「テルーの唄」と「こころ」を比べてみる
・ゲド戦記:挿入歌の歌詞が朔太郎の詩と酷似−今日の話題:MSN毎日インタラクティブ
映画自体の評判はイマイチですが、「テルーの唄」だけは好評のようです。それが、この記事で「盗作」疑惑まで登場と、ジブリも大変だなと思ったのですが、記事を読んでもどの程度「酷似」しているのかが、いまいちよく分かりません。それで、実際の詩を比べてみました。
・歌詞:テルーの唄/歌手:手嶌葵(うたまっぷ歌詞無料検索)
作詞 宮崎吾朗
歌詞を引用すると某Jasracからクレームが付きそう(引用は問題ないと思うのですが)なので避けました。作詞は宮崎吾朗さんの名前だけが書かれていて、萩原朔太郎さんの名前はどこにも出てきません。
そして、萩原朔太郎さんの「こころ」は以下です。
こころ
こころをばなににたとへん
こころはあぢさゐの花
ももいろに咲く日はあれど
うすむらさきの思ひ出ばかりはせんなくて。こころはまた夕闇の園生のふきあげ
音なき音のあゆむひびきに
こころはひとつによりて悲しめども
かなしめどもあるかひなしや
ああこのこころをばなににたとへん。こころは二人の旅びと
されど道づれのたえて物言ふことなければ
わがこころはいつもかくさびしきなり。
(強調は引用者)
冒頭の記事で類似していると指摘されている部分を強調表示にしましたが、その比較が以下です。
両者の類似部分を荒川さんは列挙する(こころ、テルーの唄の順)。「こころをばなににたとへん」/「心を何にたとえよう」▽「音なき音のあゆむひびきに」/「音も途絶えた風の中」▽「たえて物言ふことなければ」/「絶えて物言うこともなく」−−など。
確かに酷似と言えるほど、両方の詩は似ています。特に詩と歌詞のそれぞれでキーワードとなっている「こころをばなににたとへん」/「心を何にたとえよう」は単に現代語に訳しただけです。それに詩の情景もそっくりな気がします。これで、「作詞 宮崎吾朗」として自らが創作したと主張するのは確かに問題のように思います。
ただ、記事では、
荒川さんは、宮崎さんがインタビューで朔太郎の詩を参考にしたことを明らかにしていることや、「ゲド戦記」の公式サイトでも「こころ」を「参考資料」として掲げていることを認めた上で、「問題がある」と批判。
と書かれていて公式サイトで「こころ」を参考にしたことを認めているらしい。
・ゲド戦記−公式サイト
→ Menu → 挿入歌「テルーの唄」
萩原朔太郎の詩「こころ」に着想を得た吾朗監督が作詞し
確かに公式サイトでは親切に「テルーの唄」と「こころ」<参考資料>を並べて表示して、「こころ」から着想を得たとちゃんと書いてあります。しかし、これは着想を得たというレベルではなく、「こころ」を参考にして詩を作ったと言った方が実態と合っている気がします。公式サイトの<参考資料>という言葉の意味は"参考掲載"の意味ですが、作詞の場合の意味は文字通り"参考資料"だったのではないでしょうか。
(それにしても公式サイトの作りがうっとうしい。良く言えば「凝った作り」なのかも知れないが、もう一度アクセスする時はうんざりする。リンクやはてブはトップページだけになるので、管理者側からすれば都合がよいのだろうが。)
結局、両方の詩と歌詞を比べてみて思ったのは、冒頭の記事(特にタイトル)を読んで想像したほど、似ていなかったということと、ジブリ側が「こころ」に着想を得たと公表しているのでニュースにするほどの問題ではなかったのでは、ということ。
そういう意味で、冒頭記事の「日本文芸家協会副理事長、三田誠広さんの話」にほぼ同意。
これを「盗作」と言うのは言い過ぎだし、『原詩・萩原朔太郎 編詞・宮崎吾朗』とするほど似てもいない気がする。ただ、作詞の欄に「萩原朔太郎」の名前が無いのはモラル的に問題だと思う。
著作権問題に詳しい日本文芸家協会副理事長、三田誠広さんの話 表現を微妙に変えていて、「こころ」の盗作とは言い難い。しかし、朔太郎の詩がなければこの歌詞が書けないことは明らか。モラルの問題として、朔太郎への感謝の言葉を入れるべきだ。ネットなどには出ているというが、シングルCDの購入者には分からない。先行する芸術への尊敬の気持ちが欠けている。
なお、「こころ」が掲載されている詩集「純情小曲集」の冒頭には、
北原白秋氏に捧ぐ
と師である北原白秋氏の名が書かれている。
参考
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追記(2006.10.26)
スタジオジブリさんの公式コメントが出ていたので、エントリーを書いてみました。
・うつせみ日記 - 「テルーの唄」−盗作とかモラルの話以前にクリエイターとしてのプライドの問題では?