NHKスペシャル:「”好きなものだけ食べたい”〜小さな食卓の大きな変化〜」は何を言いたいのか

今、子どもの間に、「好きなモノだけ食べたい」症候群が広がっている。
「写真記録調査」手法で、子どもを持つ首都圏の家庭を対象に行った6000食の調査では、家族が食卓を囲んでいても子どもは全く別々のモノを食べる「バラバラ食」、子どもが好きな時間に食事をとる「だらだら食」、子どもが好きなモノだけよりどりみどり食べる「単品羅列型食」など、「好きなモノだけ食べる」傾向が顕著になっている。一方で、子どもの運動能力が低下したり、糖尿病・高脂血症など子どもの生活習慣病が増加しているという報告もある。

千葉県の小学校で行われた1週間にわたる写真による食事調査。ある病院が始めた子どもの生活習慣病を防ぐための食と生活を改善するための特別な入院プログラムなどを取材しながら、子どもたちの食と身体の現実、そして食卓を巡る親子関係の今を追いかけ、どうすれば良いのかを考える。

録画しておいたのをようやく観ましたが、気になるところが多々ありましたので感想を書いてみます。「・」は番組内容。「→」は私の感想。

内容

・好きなモノだけという食事に体の方は悲鳴を上げている。
・便秘に悩まされている子供が目立った。
・52%の子供が排便がないという便秘の子供の統計情報(熊本県八代地域振興局 調べ)
・原因の一つは嫌いな野菜を食べていないこと
・食物繊維の不足が便秘を引き起こすのです。
→ 便秘が多い子供の説明のために別の地域の調査結果を提示。野菜を食べていない子供と便秘の子供の因果関係は説明されていません。「朝食が偏っている子供が多い」→「その中に便秘を訴える子供がいる」→「他の地域の便秘の子供が多いという調査結果を提示」→「野菜を食べない子供が増えているため、便秘の子供が増えている。」という結論を出している。
好きなモノだけの食事と便秘の因果関係はないのに、そういう誘導が行われている。便秘の理由は運動不足とか他にも考えられるのでは?今回の食事調査結果からは、食事内容と便秘の因果関係は導けなかったから他の地域の調査結果を持ってきて、無理矢理結論を導いたように見える。報道番組がそういう意図的な報道をするのは問題でしょう。

・骨も心配です。
・人間の骨は10代までに基礎が固まります。
・子供達の食卓には牛乳や魚に含まれるカルシウムが不足。
・将来病気になる危険があります。
骨粗鬆症です。
・子供の頃、好きなものだけ食べているとこんな骨が空かすかの状態になる恐れがあります。
骨粗鬆症の原因は食事だけではないでしょう。カルシウム不足が良くないのは分かりますが、極端に不安をあおっているように見えます。

要因

性ホルモンが要因として知られるが、以外にも複数の要因が存在し、複合的に発生すると言われる。人種、体型、運動、喫煙、食事、アルコール摂取などが知られる。人種ではアフリカ系が骨粗鬆症を発症しにくい。運動の習慣がなくやせた体型、低い身長は危険因子の一つである。骨形成に欠かせないカルシウムとビタミンDが不足した食事、喫煙とアルコール摂取は食餌面における要因となる。喫煙が要因となるのはカルシウムの吸収をさまたげ、排出を促すからである。

骨粗鬆症を予防するには、これらの要因を除去する事、具体的には発症前の運動と食物の内容が重要である。

・千葉県銚子市立 本城小学校で3500枚の食卓の写真を収集。一週間調査。

・望ましい範囲
 食塩、タンパク質、脂質が過剰。
 炭水化物、食物繊維が不足。
・栄養に偏りのある食事が続いていると、子供の体に深刻な事態を招く恐れがあります。
生活習慣病です。
→ 前から疑問だったのですが「栄養の望ましい範囲」というのは誰が決めたのでしょうか。またこの範囲を超えたり低かったりすると本当に病気なるのでしょうか。人には体の大きさも個人差がありますし、生活習慣や運動量もまちまちでしょう。なのになぜ一元的な「望ましい範囲」を出せるのでしょうか。よく健康飲料などのCMで言われている「1日に必要なビタミンとかカルシウム量」というのも本当に適切なのか疑問です。

・子供の糖尿病が20年で2.7倍に増えている。
・甘いモノや脂肪の採りすぎ原因の一つと考えられています。
・一割の小学生が高脂血漿と診断されています。
・15年間で1.5倍に増加している。
脳梗塞心筋梗塞の死亡者数は年間123,000人。
・高脂血漿の子供が増え続けると将来この数も更に増加するとみられています。
→子供の糖尿病が増えた原因も食事だけではないでしょう。

・本城小学校でも3年間で運動能力が軒並み低下しています。
→これと食生活との因果関係は?単に運動不足というのが自然な推測だと思うのですが。

・授業中、集中力の続かない子供が目に付くことも気になっていました。
→今回の調査結果とそういう集中力のない子供との因果関係は見つかったのでしょうか?

