携帯電話を巡るプラットフォーム競争

IT業界では昔からプラットフォーム競争がありました。有名なものでは、WindowsMacのOS競争やIENetscapeのブラウザ競争、SDカード対メモリースティックのメモリカード競争などです。それぞれの競争の結果は明確にどちらが勝った負けたとは言えないもので、一見勝ったように見えたとしてもその企業の将来が保証される訳でもありませんでした。例えば、パソコンOSの主流はWindowsで今後も変わらないでしょうが、パソコン市場の将来性は明るくなく、新OSの売れ行きも芳しくなく、将来有望なスマホ市場でWindowsは苦戦しています。
特に新しい機能追加がなくなり、低価格化と小型化が進むパソコンを巡る競争はほぼ勝負がついたと考えて良いでしょうが、携帯電話の世界は今でも激しい競争が続いており、目が離せない状況です。


ガラケー時代の携帯電話は今と比べるととてもシンプルでした。各通信キャリアが通信インフラや販売店を準備し、機器メーカーが端末を提供し、ユーザーはそれらのシステムを使って通話なりメールを利用していました。通話料金は使った分を通信キャリアに支払い、メールアドレスも通信キャリアから提供されます。また、携帯電話経由で壁紙や着信音をダウンロードするために月額数百円程度の情報量を支払うことが広く行われていました。これらのサービス全体を通信キャリアが見ており、また携帯電話に関連して支払われるお金全体から通信キャリアは収益をあげていました。この時代、各キャリア間の競争によって、今では当たり前になっている絵文字文化や写メールが登場しました。


ところが、スマホ時代になり、パケット定額スマホの普及によって状況が一変しました。通信とサービスが分離され、通信キャリアが新しい付加価値を提供することができなくなってしまいました。ソーシャルゲームを提供しているDeNAGREEも営業利益が約1,000億円、営業利益率40〜50%と信じられないビジネスを展開していますが、スマホアプリとして提供される限り通信キャリアにほとんどお金は入って来ません(iPhoneのアプリ収入の手数料は全額アップルに入るが、Google PlayではGoogleと通信キャリアに分け合うとWikipediaに書かれている)。
また、通話やメールもLINEなどの無料通話アプリが人気となってます。「無料」と言っていますが、実際には通信キャリアのインフラを使い、定額料金からパケット代が支払われている訳ですが、利用者には意識されません。
つまり、ソーシャルゲームや通話、メールなどのコミュニケーション系のアプリが普及すると、利用者から通信キャリアが隠蔽されて見えなくなります。そうなると、通信キャリアとしては、人気の端末を揃え、提供エリアを広げ、価格を下げることしかできません。しかし、価格を下げるために、通信インフラの整備の手を抜くこともできません。通信トラブルが起これば大きな問題になってしまいます。つまり、このままでは、新サービスによる売上増加が期待できず、コストのかかる責任ばかりが増えてしまい、ジリ貧になってしまいます。要するに通信キャリアの土管化です。
ソフトバンクがアメリカの通信キャリアを買収するのは土管化が進行しても数の論理で乗り切ろうという考えなのかも知れません。
docomoがTizenという新OSを検討しているという報道がありましたが、個人的な推測ではdocomoは新OSでAndoroid/iPhoneに続く第3のプラットフォームを狙っている気がします。ただ、スマホのスペックは機能はここ最近は大きな変更はなく、各端末間にも大きな差は無いので、スマホのOS競争もほぼ決着がついたのではないかと思われます。今からこれまでの端末と互換性のない新OS、新端末を販売してもAndroid/iPhoneと同等のシェアが取れるとは考えにくいです。
これから先は益々、通信キャリア間の差は無くなっていくでしょうから、Windows/Mac間の競争と同様に通信キャリア間の競争も終わったと考えられます。


現在のスマホ上のプラットフォーム競争は、コミュニケーションアプリ(ソーシャルアプリ)間の競争だと思っています。たとえば、DeNA(モバゲー)、GREENAVER Japan、CyberAgent、カカオなどです。企業によってはゲームアプリだけ、無料通話アプリだけを提供している状況ですが、今なくてもこれから提供される可能性は十分あります。しかし、ゲームも通話アプリも提供していないところは厳しそうです。たとえば、MixiiPhone向けにゲームアプリが一つあるのですが、何をしたいのかさっぱり分かりません。サポート言語も日本語だけというのも信じがたいことです。
ガラケー時代は通信キャリア間の競争だったため、サービスの提供地域は日本国内限定でした。しかし、アプリ販売は国内に限定する理由はありません。言い換えれば、世界規模の競争が前提なのですから、多言語サポートありきでアプリを提供しなければ競争に勝つことはできません。
現時点ではどの企業が首位になるのかまったく分かりませんが、日本企業が世界規模のサービスを提供するかも知れない状況は面白いと思います。