「冠詞の使用不使用は文脈が全て」by マーク・ピーターセン

ただしこれにもこれまた例外がありまして、「固有フレーズ」の場合はtheを取り除けない。the United States のように。これ、実は"of America"とは限らなくて、メキシコも英語の正式名称は"the United States of Mexico"です。

404 Blog Not Found:プログラマーでなくてもわかるaとtheの違い

中学で英語の勉強を始めた時から、この「例外」「固定フレーズ」のような説明に何度苦しんできたことだろうか。別に上記のエントリだけに限らず、一般的な文法書でも次のように解説している。

定冠詞は次のような名詞につける・・・特定の国名:the United States of America, the Netherlandsなど

日本人の英語 P.6

上記のような説明を受けたとき、英語の学習とはまず「一般的なルール」を憶え、その後におそらく膨大で一般ルールの当てはまらない「例外」「固定フレーズ」を一つ一つ憶えていくものことだと思い、すっかり、うんざりしてしまった。暗記が苦手なのもあったが、理屈がないというのが、とても受け入れにくかった。数学や物理の問題でもやはり「解き方」を憶える必要があるが、そこには必ず「論理」があった。理屈では「公式」すら「計算」で求めることができる。

「日本人の英語」(以下、本書という)では冠詞の有無について次のように説明している。

このようなことは、どんな文章のどの名詞の場合であっても、これらと同じように説明できるはずで、英文を読むとき、勉強のつもりで、その説明を一つひとつ探しながら読めば、自然に英語の冠詞に対する感覚が身についていくと思う。

日本人の英語 P.28

この「どんな文章のどの名詞の場合であっても、これらと同じように説明できる」という言葉にどれだけ勇気づけられたか分からない。つまりは冠詞のルールに例外はないのだ。例外に見えるのは、ルールをちゃんと理解していないか、ルールの説明を省いているのだろう。


例えば、冒頭の国名に冠詞をつける/つけないについて。the United Statesにtheがついている理由はStatesが普通名詞だからというのが正しい理由。仮にtheなしのUnited Statesとすると意味的には「連合国」と一般化されてしまう。theがあるのことで「あの連合国」、すなわち「アメリカ合衆国」という意味になる。正式名称であるthe United States of Americaを直訳すると「アメリカ(大陸)にある、あの連合国」という意味になる(ハズ)。
ここで、なぜthe United American Statesと言わずにthe United States of Americaと言うのか疑問が沸く。これにも明確な理由がある。本書では例として「明治大学」を使って説明している。

おそらく、"Unversity of Meiji"を思いついた人はthe University of Californiaなどの典型的な例にならって作ったのではないかと思うが、実は、MeijiとCaliforniaはものの種類があまりに違うので、同じように使うのは無理である。Californiaは州として、また、この地球上の土地の具体的な一部として実在する「物」である。Meijiというのは、具体的に実在する「物」ではなく、物に形容的に付けられる単なる「名」にすぎない。

日本人の英語 P.83

つまり、英語の論理/感覚からすると、アメリカ(大陸)という具体的な地名の意味を持つAmericaはof Americaと表記されるのが自然ということになる。そう考えると、アメリカ大陸にあるもう一つのUnited Statesであるメキシコの正式名称がthe United States of Mexicoというのはおかしい気がしてくる。外務省のサイトによると正式名称はUnited Mexican States。ただ、一般的には単にMexicoと呼ばれることが多いらしい。
そんな細かいことはどうでもいいと言う人がいるかもしれないが、こういうことの積み重ねが外国語を覚えること、外国語の感覚を身につけることなんだと思っている。冠詞についても、英語では単に数に細かいという以上の意味がある。本書では次のように冠詞について説明している。

1.冠詞と数。a、the、複数、単数などの意識の問題。ここに英語の論理の心があり、観念の上では、この二つ(冠詞と数)を別々に考慮することは不可能に近い。

日本人の英語 P.8

この「英語の論理の心」が何なのかを具体的に知るには、実際にたくさんの英文を読んで理解していくしかないと思うが、いくつか例をあげることはできる。
一つは冠詞とは名詞につけるものではなく名詞と不可分のものであるということ。名詞とは「対象に対する名前」だが、英語ではまず冠詞(有無含めて)で概念を特定してから具体的な名詞で補足する。例えば、ガラスのコップであればa glassになるし、材質の意味の硝子であればglassになる。つまり、つけるつけないの話で言えば、「冠詞に名詞をつける」方がより正しいことになる。
また、a friend of my motherは、単に「母の友人」ということだけを意味しない。英語で別の言い方をするとone of my mother's friendsになり、母親の複数の友人のうちの一人という意味を含んでいる。母親に友人がひとりしかいなければthe friend of my motherとなる。
もう一つ例をあげる。英語で最初の説明でher catと書かれていれば、それは彼女はネコを一匹だけ飼っているという意味になる。もし複数のネコを彼女が飼っていてその中の一匹について書いているのであれば、one of her catsと書かれるはずだ。一度、そう書けば以後はher catまたはthe catと書かれる。


冒頭のエントリの中にも「習うより慣れろ」と書いてあるが、確かにそうだと思う。しかし、間違って憶えては仕方がない。本書の「英文を読むとき、勉強のつもりで、その説明を一つひとつ探しながら読めば、自然に英語の冠詞に対する感覚が身についていくと思う。」の通りだと思う。


日本人の英語 (岩波新書)

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続・日本人の英語 (岩波新書)

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