・入院プログラムでは子供達に共通する特徴が見つかりました。
・好きなモノ以外はどうしても食べられないという食習慣です。
・嫌いな野菜はうちではほとんど食べていません。
・朝昼晩とバランスのとれた食事。これは予想外に子供達にはつらいことでした。
・一人一人が苦しんでいました。
→これは単に我慢することを知らないということでは?食事抜きならともかく好きなモノが食べられなくて、「一人一人が苦しんで」いるというのは、到底同意できません。

・今食べさせる一食一食が子供の体の将来を決める。
・インタビューされるお母さん「子供も(朝ご飯を)今まで作っていなかったからなのか嬉しいのかよく食べてくれるし。」「すこーし私が変われば子供達も変わるのかな。」
→ナレーションで食事の重要性を主張した直後に、今まで朝食を作っていなかった母親の反省の弁を入れる。要は母親に朝ご飯を作らせたいでしょうね。

感想

私にはこの番組が何を言いたいのか分かりません。いや、番組が視聴者にどう思わせたいかはよく分かります。
「子供達の朝食が偏っている。そのため糖尿病や骨粗鬆症などの病気が増えてきている。さらに集中力がなくなったり、老化が進むなど弊害が多い。ちゃんとした朝ご飯を食べさせないといけない。」ということなのでしょう。ブログを見るとそういう風に受け取っている人ばかりです。

しかし、今回の報道中で朝食と病気との因果関係を示すデータは一つもありませんでした。あったのはある小学校の朝食についての調査結果と、最近、子供にいわゆる成人病が増えているというデータだけ。それなのにどうして上記のような結論を導き出せるのか理解できません。また、どういう朝食が良い朝食なのでしょうか?共働きが増えており、今後も増え続けるのは明らかなのに昔ながらなの生活スタイルを強要するのは無理があるのでは?この番組はそれをやれと言うのでしょうか。食事を作っているのは女性ばかりでしたがそれは当たり前なのでしょうか。そういえば子供の問題なのに父親は一人も出てきませんでしたね。番組のホームページには「食卓を巡る親子関係の今を追いかけ」とありますが、食卓に父親はいないのですか。
今回の小学校の調査は資料価値として見ても、とてもよい試みだと思います。ただ、NHKのこの報道の仕方が納得できません。上記の結論を導くために番組を作っているように見えます。こういう結論ありきの報道をやると本当の問題が見逃されてしまいます。なぜ、糖尿病や骨粗鬆症が増えているのか、子供の集中力が低下しているのかいないのか、運動能力の低下の原因は何かなどなど。この番組を見た人はちゃんとした朝食を作らない親(特に母親)の責任が大きいと思うでしょう。

ロクなもの食べていない国、アメリカのお母さん仲間たちは、ホントーに、料理をしない。いや、料理大好きな人はいて、そういう人は大変熱心に料理する。でも、しない人のしなさ加減は、日本のまともな家庭では想像を絶するしなささである。そして、そういう人が多い。また、料理する、といったって、日本の基準から言えばこれまた激しくいい加減である。

何もアメリカのやり方が正しいとは思わないが、日本でも各家庭で生活スタイルが全く違ってきているのだから、そういう生き方を認めるような社会になるべきでしょう。

彼女の暮らす土地の議会で、「食育」がらみのトンデモ議決がなされたという。

「学校給食は、もう役目が終わった」「母親がダメだから親殺し等の子どもの犯罪が増えている」「何をどう食べさせるかは親の責任」「弁当作りをすることで親子のコミュニケーションと家庭の教育力を自覚させる」「自治体にはカネがないから給食センターを閉めたい」等々の理由で、学校給食廃止に向けた議決が出されたそうだ(保護者への聞き取り調査はゼロ)。

日本では「男女平等」といいながら、慣習的に子供の育児はほとんど母親に押しつけている。単に父親がさぼっているというだけでなく、社会全体(例えば議会とか、今回の番組とか)がそれを後押ししている。NHKスペシャルではこういう問題の特集をして欲しい。また、自分たちの報道の仕方を見直して欲しい。

日本人は糖尿病にかかる比率が異常に高い。炭水化物を多量に摂取する食生活を続けているため、膵臓がへたってしまったからだ。糖尿病を防ぐためには炭水化物の摂取を制限すること。これは国際的な常識だ。

でも、日本のお医者さんは、それを認めない。依然として米食主食の糖尿病食を処方している。これでは何万人もの陸軍兵士を白米ばかり食わせて脚気で死なせてしまった森鴎外と変わらないではないか。

今回の番組でも糖尿病予防を盛んに繰り返していたが、主要因が炭水化物の採りすぎならば、しっかりしたご飯の朝食を奨めるのは逆効果なのでは?従来考えていた望ましい朝食が成人病の原因ならばそれを報道すべきでしょう。NHKは日本人に成人病を広めたいのでしょうか。

NHKスペシャルは楽しみしている数少ないTV番組なので、まっとうな番組作りを期待したい。