。Googleも図書館の蔵書のデジタル化で複数の訴訟を起こされています。そして日本だとほとんどのベンチャーは生き残れず、アメリカでは生き残り成長できます。日本のベンチャーがひ弱なのか、日本の社会が悪いのか、その両方なのか。
なお、こんな話もあります
「fromdusktildawnの遊び場 - ホリエモン以上に詐欺的なベンチャーの内情。」


ただ、経産省さんも日本のIT技術発展のためにいろいろな取り組みをされてきました。


1.シグマ計画
 「シグマはどこへ消えた?」
 「シグマ計画」
 「From Kangaroo Court:Camino A Los Vulgo」
 「1990年には60万人のソフトウェア開発技術者が不足する」との危機感のもと、通産省さんが立ち上げた5年間の期間、250億円の資金をつぎ込んだ国家プロジェクトです。結果は残念ながら失敗。
日経コンピュータの1990年の2月12日号に、「Σ計画の総決算--250億円と5年をかけた国家プロジェクトの失敗」 という記事があるそうです。
「コンピュータはこれ以上進歩しない」という前提に経っていたため、5年経ってみるとすっかり時代遅れのコンピュータになっていたそうです。(市販のPCの100分の1のスピード?!)
誰にでも失敗はあります。個人でも組織でも。大事なのはその失敗から何を学ぶかです。

2.第五世代コンピュータ
 「第五世代コンピュータ プロジェクト アーカイブス」
資料をいろいろ見てもよく分からなかったのですが、どうもIBMの技術を真似してばかりいてアメリカから怒られるので、打倒IBMを目ざし「第五世代コンピュータ(人工知能)」「1000台のCPUの並列ハードウェア」をキーワードに文字通りゼロから始め、12年間続けたプロジェクトのようです。
ただ、肝心の成果が見つかりません。
成果らしきこととして書かれているのは、フランス研究所の副所長から褒められたとか、「コンピュータの基礎研究に貢献した」とかあいまいな表現ばかりです。
なお、WMV形式とRealPlayer形式で第五世代コンピュータの成果(遺伝情報の分析や囲碁など)を公開しているので興味のある方は見てみると良いと思います。

3.まとめ
つぎのWEBに経産省さんの認識について書かれているのを見つけました。
「ハッカー支援事業を国が始めるというので野次馬をしてきた、しかし」

このプロジェクトは、非常に優秀なプログラマを育てる、優秀なプログラマを支援するのが目的であり、もう企業を応援したくない。通産は、この分野で、既に2000億円も無駄にした。とくに、Σプロジェクト、第5世代の大失敗があり、こういうことは繰り返したくない。今まで、IPAはずっと企業を応援してきた。あるいは企業に金をばらまくのをやってきた。もうやめたいのである。企業へ金を出しても、何も生まれなかった。


‥‥‥という次の枕言葉があった。通産が、自ら、Σプロジェクト、第5世代を失敗と言う時代になったのである。というか、そう言うことが宣伝のようにも聞こえた。でも、まあ、これは非常に有意義なことである。失敗を失敗と認めるというのは、幼稚園、保育園レベルで習得すべき事柄であろうが、そういうレベルに達したと思われる。

これを読んでいただければ、一目瞭然なのですが、「企業に金をばらまくのをもうやめたい。」と書いてあります。そうです。2000億円の授業料を払って、過去から学ぶことができたのです。この授業料を高いと考えるか安いと考えるかは人それぞれでしょう。


ところが、冒頭の記事には次のように書かれています。

――研究会はどのような人材が集まっているのでしょうか。

八尋氏 研究会には2つの分科会があります。各企業で研究や開発などの事業戦略に関する決定権を持っている人材が集まる分科会と,実際に現場で研究や開発に携わる技術者が集まる分科会です。

 各企業で事業戦略についてある程度の決定権を持っている人材にも入ってもらったのは理由があります。現場の技術者だけを集めても,研究会で決まった案件を実際に各企業に帰った際に上層部からストップがかかる恐れがあるためです。事業の決定権を持つ人材と現場の技術者が一体となって議論すれば,この研究会で決まることに対して各企業が遅滞なく取り組めるはずです。

「各企業が遅滞なく取り組める」ということは、また企業にお金をばらまくと言っているのでしょうか?
過去の失敗からは何も学んでいないのでしょうか?


と、まあ、こんなところが冒頭の記事を読んで不安に思ったことです。
まとめると、「また、税金を使って無駄なものを作るのかな。他にもっとやるべきことがあるだろう。」という感じでしょうか。



なお、経産省さんのしていること全てを否定しているわけでもなく、良いと思っていることがあります。
たとえば、下記の記事の主題である「未踏ソフトウェア創造事業」です。

「ハッカー支援事業を国が始めるというので野次馬をしてきた、しかし」

このプロジェクトは企業ではなく優秀な個人を支援するというもので、有名なところではソフトイーサ登 大遊氏を支援しています。


経産省さんには、「打倒Google!」や「国産検索サービス」のような大きな国家プロジェクトではなく、地味だけれど、大切な業務に注力していただきたいと思います。
大企業にお金をばらまくのではなく「額に汗して働く」個人や中小企業、ベンチャーを支援する方が今の時流にも合っていそうですし。